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灰色の世界  作者: ken
第一章
12/140

第十一話 =狂人たちの宴=

 戦闘パートになります。

 思いの他長くなってしまいましたが、二つに分けると文字数が中途半端になってしまうと判断したため、この様になりました。


 では、どうぞよろしくお願いします。

「猪丸……先輩……?」


 思わず、雪菜は声を出していた。

 何故、猪丸健二が自分の目の前にいるのか? そして今の彼の口ぶりから、彼が自分を今の状況に導いたことは、容易に想像できる。だが、何故? ほとんど面識のない自分を?

 そして何より、健二は今、優次郎との一件により旧館にて監禁されていると聞いていた。ならば、何故今ここにいるのか?

 一つの疑問が解けた後に残ったのは、それ以上の数の疑問たちだった。

 混乱している雪菜に、健二は鼻で笑う。


「呆けた顔しやがって。思ったより余裕だな」


 そういうと、健二は立ち上がり、雪菜の前に立つ。


「今の状況、分かってんのか? お前は今、捕らえられてんだよ。エサとしてな」

「エサ……?」

「あぁ、そうだ。あのくそったれな狂人野郎を誘き出すためのな」


 それが誰を指すのかは、雪菜にもすぐに分かる。


「水瀬先生を……?」


 その名を出した瞬間。雪菜は思わず身震いを起こした。

 健二の身体から、魔力を持たぬ者ならば失神してしまう程の殺気があふれ出したからである。


「アイツのせいで、俺はあんなサビクセェ旧館に監禁される羽目になったんだ。復讐しねぇと気がすまねぇ」

「そ、それは先輩が――――――――」


 会長さんを殺そうとしたからだ。

 そう言い返そうとした雪菜だったが、それはあるものに寄って阻まれた。

 ………健二の放った魔術が、自身の右足を刺激した事によって、だ。


「あぐっ―――――!?」


 体感したことのない激痛が雪菜を襲い、思わず顔を歪める。

 見なくても分かる。今、自分の足は撃たれたのだ。どくどくと血が漏れ出す感覚も、鮮明に伝わってくる。


「何だ? お前……俺の自業自得だって言いたいのか? あぁ!?」


 怒りの形相を浮かべ、健二は雪菜に問いただす。雪菜はあまりの激痛に答えを返せずにいた。


「聞いた話じゃあ、お前は随分とあの狂人にご熱心だそうじゃねぇか…………もしかしてあれか? 長いものに巻かれようって魂胆か? ハッ! 顔に似合わず、お前も大胆な事するじゃねぇか」

「わ、たしは……そんなつもり、じゃ……………うぐっ!!」


 今度は腹を撃ち抜かれる。ぴちゃぴちゃと地面に垂れる血の音が、激痛に揺れる脳内にやけに響いた。


「そんなつもりじゃねぇってんなら……何故、お前はあの狂人に付きまとう?」

「そ、それ、は……せ、んせい、の、事………知り、たく、て…………っ!」


 次は左腕。


「知りたいだぁ? あの狂った野郎の狂った思考を知りたいってんなら……お前も素質あるぜ? 狂人のな」


 えらく不機嫌そうな声音で、健二は雪菜を責め立てる。

 雪菜の脳を支配する感情は三つだけだ。

 痛い。

 怖い。

 分からない。

 その三つだけが、今の雪菜にとっては全てだった。


「何でなんだ……お前」


 そう呟いたのは、健二だった。

 痛みに重くなった瞼を必死に上げ、雪菜は彼の顔を見やる。


「何で、お前はあの狂人に味方する? あの狂人を知ろうとする?」


 健二の問いは、雪菜にとって意外なものだった。何故、この少年がそんな事を聞こうとするのか。聞いてどうなると言うのか。答えは……分からない。

 

「答えろよ、何故だ?」

「そ、れは……」


 絞り出す様な声で、雪菜は必死に言葉をつむいだ。


「みな、せ、先生、を……たす、け、たい、から………」


 雪菜の答えを聞けば、健二は目を見開いた。信じられない、と言った様子で。

 だがそれは、次の瞬間にはもう、怒りを前面に押し出した表情に変わり果てる。


「ふざけんな!!」

「ガッ……!?」


 再び、雪菜の身体に激痛が走った。

 健二が形成した炎の剣によって、右肩から上半身を袈裟懸けに切り裂かれたためだ。

 その後も、彼は感情を吐きだしながら、雪菜の身体を縦横無尽に切り裂いていく。


「アイツを救いたいだと!? ふざけんのも大概にしやがれ!!」

「ぐぁ……」

「そんな事本気で思ってんなら、お前のそれは唯の偽善じゃねぇか!」

「うぐっ!」

「偽善で人が救えるなら、誰も苦労なんざしねぇんだよ!!」

「がはっ!」

「偽善でアイツみてぇな狂人が救われるなら、狂人なんてそもそも生まれやしねぇんだよ!!」

「げほっ!」

「そもそもだ! テメェみてぇな汚れも知らねぇガキに、アイツが救えると本気で考えてんのか!?」

「っ……!」

「テメェみてぇな人生を送ってきた奴に、狂人を完璧に理解できると本気で思ってやがるのか!?」

「…………………」

「思い上がんのもいい加減にしろよ! 甘ちゃんがよォ!!!」


 ヒステリックな叫びを終え、健二ははぁはぁと肩で息をする。

 目の前にいるのは、体中を健二によって引き裂かれ、大量の傷と火傷を負い、色のない目で虚空を見つめる雪菜の姿だった。血が大量にしみだしており、このままでは十中八九、失血多量で命を落とすだろう。

 口は半開きになり、一筋の血が垂れ落ちている。もう声も発せない様だった。 


「所詮、こうなんだよ……力のねぇやつが、いくらそんな減らず口を叩こうが、結局は無力なんだよ」


 誰に言うでもなく、健二は独り言の様にささやく。


「世の中は力だ。力が全てだ。弱ぇ奴は殺され、強ぇ奴が生き残る……それが全てなんだよ、くそったれが」


 健二から吐き出された言葉。それは間違いなく、彼の本音だ。

 彼がどんな人生を送ってきたのかを、雪菜は知らない。だが、きっと過去に何かがあり、彼は力こそ全ての世の中であると言う結論に至ったのだろう。

 とろけた思考の中で、雪菜は思う。

 

(あぁ、そっか……猪丸先輩は……きっと……)


「せん……ぱい……」


 蚊の鳴く様な声で、雪菜は言う。

 健二にはそれが届いていた様で、彼は再び雪菜をにらみつけた。

 雪菜の瞳は、若干ではあるが色を取り戻し、かろうじて彼をみつめていた。

 そして、彼女は告げる…………瞳から、血とは違う透明なものを零しながら。


「ごめ………ん………な、さ………い………」

「っ!」


 突如紡がれた謝罪の言葉に、健二は目を丸くした。


「ごめ、ん………なさ、い………せん、ぱい………の………こ、と………なに、も、しら……なく……て……。

 これ、から、は………ちゃ、ん……と……せ、んぱ、い、の、こ……と……みて……ます……か、ら」


 そう、健二が優次郎をここまで恨んでいる理由。それは、彼が赴任して来た時の一件では無いのだ。

 きっと、彼は羨ましかっただけなのだ。狂人のレッテルを張られながらも、多くの者から愛されている優次郎が。

 謹慎処分だった彼が、どこでその情報を得たのかは分からない。だが、健二は確実にそれを知っていた。

 だからこそ、人々から恐れられる筈の存在でありながら、愛を受けていた優次郎に嫉妬したのだ。

 

「…………れ」


 何かを、健二はつぶやく。

 その言葉は、満身創痍で意識も混濁している雪菜には届かない。そんな事は健二とて分かっている。自分か彼女をこうしたのだから。しかし、健二は言葉を止めなかった。


「……まれ……だまれ………黙れ……ッ!」


 キッと目を見開き、健二は両手を雪菜の首へと持って行った。


「ぐっ! げほッ!!」


 喉を締め付けられ、雪菜は短く息を吐きだす。

 だが、健二は手を緩めなかった。


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れダマレだまれ黙れだまれダマレ黙れェェェェェェェェェ‼‼‼‼‼‼‼」


 その言葉は呪詛の様に、枯れ果ててなお健二の口からあふれ出して止まらない。それはまるで、自分自身に言い聞かせる様に、薄れゆく意識の中で雪菜は感じた。

 もう、声は発せない。視界もぼやけてしまっている。健二を受け止めるには、雪菜の――――――16歳にも満たない少女の身体では、あまりにも小さすぎた。


「もう……いい………」


 しばらくして、健二は手を離し、再び右手に炎の剣を形成する。

 彼の瞳は本気だった。本気で、今この場で、1人の少女を葬り去ろうとしているのだ。


(あぁ……わた、しじゃ……ダメ……なんだ……)


 自分では…………健二を救えなかった。そんな冷たい現実が、燃え盛る刃によって語られている。

 そしてその刃は、今まさに雪菜へと振り下ろされようとしていた。


「もう……殺す……テメェの戯言は聞き飽きた……」


 振り下ろされる直前、雪菜の脳裏に浮かんだのは――――――会って二週間ほどしか経っていないにも関わらず自分の記憶に刻み付けられた、1人の青年の笑顔だった。

 

「せん……せ……い……」


 雪菜が最期の言葉を紡ぐのと、その刃が振り下ろされたのは、ほぼ同時だった。



















「ねぇ……何してんの? 猪丸君」


 だが、次の瞬間。

 雪菜の身体を刺激したのは、刃によって切り裂かれる激痛でも、命の途絶える音でも無かった。

 かろうじて開けた視線をそちらに向ければ―――――――


 そこには、いつもの様にニコリと笑い、健二の後ろから刃を素手で止めている優次郎の姿があった。


「て、めぇ……」


 健二はその言葉を受け、目線だけを後ろへと向ける。


「質問だよ、猪丸君。キミは謹慎中の筈だよね?

 それなのに…………何でのうのうと外に出てるの? 何でこんな物騒なもんを出してるの?

 何で―――――――――」


 刹那。

 バキン! と音を立て、炎の剣はおられてしまった。

 瞬間、優次郎は健二の真横へと立ち、言った。


 ――――――――――――――初めて会ったときと同じ、狂った様な笑みを浮かべて。


「ナンデ――――――――雪菜チャンハ死ニソウニナッテルノカナ?」


 答える間もなく。健二の身体は優次郎の拳によって、倉庫の壁へと吹き飛ばされていた。

 優次郎は隙を与える事も無く、今度は逆手に持っていた炎の剣を火球へと変え、そのまま健二の飛んで行った方向へと放つ。

 爆音が倉庫に響き渡り、健二の吹き飛んだ方では、周りにあった棚などが放り出され、ちょうど健二を下敷きにする様な形となった。

 優次郎はそれを興味なさげに見送ると、雪菜の方へと向き直る。


「せ、ん……せ……」

「喋らないで、雪菜ちゃん」


 何かを言おうとした雪菜を制し、優次郎は右手で彼女の頭を撫でた。

 そしてそのまま右手を雪菜の全身を目がけ、下から上へと一気に振り上げる。すると、彼女を縛っていた魔術による鎖が解かれ、雪菜の身体は力なく放り出される。優次郎はそれを受け止めると、今度は回復作用のある結界を自分と雪菜を包むように張った。


「これで、しばらくすれば出血は止まって、呼吸も安定するよ」


 その言葉通りと言うか、その言葉より早くというか、雪菜の身体は既に血が止まり、傷は修復を始めていた。呼吸も落ち着いて出来る様になるが、体中の疲労と痛みはまだ取れそうにない。


「まぁ、あくまで応急処置みたいなもんだから、油断は出来ないけどね。本格的な治療は、学院に戻ってから医療室の先生にやってもらおう」

「あ、りがとう……ございます……」

 

 未だ声を満足に発せない雪菜だったが、せめてもの力を振り絞って、優次郎へと礼を述べた。

 それに対して、優次郎はいつもの笑みで答える。 


「構わないよ。生徒を助けるのが、ボクたち講師の役目だって、叶さんも言ってたしね。

 それに――――――――雪菜ちゃんはよく頑張ったよ」

「…………私は、何も出来ませんでした」


 よく頑張った。いや、それは違う。

 自分は結局、健二を救う事が出来なかったのだ。彼の心の痛みに気づいたにも関わらず、である。

 愛が欲しければ愛する。家族が欲しいなら、自分が家族代わりになる。温もりが欲しいなら寄り添う。

 それが、雪菜の考える救済だ。そして今回、健二は優次郎に嫉妬していたという事にも気が付く事が出来た。だからこそ言ったのだ。

 自分が見ている。自分がちゃんと健二を見ているから、と。

 だが、それは届かなかった。健二を救うどころか逆上させてしまい、挙句の果てには殺されかけたのだ。

 結局自分は、彼の心を救いきれなかった。その結果が全てだ。

 だが―――――――優次郎はなおも笑みを絶やさない。


「確かに、猪丸君を救う事は出来なかったみたいだね」

「っ」

「でもさ、猪丸君……何かずっと叫んでたじゃんか」


 そう言って、優次郎は雪菜を壁に寄りかからせ、再び頭を撫でてやった。

 その右手はとても温かく、雪菜はしっかりと感じる事が出来た。彼の―――――水瀬優次郎の温もりを。彼の「生」の証を。


「その前の会話は、ボクもよく知らないけどさ。でも、あれだけ叫んでたって事は、きっと図星を突かれたって事なんだよ。図星を突かれたから、それで心が刺激されて、ああやって叫んじゃったんだよ、猪丸君は。

 それにさ、一日で誰かの心を完璧に救えるわけないじゃん」


 さも当然、と言った様子で言った優次郎。

 だが、それは雪菜の目を見開かせるには十分なものだった。


「キミは今日、猪丸君の心を救ってはいないけど、でも救う切っ掛けは掴んだんでしょ? そして、彼を救おうと努力したんでしょ? だったら凄い事だよ、それは。だから……雪菜ちゃんはよく頑張ったんだなって、ボクは思うんだけど」


 自然に、雪菜の頬に雫が垂れた。

 それはまだ血が止まってなかった、と言うわけでは無い事は、雪菜にも分かる。

 気が付けば自分は、子供の様に震えて優次郎にしがみついていた。


「せん、せい……あり、がとう……ございます……」

「いいんだよ、雪菜ちゃん。

 キミは、綺麗すぎるんだ。とても純白で、純粋で、無垢で…………とっても綺麗なんだよ」


 そういう優次郎の表情は、相変わらず笑っていた。

 だが……雪菜は思った。その笑顔が、どこか悲しんでいる様に。













「あーあ、猪丸健二は、水瀬優次郎を殺せなかったみたいだね」


 その時だ。

 雪菜にとって聞きなれない声が、突如上から響いてきた。雪菜は何事かとそちらを見やり、優次郎は――――――嗤って(・・・)そちらを見た。

 そこにあったのは、優次郎が暴れた事で穴が空いた天井と、そこに座り込む1人の少女。

 髪は深い緑色で、右側で短く結ばれている。目はくりっとして大きく、髪と同色に輝いている。黒いコートに身を包んだその少女は、まだ10才にも満たない様な子だ。

 

「……誰……?」

 

 思わず、雪菜は問う。

 だがそれに答えたのは少女では無い。


「………天ヶ崎玲奈あまがさき・れいな

「え?」


 突如告げられた名。それを受け、少女は優次郎を見てニコリと笑った。


「なんだ、覚えててくれてたの? 嬉しいなぁ。キミの事だから、すっかり忘れられてるんじゃないかと思ってたよ」

「ボクも嬉しいよ。キミが忘れていないみたいでさ。

 それに、そっか…………猪丸君の脱走に協力したのはキミだね?」

「そーだよ! そこで伸びてる不良君とは、ちょっとした知り合いでね。

 その人がどーしてもキミに復讐したいって言うから、手伝ってあげたの!」


 凄いでしょ! と、無い胸を誇らしげに張る少女、玲奈。

 優次郎はスッと立ち上がり、玲奈の足元まで歩み寄った。

 すると玲奈は、ムスッとした表情でコートの裾をつかむ。その頬は、心無しか赤く染まっていた。


「あっ! もしかしてレイちゃんのパンツ見ようとしてる!? 

 ダメだよー! いくら優ちゃんとレイちゃんの仲で、しかもキミがレイちゃん好みのイケメンだからってさ!」

「御心配には及ばないよ。お子様のそんなもん見たがる様な性癖は、あいにく持ってないからさ」

「むー。レイちゃんお子様じゃないもん! もう19歳の立派なレディなんだからね!?」


 19歳……?

 雪菜は疑問視せずにはいられなかったが、敢えてそこは口に出さない事にした。


「あーはいはい。それよりさ、キミの目的は何?

 キミがただでこんな事する人じゃないって事は、ボクも知ってるんだけど」

「? そんなの決まってるじゃん」


 そう言って、玲奈は優次郎の様な笑みを浮かべた。

 とても純粋で、無邪気で――――――――狂った笑みを。


「レイちゃんはただ、優ちゃんを殺したいだけ。

 とっても可愛くて、大好きで、世界一愛おしい……そんなキミの死に顔をみたいだけだよ」


 さも当然と言った様子で、玲奈は言い放った。

 雪菜は驚愕の表情を浮かべ、そして思う。

 この子もまた、彼と同じ「狂人」なのだと。


「そっか。変わらないね、キミは」

「うん! ずーっと大好きだもん! 優ちゃんの事」

「そっかぁ、それは嬉しいなぁ。うん、ボクも大好きだよ? キミの事―――――――キミト同ジ位サ」


 そう言って笑う優次郎の笑顔は、今まで雪菜が視たどれよりも狂っていた。

 瞳は闇と言う闇が何重にも覆われた様に思われ、体中からは健二のそれとは比べ物にならない様な魔力が溢れだしている。そしてそれは、まだ魔術に関して素人レベルでしかない雪菜でも分かるほど、殺気がこもっていた。


「そっか、嬉しいなぁ。でもさ、優ちゃん……浮気はよくないよ?」


 そういうと、玲奈は右手に魔力で形成された『何か』を召還し、それを向けた――――――雪菜へと。

 

「『あの時』と言い、今と言い……そんな可愛い子侍らせちゃってさ…………私も結構嫉妬深いんだよね。

 だから――――――――その殺しちゃっていいよね?」


 その問いに、答えなど必要なかったらしい。

 答えを聞く間もなく、玲奈の放った魔術は雪菜へと飛んで行った。

 咄嗟に雪菜は目を閉じる。だが――――


 キンッ!

 

 と言う、何とも言えない音が耳に届き、目を開けた。

 するとそこには、


「…………綾瀬川先輩?」


 右手を玲奈へと突き出し、彼女をにらみつける綾瀬川瞳がいた。ちょうど自分と玲奈の間に入る様な形になっており、先ほど玲奈が放った魔術も消え失せている。


(助けて、くれたの……?)


 そんな事を考えている雪菜を知ってか知らずか、瞳は右手をおろす。


「お久しぶり…………悪いけど、この子は私の大事な後輩なの。そういう物騒な事は見逃せないわね」

「なぁんだ、瞳ちゃんか……ホント、キミたち(・・・・)は何時になってもレイちゃんの邪魔をするね」

「あら。それは私も入っているのかしら?」


 また新たな声。

 一斉にそちらを見れば、そこには全員が見慣れた人物が立っていた。


「やぁ、叶さん。猪丸君なら、そこで気を失ってますよ?」

「えぇ。ごくろうさま、ユー君。そして……久しぶりね、玲奈ちゃん」


 微笑みながら手を振る叶。だがそれを受けた玲奈は、あからさまに嫌そうな顔を浮かべた。


「瞳ちゃんの次は叶ちゃんか。全くもう……でも、これじゃ少し分が悪いかな」


 そういうと、玲奈は立ち上がり、天井の上に立った。


「あら、逃げちゃうの? 久しぶりの再会だって言うのに」

「生憎だけど、レイちゃんが会いたかったのは優ちゃんだけなの。邪魔者が増えちゃったし、もういいよ。でも……これだけは覚えておいてね、優ちゃん」


 そういうと、玲奈は優次郎を見つめ、怪しく微笑んだ。

 それはその幼い容姿に似合わず、とても艶めかしいものだった。


「レイちゃん、本気でキミの事が大好きなの。だから……キミを独り占めしたい。

 そのためにも、絶対殺すからね? キミを殺して、その身体をおうちに持って帰って、ずーっとレイちゃんだけの優ちゃんにしてみせるから……待っててね? 優ちゃん」


 そう言って、玲奈は何処かへと姿を消した。瞬間移動魔術を行使したのだろう。

 その場に残ったのは、状況を理解しきれない雪菜と、何とも言えぬ表情を浮かべる綾瀬川姉妹、気を失ったままの健二、そして――――――――未だに嗤ったまま表情を変えず、玲奈がいた場所を見つめる優次郎だけだった。

 ・・・・・・・・・・・・・・。


 ここに来て思います。優次郎強くしすぎました。

 何か最初の区切りを迎える直前なのに、その相手である健二が完全に咬ませ犬ポジションに……………。

 違うんです! 健二が弱いんじゃないんです! 優次郎がチートすぎるだけなんです!!

  

 

 と、見苦しい言い訳はこの辺で。

 さて、今回新キャラが登場しましたね。

 天ヶ崎玲奈。うーむ、何か一筋縄ではいかない感じのキャラ……。

 そしてこの子、完全に合法ロリです。みなさん騙されないでくださいね。

 後、完璧ヤンデレ痴女ですね、はい。うん……別に私の趣味で作ったキャラじゃないですからね。物語の進行上必要なキャラですからね。勘違いしないでよね(棒)

 

 では、言い訳と言うなのあとがきはこの辺で。

 次回で、とりあえず一つ区切りを迎える予定です。

 また気が向きましたら、よろしくお願いします。

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