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灰色の世界  作者: ken
第七章
105/140

第百四話 =準備は着々と進んでいく=

第百四話です。よろしくお願いいたします。


 土曜日。午前七時。

 街の喫茶店の隅で、玲央はボーっと窓の外に目をやり、行きかう人々を眺めていた。こんな時間にモーニングと洒落こむ様な趣味は無いが、待ち合わせ相手に指定されたのだから仕方がない。

 早朝という事もあり、そこまで人は多くない。だが、おそらく飲み会帰りであろう人々が、ケラケラと笑いながら帰路についているのが見えた。

 自分も四、五年前は、ああやって飲み歩いて朝帰りをしていたものだ。主に叶の愚痴であったり、相談に乗る事が多かったが。毎度毎度やけ酒に付き合わされ、無理やり飲まされ、最初の頃は記憶が無いなんてザラだったなと、回想が捗る。

 思えば、最近はそう言った事もめっきり減ってしまったなと思う。元々叶に誘われて行く事が多かったし、その彼女が多忙となったのだから当然だが。

 最後に行ったのは、優次郎の歓迎会の時だ。思えば数年ぶりに他人と酒を飲み交わしたなと思う。


(まぁ、ミナセ君が飲まされ役やってくれちゃったりしちゃったから助かった……のかな?)

 

 結果的に泥酔した優次郎を介抱する羽目になってしまったので同じか、と思わず笑みが零れる。

 ベッドで呑気に眠る優次郎を見て、昔の自分を思い出してしまったのも、最早懐かしい。

 

「おまたせー!」


 自分へと向けられたであろう声に顔を動かせば、そこには今日待ち合わせしていた人物。物思いに耽ってしまい、入店に気付かなかった様だ。


「どったの? なぁーんか感傷に浸っちゃってる系とか?」


「いや、そんな深刻な問題じゃないよ。おはよ、キトウちゃん」


「うん! やっほー玲央ちん! こないだはあんがとね♪」


 待ち合わせの相手は、紗友里だった。

 ひらひらと玲央に手を振りつつ、彼と対面する位置へ腰かけた。


「別に良いよ。シエルちゃん、経過は良さそう?」


「あー、身体の方はって感じかな?」


「なるほどねぇ……まぁ、あの子の性格ならそうなちゃったりしちゃっても仕方ないか」


 本当に、まだ若い。自分は本人を前に口に出しはしないが、周りが言うのも頷ける。

 まだかすかに湯気が残るコーヒーを口にすれば、店員がやってきて紗友里に注文を確認していた。

 

「じゃーアイスコーヒーとサンドウィッチで♪」


「かしこまりました」


「キトウちゃんにしちゃ、随分と少なかったりしちゃうね?」


「むー! いくらアタシでも朝からそんな食べないっての!」


 店員が戻った後、玲央がそんな事を言えば、紗友里がわざとらしく頬を膨らませて見せる。

 こういう所も、あの(・・)にそっくりだ(・・・・・・)。そんな事を考えながら。


「それで? こんな朝早くから呼び出して何の用だったりしちゃうのかな?」


「にゃはは☆ 玲央ちんも相変わらず良い性格してるね♪ そんな事……聞かなくても分かるっしょ?」


 頬杖をついて玲央を見つめる紗友里の表情は、確信の色を宿していた。

 そんな彼女を見れば、玲央も思わず笑みが零れる。こういった心理戦で紗友里に勝つなど、流石に出来はしないと。


「ごめんごめん! 分かってるよ、真衣の事でしょ?」


「そーそー! 正確に言えば『呪術の事』、かな?」


 やっぱりか。

 玲央は残っていたコーヒーを一気に飲み干し、息をつく。 


「早朝の喫茶店なんて言ってきた時から、そんな事じゃないかと思ってたよ。ミサコちゃんに聞かれたくないって事だね?」


「かいちょーのお達しでね♪ アタシも、まだちょーっとばかし早い様な気がしてたし!」


「まぁ、そうだね。あの人も色々と抱えてるから、再来週までは待ってあげて欲しいかな」


「? なんかあるん?」


「それはまた教えるよ」


 そんな会話をしていれば、店員がサンドイッチとアイスコーヒーを運んでくる。玲央も御代わりを問われたが、断った。

 店員が二人に頭を下げて戻っていき、再び二人きりの空間が訪れる。


「『呪術』に関してか……一応聞いておくけど、取締委員会は何処まで情報を持ってるの?」


「なーんにも。そもそも何百年も前の歴史書にしか載ってないような代物だしねー。伝説上の存在、作り話の一つだって思ってたからさ」


「了解。じゃあ、そうだな……何から知りたい?」


 紗友里はふっと不敵な笑みを浮かべ、顔を玲央へと近づけていく。


「まーずーは! 根本的な所からきかせてほしーな☆ 『呪術』ってさ、一体なんなん?」


 しばし紗友里の顔をじっと見つめた後、玲央はぽつぽつと話し始めた。


「……『呪術』って言うのは、この辺りじゃキトウちゃんが言ったように『伝説上のもの』で間違いないよ」


「この辺りじゃ、ねぇ……って事は?」


「僕等の生まれた土地には、いたんだ。呪術を研究して、実用化する悪趣味な人間がね。真衣もその一人だよ。キトウちゃんが知らない位だから分かるかも知れないけど、情報は完璧に隠蔽してるみたいだけど」


「ホントーにそうだよねぇ。でも玲央ちんは知っていた……何でかにゃー?」


 分かり切った事を聞くものだ。

 少し呆れながらも、玲央はそれに答えた。


「うちは代々、医者を輩出してきた家系だからね。その中には、当然人の道を外れた医者もいた。その人が情報を後世に残していたから知ってた。それだけだよ」


「なーる☆」


 満足げに微笑み、紗友里は次の疑問を投げかける。


「じゃあ次の質問ね♪ その『呪術』ってものは、いつ頃生まれたのかな?」


「詳しい事は知らないよ。でも、少なくとも百年かそこらは経ってるみたい。歴史資料に乗ってる『呪術』って言葉に興味を持った人間が、魔術をアレンジして作ってからね」


「そんな代物があるって情報が表に出ちゃえば……」


「当然『禁忌』だろうね。実際、『呪術』の存在を知った一部の人たちからはそう認識されてたから」


「『呪術』の研究者以外にも知ってる人いたん?」


「正確には、『呪術を研究している事を知った身内の人間が止めようとした』って所かな」


「なーる……一応聞くけど、その人たちは?」


「……殺されたみたいだよ。親族だろうと、恋人だろうと、果ては自分の親や子であってもね」


 察しはついていた。だが、顔が歪むのを止められなかった。

 

「そこまでしないと情報を護れないなんて……下等だね、そいつら」


「はは、そうだね」


 サンドイッチにかぶりつく紗友里が、玲央には何処か頼もしく思えた。


「じゃあ、大橋真衣もその研究者に会って?」


「そーいう事。多分、家を出る直前に知ったんだと思う。あの子の様子が変になったのも、そのあたりからだったしね」


「家を出たのは?」


「あの子が十四歳だったかな」


「ふむふむ……」


 何やら考え込む紗友里。彼女の持つ情報と統合しているのだろう。逆に紗友里が持っていて自分の知らない情報があれば教えて欲しいものだが、そこは彼女も情報のプロ。いくら玲央でも、そう易々と教えたりなんてしないだろうと、口には出さなかった。


「他には、何か聞きたい事ある?」


「んー、とりあえず『呪術』に関しては、今はその位かな。玲央ちんが戦場で大橋真衣に会った時の事は資料で見てるしね。また分かんない事があったらお願いするよ!」


「了解だよ」


「でも、最後に一つだけ聞いていい?」


 ふわり。

 突然に、玲央の頬に紗友里の髪がかかり、くすぐったさが襲う。

 


「大橋真衣ってさ、もしかして…………『先天性魔術』持ってたりしちゃう系?」



 あの日、真衣と別れる直前。紗友里は確かに見た。赤く染まる、真衣の瞳。あれは先天性魔術を行使する時の特徴だ。

 ならば真衣は、先天性魔術の保持者なのでは無いか。紗友里が聞いているのは、そういう事だ。

 玲央も、それを理解している。だからこそ、本当に人が悪いなと、そう感じる。

 全ての感情をしっかりと抱えながら、玲央は答えを告げた。



「いいや、持ってないよ」



 答えを聞いて、紗友里は玲央から顔を離す。

 その表情を見るに、どうやら満足のいく答えが聞けた様だ。


「あんがと、玲央ちん!」


「どういたしまして。って言うか、キトウちゃんも検討がついてたんでしょ? 真衣が先天性魔術を持っていない事」


「なんで、そう思うん?」


あの(・・)の事を調べたんだったら、知ってる筈だと思ったからね」


「…………にゃはっ☆」


 ビンゴ。玲央も乾いた笑みを浮かべた。


「ホント、人が悪いね。知ってる事まで聞いて来るなんてさ。試されてる気分だったよ」


「情報戦は騙し合いの世界、だよん♪ それがほんとーに正しい情報かどうかを確かめるのも、大事なお仕事なんだよねー☆」


 紗友里は残っていたコーヒーを一気に飲み干し、その場を立つ。


「話はそれだけ! 改めて、あんがとね! お礼といっちゃなんだけど、ここはアタシが持つよ♪」


「んー……それはそれで有難かったりしちゃうんだけどね。でも、僕としては別のお礼が良いな。此処は割り勘で良いからさ」


「別のお礼?」


 目を丸くして首を傾げる紗友里。流石にこの情報は持っていない様だなと、玲央は口角を吊り上げた。


「別に難しいことじゃないよ、ただ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだ。君にとっても悪い条件じゃないと思うからさ」






















 同日。午前十一時。

 魔術学院の学食は賑わいを見せていた。当然、学院が休んでいる土曜日は学食も休み。

 では何故、学食に人が集まっているのか。

 理由はただ一つ。来週行われる学園祭の打ち合わせと採寸の為だ。現在それぞれの採寸を終え、各々自分の仕事をしたり、朱美が持ってきた衣装のサンプルを見て自分が着たいものを選んだりしている。

 そして代表者の朱美は、椎名と共に料理の打ち合わせを行っている最中だった。


「学園祭っつう事も考えて、メニューはテイクアウト可能なもんも混ぜてみたが、どうだ?」


「はい……ありがとうございます……問題無いです……」


「そうか。なら、これで進めるぞ」


 料理の打ち合わせを終え、椎名は仮のメニュー表を閉じ、カウンターへ置く。

  

「あの……本当に……ありがとう、ございます……」


「気にすんな。うちも学生に戻った様な気がして、案外楽しいもんだから」


「もう十年以上前だもんねー!」


「よし、今日の昼飯は思ったより材料減らずに済みそうだな」


「ごめんなさいー!」


 椎名に泣きつく優次郎を見て、朱美もくすりと笑ってしまった。本当に懲りない人だ。

 そんな光景を微笑ましく見ていると、別の声が自分の耳を打つ。


「本野さん、当日のテーブルクロスだけど、この色でいいかな」


 その人物が持つそれを見てみる。自作するとの事だったが、色合いも縫い目も完璧だ。自分より年下なのに、よく此処まで出来るものだと素直に感心してしまう。


「ありがとう、ございます……完璧、です……」


「そっか、安心したよ。なら、これで作って来るから」


「はい……それと……急な、お願いだったのに……接客に、裁縫まで……ありがとう、ございます……古谷さん……」


 改めて礼を言い頭を下げれば、椎名の紹介で手伝ってくれる事となった古谷境子は微笑みを浮かべる。


「構わないよ、先輩の最後の思い出作りの為だし。そういうの、嫌いじゃないから。

 それに……『変わりたい』って気持ち、私もよく分かるからさ」


「古谷、話が終わったら昼飯作るから、手伝ってもらえるか?」


「了解。じゃあ、手伝って来るね」


 境子が椎名を追い、厨房へと入っていく。その後ろ姿は何とも頼もしく、それでいて強いものだ。自分より一つ年下だと言うのに。

 そんな事を考えていれば、もう一人。ほぼ初対面に近い人物がやって来る。


「お疲れ様、本野。これでひと段落か?」


「あ、澄田先生……はい……後は服を作って……前日に衣装合わせと、飾り付けを、したら……もう。大丈夫です……」


「そうか。なら一安心だな。だが、無理して倒れて医務室になんて来ない様にな」


 答えを聞き、美沙子はおどけた様に笑う。

 境子と言い彼女と言い、ほぼ見ず知らずの他人じぶんの為に手伝ってくれるのだから、感謝しかない。


「先生も……ありがとう、ございます……コスプレ、なんて……あまり、したがらない人……多いので……特に……大人の方は……」


「はは、まぁ少し照れくさいがな。それでも、私だって此処の養護教諭になった身だ。生徒の為になるんなら、多少は協力したいもんさ。それに、そう思っているのは私だけじゃないだろう?」


 言われて、辺りを見渡してみる。

 優次郎に辰正、椎名、境子、美沙子、そして『出来る限りの事は協力する』と、態々今日も来てくれた芽衣に瞳。

 そして驚く事に、学院長である叶まで来てくれていた。しかも何と、接客も手伝ってくれると言うのだから、聞いた時は耳を疑ったものだ。


『学院長の仕事は最初と最後の挨拶くらいだから、構わないわよ。それに、久々にコスプレ喫茶の接客なんて、ちょっと楽しそうだしね。学生時代を思い出すわ♪』


 最初は断ろうとしていたが、周囲の『せっかくだからやってもらえ』という後押しもあり、こうした運びとなった。

 本当に、優しい人達ばかりだ。自分が知らなかっただけで、この学院に関わる人間がこれだけ温かい人達なのか。

 学生生活も半年を切った今、ようやく満たされて来たような感覚になり、自然と笑みも零れた。


「はい……本当に……優しい人達、ばかりで……嬉しい……です……」


「あぁ。絶対、成功させような」


「……はい!」


 朱美の笑顔を見て、自然と美沙子も笑った。


「しかし、玲央の奴遅いな……『少し用事を済ませていく』と言っていたが、もう十一時か。採寸も、後はアイツだけなんだろう?」


「あ、はい……」


 そんな会話を聞いていたかのように、カラカラと音を立てて扉は開かれた。


「こんにちは! あ、モトノちゃん。ごめんねー遅くなっちゃったりしちゃって」


「あ、黒岩先生……こんにちは……」


 入ってきたのは、やはり玲央だった。

 

「遅かったな玲央。用事とやらは済んだのか?」


「あーうん! もうばっちり! それにさ――――――モトノちゃん」


「? はい……」


「もう二人・・、手伝ってくれる人見つけて来ちゃったりしちゃったよ!」


 その言葉に、全員が玲央の方へと向き直った。

 

「ホント? 玲央先輩!」


「勿論! こんな嘘はつかないさ。二人とも話をしたら了承してくれたよ。一人はちょっとごねたけどね。モトノちゃん、紹介して良いかな?」


「是非……お願いします……」


 本当に、温かい人ばかりだ。先ほどと同じ感情が、朱美の心を温めていった。

 

「しかし、まさかお前が見つけて来るとはな。正直、意外だ」


「でしょ? それはそうとシーナちゃん、ありがとね!」


「あぁ?」


 何故いきなり礼を言われなければならないのか。

 怪訝に歪む椎名の表情がそう言っているのを感じ、玲央はニコリと笑ってみせた。


「一人は学院ここのOBなんだけどね? シーナちゃんの名前を出したら、すぐに了承してくれたよ」


 ますます分からない。何故自分の名前一つで、そうなっているのか。

 深まる謎に、椎名は一度調理の手を止め。玲央へと首を動かした。


「誰だ、そんなもの好きは」


「それはね―――――――」


 玲央が名を伝えようとした時だった。


「アッタシっだよーん♪」


 その瞬間、椎名は――――――何とも言えない、怒っている様な、呆れている様な、そんな表情を浮かべ、玲央の肩から顔を出した人物を見た。


「…………何でお前がいるんだ、紀藤」


「おっひさーシィちゃん♪ 玲央ちんから、手伝えばシィちゃんのご飯食べられるって聞いてさー! もう二つ返事でオッケーしちゃったよ☆」


 はぁ、と大きなため息が椎名から漏れた。

今回もありがとうございました!

境子ちゃん出てきましたが、彼女のシーン書くの結構好きなんですよね。なんかこういうサバサバした女性、よくないですか? 良いですよね?(圧)

しーちゃんもそうですけど、ホント好きです。趣味前回です。はい。すみません。


そんな感じで百四話です。

叶さんどうしようか迷いましたが、やらしちゃえ☆って感じで手伝ってもらう事に。まだ二十五歳だし、コスプレもオッケーでしょう。

今からどんなコスさせようか考えて楽しいです……ぐへへ


では今回はこの辺で

また次回もよろしくお願いします!

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