【続編・第2話】:柔らかな夜と、熱を乞う痕跡
日が落ちると、森の空き家は静寂と柔らかな闇に包まれた。
粗末な木製ベッドの上に敷かれた羊毛の上で、二人の身体が重なり合っている。
「……痛むか?」
エスタロッサの低い声が、リュシールの耳朶を優しく揺らす。
彼の大きな手は、まるで儚いガラス細工を扱うかのように繊細だった。リュシールの手首に残る引き傷へと、何度も、触れるか触れないかの力加減で熱い唇を滑らせていく。
その丁寧すぎる愛撫に、リュシールの身内にくずぐったいような、もどかしい熱がじわじわと広がっていく。
(……ちがう。こんなに優しくされたら、余計におかしくなりそうだ……)
エスタロッサの指先が、リュシールの胸元や鎖骨をなぞる。しかし、どれも壊してしまわないようにと抑制された、あまりにも神聖なものへと捧げるような触れ方だった。
「あっ……ん……っ、エスタロッサ……もっと……」
堪えきれなくなったリュシールは、震える手でエスタロッサの逞しい背中にしがみついた。背衣越しに伝わる体温を確かめるように、指先を強く食い込ませる。
「リュシール、焦らなくていい。これまでの苦しみを埋めるように、時間をかけてお前を愛したいんだ。……お前はもう、誰にも傷つけさせない」
エスタロッサはどこまでも優しく、リュシールの額や頬に蜜のような口づけを落としていく。
だが、その過剰なまでの慈しみが、リュシールの胸をキュッと締め付けた。こんな綺麗な愛じゃ足りない。己の中に渦巻く、醜い絶望も狂気も、すべて彼の激しい熱で焼き尽くしてほしかった。
「いやだ……っ、そんなに優しくしないで……!」
リュシールは首を横に振り、ポロポロと涙を溢れさせながら絶叫に近い声を上げた。サファイアの瞳が、切ない情念に濡れてエスタロッサを見上げる。
「僕を……もっと強く抱いて! 壊れてもいい……壊れるくらい激しく、君の熱を僕に刻みつけて……っ!」
「リュシール……!?」
「逃げたかったんじゃない……君に忘れられるのが怖かったんだ! この身体に、心に、消えないくらい強い痛みを、君の痕跡を残してほしい……! お願いだから、僕を……っ!」
涙で声を詰まらせながら懇願するリュシールの言葉に、エスタロッサの瞳の奥で、静かに抑え込んでいた情熱の火が爆発した。
「……後悔させないと言ったはずだ、リュシール」
エスタロッサの瞳が暗沈とした熱を帯びる。
先ほどまでの神聖な手つきから一転、リュシールの両手首を捕らえてベッドの上に押し戴くと、塞ぐような激しい口づけを降らせた。
「ふむ……っ! んあ……ッ!」
重なる唇から漏れる甘い悲鳴。エスタロッサの掌が、リュシールの細い腰を力強く引き寄せ、密着させる。手首の傷痕を包み込む指先には、今度は逃がさないと言わんばかりの強い力が込められていた。
「お前がそれを望むなら……俺のすべてを、お前の奥深くまでに叩き込んでやる。二度と忘れられないように、刻みつけてやるよ」
耳元で低く囁かれた愛の言葉に、リュシールの全細胞が歓喜に震える。
深く重なる肌の熱気と、激しく刻まれていく愛の記憶。森の静寂の中、二人の甘い喘ぎ声と愛の誓いが、夜が明けるまで途切れることなく響き渡っていた。




