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【続編・第1話】:白銀に刻まれた傷痕と、狂おしき愛の吐露

いつも『白薔薇と勇者』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

短編のつもりだったのですが、想像以上にたくさんの方にお読みいただけて感無量です……!

皆様のご声援のおかげで、二人の「その後」を描く続編をスタートすることにいたしました。

引き続き、見守っていただけたら嬉しいです。では本編どうぞ!

二人は人里離れた深緑の森の奥、ひっそりと佇む古びた空き家で共に暮らし始めた。幸いにもすぐ傍らには澄んだ小川がせせらぎを奏で、喉を潤す清泉と小さな魚をもたらしてくれる。豊かな木々の枝には熟した実が実り、小さな野生の生命が巡る、静かなる隠遁(いんとん)の地であった。

光あふれる世界も、英雄としての栄誉もすべてを投げ打ち、この地で二人きりで果てる覚悟を決めた二人。

ふと、静寂の中でリュシールが憂いを帯びた眼差しを向け、(はかな)げな唇を開く。

「……本当に後悔しないかい? 今からでも、君はあの温かな家族のもとへ戻るべきじゃ……」

言いかけたリュシールの言葉を遮るように、エスタロッサは慈愛に満ちた熱い唇を重ね、優しくその口を(ふさ)いだ。重なる息遣いにリュシールのサファイアの瞳が揺れる。エスタロッサはそっと滑らかな手を握りしめ、深く真摯な瞳で愛しい青年を見つめた。

「俺はすべてを捨てた。死後、どのような罪や(ばつ)を受けようとも構わない。たとえ地獄に堕ちようと後悔など断じてないのだ。ただ今世(こんせ)だけは、お前にすべてを捧げて生きたい……俺の我が儘(わがまま)を聞いてくれるか?」

言葉に込められた圧倒的な愛の重みに、リュシールの瞳から滂沱(ぼうだ)の涙が溢れ出す。首を激しく横に振り、胸元へとすがるように抱きついた。

「……っ! いやだ! 地獄にだって一人で行かせたくない! 死んでも……死んでも一緒にいさせてくれ!」

愛おしさに胸を締め付けられながら、エスタロッサは愛撫するようにその背を撫でる。しかし、引き寄せたリュシールの袖口がわずかに(めく)れ上がった瞬間、エスタロッサの視線が固まった。

細く白い手首の皮膚に、深く、痛々しく刻まれた一筋の引き傷。幾重にも赤く盛り上がったその痕跡は、刃物で自らの肉を()き切った生々しい傷痕(きずあと)だった。

「リュシール……! この傷痕(きずあと)はなんだ!? まさか……ッ!?」

跳ね上がる動悸とともにエスタロッサの顔色が劇的に変色する。リュシールは弾かれたように手を引き抜こうと身体を強張らせ、言葉を濁した。

「これは……その……」

エスタロッサの表情が激しい悲痛に歪む。逃げようとするその手首を力強く、けれど壊れ物を扱うように抱き留めると、痛々しい傷痕(きずあと)へとしがみつくように愛おしい口づけを落とした。

「……死のうとしたのか? 俺たちの思い出のために、それほどまでに一人で苦しみ、傷ついていたのか……」

肌を伝う唇の熱さに、リュシールの肩がビクンッと大きく震える。頬を朱に染め、溢れる涙で視界を濡らしながらリュシールは(うつむ)いた。

エスタロッサは傷痕(きずあと)に固く唇を押し当てたまま、絞り出すような低い声で問いかけた。

「聞かせてくれ。俺たちが引き裂かれた後……お前の身に、一体何があったのかを」

リュシールは一瞬、言葉を詰まらせ躊躇(ちゅうちょ)した。こんな忌々しい記憶で彼の心を汚したくはない。しかし、己の人生のすべてを捨ててまで自分を追いかけてくれた愛しい勇者に対し、偽りや隠し事をする気など毛頭なかった。

溢れ出る涙を指先で拭い、リュシールはあの日からの絶望の記憶を語り始めた。

「君に……『忘れの魔法』をかけた後、僕の愛し子としての力はほとんど底をついた。そして……対価として身体は急速に老化し、あっという間に醜い老人の姿へと成り果てたんだ……」

王国は力を失った自分を利用価値なしと切り捨て、まるでゴミのように隣国へと追放したこと。恩情と称して渡された僅かな金銭と、あてがわれた古い教会での惨めな日々。教会の人々はリュシールを厄介者として冷遇し、過酷な雑用を押し付けながら、与えるのは豚の餌のような粗末な食事ばかりであったこと。

「生きる喜びなど何一つなかった……ただ、君の幸せだけを神に祈る毎日だった。……けれど、ある日、部屋の姿見を覗き込んでしまったんだ」

そこに映っていたのは、深い(しわ)に覆われ、枯れ木のように痩せこけた老人の姿。かつてエスタロッサが愛おしそうに撫で上げ、指に絡めてくれた黄金の髪は白く枯れ果て、ボロボロと床に落ちていた。

「怖くなった……恐ろしい狂気が胸を支配したんだ! 『こんな酷い姿になったら、エスタロッサに愛してもらえない! いやだ、こんな自分なんて見たくない!』って……」

錯乱したリュシールは卓上の果物ナイフを掴み、その刃を自分の手首へと深々と突き立てた。確実に命を絶つため、冷たい水を溜めた浴槽へとその腕を浸し、血が流れ出るのをじっと待ったのだ。

「なのに……残酷なことに、僕の中に僅かに残っていた『愛し子の祝福』が、勝手に傷を塞いでしまった……。死ぬことさえ許されず、僕はただ冷たい水の中で、涙が枯れるまで泣き叫ぶことしかできなかったんだ……」

死人に等しい絶望の中で呼吸を繋いでいたある日、勇者エスタロッサが己を探し求めているという噂が届いた。胸を突いたのは歓喜などではなく、底知れぬ恐怖だったという。

「こんな姿を受け入れてもらえるはずがない……君の眩しい未来やご家族の幸福を、これ以上壊してはいけない……だから僕は逃げたんだ。君の届かない影の底へ……」

過去の絶望をすべて吐き出し、泣きじゃくるリュシールの身体を、エスタロッサは砕かんばかりの強さで強く、強く抱きしめた。

「……俺のせいだ」

エスタロッサは自分の無力さに激しい悔恨(かいこん)を抱き、血が滲むほど強く唇を噛み締めた。己が記憶を失い、偽りの平穏に微睡(まどろ)んでいた間、この愛しい青年はどれほどの絶望と孤独の中で腕を掻き切っていたのだろう。

胸を打つ激しい愛おしさと罪悪感に突き動かされ、エスタロッサはリュシールの手首に残る痛々しい傷痕(きずあと)へ、何度も、何度も誓いを込めるように熱い口づけを重ねた。

「俺が……俺の存在が、君をそこまで追い詰めてしまったんだな……。すまない、すまないリュシール……! 姿なんて、最初から何の関係もなかったんだ。どれほど老い衰えようと、お前はお前だ。……生きていてくれて、絶望の中でも俺を待っていてくれて、本当にありがとう……」

傷口を湿らせるエスタロッサの温かな涙と、繰り返される愛の言葉。リュシールは目を見開き、やがて溢れ出る感情を抑えきれずにエスタロッサの首へとしがみついた。

「エスタロッサ……、あぁ、エスタロッサ……っ!」

二人の涙が混ざり合い、静かな空き家に嗚咽(おえつ)が響き渡る。エスタロッサはリュシールの頭を力強く抱き寄せ、そのサファイアの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「これからの残された人生のすべては、君のこの傷痕(きずあと)を、そして心に負った傷を埋めるために使う。もう二度と、お前に悲しい思いはさせない。一生をかけて、君を愛し抜く」

その誓いの言葉は、長らく二人を縛り続けていた過去の恐怖と呪縛を、完全に打ち砕いた。

二人は引き裂かれた年月を埋めるように固く抱き合い、言葉を交わさずとも魂の深みで固く結びついた。木漏れ日が静かに二人を包み込み、新たな二人の物語が、ここから静かに動き出そうとしていた。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

作品をブックマークに登録していただいたり、☆で評価や「もっと読みたい!」といった暖かいコメントをいただけますと、今後の執筆の大きな大きな励みになります……!

少しでも「面白い」「切ない」と思っていただけたら、ぜひポチッと応援していただけると凄く嬉しいです!

次回(第2話)は、二人の甘い夜を描くラブラブ回(R15)をお届けする予定です。

これから二人で幸せを重ねていく姿を、ぜひ楽しみにお待ちください!

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