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魔を斬る娘  作者: 碧衣 奈美


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16/21

16.オーウェルマの王

「これからどうする、セスティア?」

 王宮の前に立ち、ユーバスが尋ねた。他の三人も、セスティアの顔を見ている。

「入るわ」

 セスティアははっきり言い、馬を降りて進んで行った。それを止める者もなく、ユーバス達も、彼女の後をついて行く。

 これが罠だろうと何だろうと、進むだけ。進むしかないのだ。

 王宮の門まで来ると、門の両脇に立っていた二人の門兵が槍を突き出し、セスティア達の行く手をはばんだ。

 彼らの目も、さっきの兵のように目がうつろだ。まともではない。止まれ、といった侵入者に対する言葉すらもなかった。

「どきなさい。あなた達に用はないわ」

 セスティアは槍をどかせ、先へ行こうとするが、門兵は簡単に通してはくれない。操られていなくても、門兵の仕事としてこの行為は正しいと言える。

 ディストとガルドバが門兵を押し倒そうとしたが、思いのほか、さっきの兵士達よりも強い。

 ユーバスとノウイッグが加わるが、それぞれ二対一にも関わらず、相手は互角に張り合っている。

「お前ら、目を覚ませよ……って言っても、無駄か」

 ディストはいらいらしてきた。

 こんな所で時間をくう訳にもいかない。だが、相手はほとんど無言で、中へ入れまいとする。

 普段ならもっと弱いであろう体格の二人だが、身体に似合わない力で押し返すのだ。

「あんた達とこうしてる訳にもいかないの」

 セスティアもじれったくなって剣を抜くと、門兵が持っていた槍を叩き斬った。

 槍の先がなくなり、柄だけが彼らの両手に残る。表情のない顔だが、それでも微妙にあっけにとられた様な顔になる。

 その横を、セスティアは通り過ぎた。

「なんだ。最初から、ああすればよかったんじゃねーの」

 セスティアの後を追いながら、ディストが文句をたれる。

「あんなにてこずるなんて、思ってなかったか……あぶないっ」

 言いながら振り向いたセスティアは、叫びながらノウイッグを突き飛ばした。

 門兵がさっき切られた槍の刃が付いた方を持って、ノウイッグの背中を狙っていたのだ。

 間一髪で、その攻撃は避けられた。

「やっぱり、眠ってもらわないと駄目か」

 ユーバスとガルドバが、門兵のみぞおちに拳を入れる。

 普通なら、これで失神するはずが、操られている彼らにはあまり効かない。よろけながらも、まだ向かって来る。

 今は問題なくても、元に戻った時に今受けたダメージは彼らを苦しめるはず。それを考えると申し訳ないが、こちらも手を緩める訳にはいかないのだ。

 手加減すれば、こちらがやられてしまう。

「しつっこい奴だな」

 ガルドバが、もう一度拳に力を込めた時。

「待て」

 低い声が聞こえた。

 そちらを向くと、立派なひげをたくわえた、いかめしい顔の中年男性が立っている。身分が上らしく、今まで見た兵士よりも鎧が上等そうで、後ろに五人の兵を連れていた。全員が、門兵と同じくうつろな目をして。

 しかし、一人でもこうして会話ができるなら、まだ話がつけやすいかも知れない。これまでは、攻撃を受けてもまともなうめき声すらほとんどなかったから。

「我らの王が、お前達に会うとおっしゃっている。来い」

 隊長らしき男はそう言うと、さっさと王宮の中へ入ってしまう。後についていた兵士もだ。

 門兵は短くなった槍を持って、何もなかったかのように自分の持ち場へ帰って行く。

「どうする?」

 ユーバスが尋ねる。

「行くしかないでしょ、ここまで来たら。あっちが呼んでるなら、探す手間が省けるわ」

 セスティアはためらわず、彼らの後について行った。

☆☆☆

 中の様子は「魔王が現れた」と言うから、どれだけおどろおどろしいかと思っていたが、キアノーチェスの城と同じだった。

 国が大きい分、こちらの方が立派だが、それでも魔王がいるのならもっと暗い感じがしそうなもの。

 昼間なのに真夜中のようで、廊下には鬼火が浮かんで、王宮のあちこちに何だったのかもわからない骨が転がり……なんてことを考えていた。

 しかし、普通の人間が住む場所と変わりない。

 やがて、セスティア達が連れて来られたのは、大きく、立ちはだかるような扉の前。重々しく感じるのは、この扉の向こうにいる存在のためか。

「入れ」

 無愛想に、隊長らしい男が言った。

 音もなく扉は開かれ、セスティアは部屋の中へと踏み込んだ。

 入った真正面に、誰かが玉座に座っているのが見える。会ったことはないが、状況から見れば、彼がオーウェルマの国王レーグラッドだろう。

 アスタークと同年代くらいか。肩より少し下まで波打つ赤髪に、王冠。座っているが、しっかりした体格なのはわかる。

 まさか、自国と他国の王に続けて会う日が来るとは思わなかった。庶民には、およそ考えられない状況だ。

 入った部屋はかなり広い。舞踏会などで使う場所なのだろう、とセスティアは勝手に想像した。庶民には縁がないので、それくらいしか考えられない。

 ただ、人がいないので妙に淋しく感じる。大国らしく、装飾品などは美しく立派な物ばかりなのに、さびれたようにすら見えてしまうのだ。

 どうしようかと少し考えたものの、セスティアは王の前までずかずかと歩いて行く。

 知るはずのないセスティア達の存在を知っているなら、王にも魔王が関わっているはずだ。それなら、遠慮する必要もない。

 ザインカーデのいる場所を尋ねたところで、彼が知っていたとしても、簡単には答えないだろう。

 しかし、こうして王宮の兵士が心を囚われている以上、のんびりはしていられない。いつどこで、彼らによって人が……仲間が傷付けられるかも知れないから。

「そこの女、止まれ」

 王の口から言葉が発せられ、セスティアは止まった。まともな声だ。

 それに少し近付いたことでわかったが、今までの兵士のように目がうつろではない。

 まだ操られていない……?

 少し安心したが、それでもセスティアは疑いを捨てなかった。操られていなくても、どういう形でかだまされている、という場合もある。

「どこから来た?」

「キアノーチェスから参りました」

「何のために?」

 素直に答えるべきか迷ったが、王がちゃんとわかっていないのなら教える必要があるだろう。

 魔王には、こちらのことが知られている。もし王が操られているなら、セスティアのこともわかっているだろうし、嘘をついてもすぐにばれる。

 どっちに転んでも、言うことは同じ。

「魔王を封じるためです」

 セスティアは言いながら、王の顔を窺った。王は穏やかな表情で、セスティアの方を見ている。

「このオーウェルマに魔王がいる、と申すか」

「近隣諸国の惨事については、すでにご存知のはず。昨日は、キアノーチェスがやられました。その時、私が斬った魔物は兜にオーウェルマの紋章を付けておりました。そして」

「それが、オーウェルマに魔王がいる、という証拠になるのか?」

 セスティアの言葉を、途中で王がひったくる。レーグラッドの表情が、いつの間にか硬くなっていた。

「キアノーチェスを襲った魔物がオーウェルマの紋章を付けていたとて、何の証拠になろう。別の国では、キアノーチェスの紋章を付けて暴れているやも知れぬ。そうであれば、オーウェルマに魔王がいる、とは申せぬはずではないか」

 セスティアは詰まった。

 ソームから聞いた噂で「オーウェルマの紋章を見た者がいた」というものがあっただけ。セスティアも斬った兵士の兜にあった紋章を見たが、詳しくはわかっていない。

 この話だけでは、確かに「オーウェルマに魔物がいる」と断言はできない。

 それに「オーウェルマに魔王が現れた」と言ったのは、アスターク王だ。しかし、ここでそれを話したところで、レーグラッドが信じてくれるかも怪しい。

「仮にオーウェルマに魔王がいたとして、なぜキアノーチェスの人間が封じるのだ。わざわざ小国から出向いて、どうやって封じるつもりか」

 キアノーチェスが小国なのは事実だが、あえて言われると気分が悪い。それが大国の王であっても、それを口にする必要などないはずなのに。

 他国から出向いて、と言われるなら受け入れられるが、自分の国を見下されたような発言には怒りを覚える。

 これは……わざと怒らせようとしているのだろうか。

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