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魔を斬る娘  作者: 碧衣 奈美


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18/21

18.王の部屋へ

 鞘から抜かなくても、剣は威力を発していた。

 襲って来る兵士を打つと、そんな強い力ではないのに全て失神するのだ。王のいた部屋で、隊長を打った時と同じ。

 これで、彼らの中にある魔の力も消されている……と思いたい。もしそうなるのなら、王宮へ来る前に現れた兵達もディスト達が倒した後でセスティアが剣で少し触れるなどすれば、正気に戻れただろうか。

 今はそんなことを考えても、仕方がない。まずは目の前のことに集中しなくては。

 兵士達の手をかいくぐりながら、二人は北の塔まで来た。

「いたっ。ディスト達」

 丁度、地下へと連れて行かれる所に来合わせた。彼らが抵抗していたため、ここまで来るのに時間がかかったのだ。

 彼らを連行している兵士達を、セスティアは鞘に入った剣で突いて気を失わせ、ディスト達を解放した。

 彼らの奪われていた剣をセスティアが取り戻し、ディスト達へ放ってやる。

「すまない、セスティア。油断してしまって」

 ユーバス達は、奪われた剣を受け取りながら謝る。

「次は来ないからね」

 軽く冗談を言ってから、ルシェーラ姫の方に向き直る。

「では、改めて。ザインカーデはどこです? ルシェーラ姫は、ザインカーデの姿をご覧になったことがあるんですか?」

「いいえ。私を閉じ込めたのは、操られた兵士でしたから。でも、本体に近いものは、西の塔にある神が奉られた部屋だと思います」

「本体に近いもの?」

「魔王は、この世界では本体がないのです。存在できないようで、その代わりになるものの中に入り、そこから人間を操ったりしている、と」

「え……本体は自分の世界にいるんですか?」

 アスタークが「魔王は別の世界にいて、この世界に干渉する」という話をしていた。だから、てっきり自分自身がこの世界に来て悪さをしている、とセスティアは考えていたのだが、少し違うらしい。

「そのようです。でも、私達の住む世界に干渉することができる。結局、同じ場所に存在しているようなものです。本体がないだけで」

「何か……ずるい」

 この世界で存在できないなら、わざわざ余計なちょっかいをかけないでもらいたいものだ。

「えっと……つまり、その本体代わりになっているものを何とかすれば、ザインカーデを消せる、ということですか?」

「本体はこの世界にありませんから、魔王の存在そのものを消すことはできません。でも、この世界に災いを起こす力の元は、どうにかできると思います」

 世界を混乱させようとする魔王を消せないのは腹立たしいが、干渉する力だけでも消せれば、今よりもずっと状況はよくなるはず。

 セスティア達はルシェーラ姫の手引きで、今度は西の塔へと向かった。途中、王宮の兵士が何度も阻止しようとしてきたが、さっさと叩き伏せて駆けて行く。

「ここです」

 西の塔は、教会のような造りの建物だった。セスティアの胸に一瞬、ケイジェスの顔が浮かぶ。

 待っていて、ケイジェス。あたし、必ずあなたの所へ帰る。絶対に。

 ディストとノウイッグが、扉を開けた。中は明るい光にあふれている。だが、ザインカーデが現れてから人が訪れなくなったせいか、静まりかえっていた。供えられた花も、すっかりしおれている。

「違う……ここじゃないわ」

 セスティアは、呻くようにつぶやいた。

 入って正面には、神の像がある。その背後には、美しい刺繍のタペストリーが掛けられて。キアノーチェスのものより豪華だが、基本的に似たような配置だ。

 ここで本体の代わりにするなら、あの像くらいのものだろうが、セスティアの中で「違う」という言葉が浮かんでくる。

「ここだと思ったのですが。ザインカーデは神を冒涜するだろうと……」

 確かに、神と相反する魔物だし、神の奉られた部屋を無茶苦茶にしたりするってことも考えられなくはないわ。でも、ここには人間も魔物もいない。それなら……ザインカーデはどこにいるの? この王宮のどこかにいるはず。確かな証拠なんてないけど。

 セスティアのことがわかったルシェーラ姫も、ザインカーデの居場所は把握しきれないらしい。ザインカーデが、彼女の持つ力を邪魔しているのだろうか。

「王の部屋は?」

 思い付いたまま、セスティアはルシェーラ姫に尋ねた。頭に浮かんだことを、そのまま口にしたのだ。

「え? 父上の?」

「そうです。あたし達が見た兵士はみんな、うつろな目をしていた。……王も操られているようでしたけど、一見まともに見えました。だから、気になるんです」

 ルシェーラ姫は父親が魔の虜にされているのは知っていたようだが、セスティアの言葉を聞いて顔色を失った。

「……こちらです」

 ルシェーラ姫の声は小さい。

 しかし、進んで行く足取りはセスティアが心配したよりはしっかりしていた。

「本当に父上は、他の者とは別の魔法をかけられているのでしょうか」

 ルシェーラ姫は、セスティア達が最初に入った王宮の中へと連れて行った。その道中で、そんなことを口にする。

 答えを聞くのが恐いのか。ルシェーラ姫は尋ねながらも、セスティアと目を合わせないようにしているみたいだ。

「まだはっきりとは。あくまでも、あたしの感じたことです。だけど、怖がらないでください。その気持ちが、ザインカーデに力を与えてしまうんです」

 青い顔をしながら、姫はうなずく。

 恐怖心をなくすなど、簡単ではないことはわかっている。セスティア自身も、本音はやはり怖い。でも、ケイジェスを傷付けられたことに対する怒りで、何とか恐怖心に上書きしているのだ。

 やがて、一同は王の部屋の前まで来た。

 ルシェーラ姫が扉を叩こうとするのをセスティアが止め、自分が先に立つ。

 そっと扉の取っ手を掴むと少しだけ開け、中の様子を窺ってみた。

 途端に、セスティアの背筋に悪寒が走る。

 何なの、これ。

 中には、レーグラッドがいた。

 しかし、周りには戦場の惨劇のように多くの傷付いた人々が倒れ、あちこちで火が燃え盛り、生き残っている人々はさらに戦を続けている……という光景があったのだ。

 レーグラッドは、それを高笑いしながら眺めている。

 部屋の中に、こんな光景が存在するはずもない。これは恐らく、ザインカーデが見ている夢。

 人々が狂い、戦を起こし、殺し合うという、破壊の神の……魔王の夢なのだ。

 よその世界にいる奴が、こんなことをして楽しもうって言うの? 何も悪いことをしていない、ただ平穏に暮らしている人達を大勢巻き込んで? 何のためにこんなひどいことをするのよ。冗談じゃないわ。ふざけんなっ。

 案外、ザインカーデはセスティア達が扉の向こうにいることに気付いていて、わざとこんな光景を見せ付けたのかも知れない。

 この恐ろしいありさまに、セスティアが臆するように。

 だが、結果は逆効果だ。こんなことをされてたまるか、という怒りで、セスティアから恐怖心は完全に吹き飛んでしまう。

 セスティアは思い切り大きな音を出し、扉を蹴り開けた。

「……姉貴、今の、親父が見たら泣くぞ」

 弟の言葉なんて、今は無視だ。こんな時に、おしとやかになんてできない。

 一方で、王がゆっくりとこちらを向いた。

 部屋はまともだ。あんな光景があったことを否定するかのように、大国の王に見合った高価そうな調度品があり、普通の窓の景色がある。

 ただ、部屋を入った右の壁側に、不気味な偶像が視界の端に映った。濃い土色の石で造られている。

 四頭身くらいの、人型の像だ。丸い頭には、線だけで目と口が表現されている。真横に伸びた線なので、表情はない。そんな顔なので、性別も不明だ。

 二匹の蛇がその像の身体に絡んでいて、見るからに邪教の像っぽい。

 もしかして……もしかしなくても、あれよね。どこから持って来たのよ、あんなの。もうちょっとわからないように、かわいい人形とかにすればいいのに。あからさますぎじゃない? あ、本体代わりだとわかっても、誰かが壊せるはずがないって思ってるのかも。それで、あんな形の像にしたのなら、ほとんど人間に対する挑発だわ。

 そう考えると、ますます怒りが強くなる。

「キアノーチェスの罪人、こんな所で何をしておる。ここは私の私室だぞ。ルシェーラ、お前は外へ出てはいかん、と申し付けてあったはずであろう」

「父上……髪の色が……」

「髪?」

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