【続編・第3話】:過去の影と、溢れ出す独占欲
二人が森の空き家で暮らし始めて、しばらく経ったある日の昼下がり。
木洩れ日が差し込むベッドの上で、愛を確かめ合うように互いの肌を貪っていた時のことだった。
「……っ、それやめて!」
エスタロッサとリュシールが熱く重なり合おうとした瞬間、リュシールが悲鳴のような声を上げた。
予期せぬ拒絶に、エスタロッサの身体がピキリと固まる。
「……ごめんなさい。その……」
リュシールは気まずそうに顔を背け、震える声で言葉を絞り出した。
「……する時、おでこにキスする癖。前は……そんなこと、してなかったよね? つまり……その、前の奥さん(フローネ)としていた時の、癖なのかなって……」
その言葉を聞いた瞬間、エスタロッサの顔からサッと血の気が引いた。
「すまない……! そんな癖がついているなんて、自分でも気づかなかった……。もう、絶対にしないから。……だから、泣かないでくれ」
エスタロッサは慌ててリュシールの頬に優しく手を添えた。指先に伝わるのは、つうっと伝う冷たい涙の感触だった。
「ごめんなさい! エスタロッサのせいじゃないのに……っ! そんな小さなことすら許せなくなってる自分に、吐き気がするよ……!」
リュシールは溢れ出る涙を抑えきれず、胸を激しく上下させた。
「でも……だって……っ! 君は昔、僕だけのものだったのに……! 僕の……僕だけのっ……!」
口に出すたびに、胸が引き裂かれそうなほどの痛みが襲いかかる。自分が『忘れの魔法』をかけたからこそ生じてしまった、彼が他者と過ごした空白の年月。その動かぬ事実を突きつけられたようで、胸の奥から醜くドロドロとした独占欲が芽生えていく。
(あの頃の……ただ君の幸せだけを純粋に願っていた自分には、もう戻れない……)
自己嫌悪と嫉妬に苛まれるリュシールに対し、エスタロッサは責めるどころか、愛おしさに満ちた眼差しで彼の顔中に幾重もの熱いキスを降らせた。
「お前に嫉妬されるのは……悪くない気分だ。だが、お前が一人で苦しむ姿を見るのは、何よりも胸が痛む」
エスタロッサはリュシールの涙を丁寧に吸い上げると、囁くように甘く、力強い誓いを告げた。
「好きなだけ俺を罵ってもいい。どんなに汚いことを考えてくれたって構わない。醜さも、執着も……俺はお前のすべてを愛しているんだ」
その言葉に、リュシールの心に渦巻いていた暗い情念が、温かな愛で丸ごと包み込まれて溶けていく。
「ごめん……エスタロッサ。……きてっ!」
そのしがみつくようなおねだりを合図に、エスタロッサは深く、深く、リュシールの奥まで熱くつながった。
暗闇の中で何度も互いの名を呼び合い、肌を重ね合わせる二人。愛と執着を確かめ合う彼らにとって、朝が訪れるのはあまりにも早すぎるようだった。




