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第7話 手袋越しの熱(前半)

 この学園では、学年の修了時に生徒全員が参加する大々的なパーティーが開かれる。そのため、貴族や平民といった身分に関わらず、年に数回ほど必須のダンスレッスンがカリキュラムに組み込まれていた。

 ダンスレッスンは毎回、ランダムに選ばれた他のクラスと合同で行われる。

 そして今日、私たちのクラスの合同相手に選ばれたのは、よりによって学園で最も熱視線を集める騎士科のクラスだった。

 

 ロザリアがいれば、少しは心強かったのに……。

 

 私はレッスン場の隅で、小さな紙切れを握りしめながらため息をついた。

 本来なら同じクラスであるロザリアだが、彼女のペアはリュシアン殿下であるという暗黙の了解があるため、特例として殿下のいるクラスのレッスンへと向かっている。

 

 レッスンのペアは、入り口で引いた紙に書かれている番号が同じ者同士で組むというルールになっている。私の手元にある紙には『七』と書かれていた。

 

 周囲には、すでにペアを見つけて挨拶を交わしている生徒たちがいる。特に騎士科の生徒を引き当てた令嬢たちは、皆一様に頬を赤らめて嬉しそうな表情を浮かべていた。

 そんな生徒たちの間をすり抜けながら、七番、七番……と同じ番号の紙を持っている生徒を探して周囲を見渡していると――

 

「七番は、君かな?」

 

 ふいに、頭上から聞き慣れた、けれどいつもより少しだけ低い声が降ってきた。

 ビクリと肩を揺らして振り返ると、そこには手袋をはめた右手を差し出し、柔らかく微笑むルーカスの姿があった。

 

「っ……ガランド、様」

「偶然ですね、シェイン様。本日のレッスン、どうかよろしくお願いします」

 

 彼の手には、私と同じ『七』と書かれた紙切れが握られている。

 

(う、嘘!ルーカスとペア!?)

 

 驚きと喜びで心臓が跳ね上がり、内心では叫び出したいほどだった。けれど、同時に「どうしてあの子がガランド様と……!」という令嬢たちの嫉妬に満ちた刺々しい視線が痛いほど突き刺さり、なんとか平常心を保つ。

 なんといっても、先日の訓練場での記憶が鮮明に蘇り、まともに彼の顔を見ることができない。

 

「……ええ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

 

 私は精一杯の完璧な令嬢の笑顔を顔に貼り付けて、淑やかに彼の手を取った。

 

 やがて、ゆったりとしたワルツの音楽が流れ始める。

 ルーカスの右手が私の腰に添えられ、左手が私の右手をそっと包み込んだ。グッと距離が縮まり、彼の体温と、微かに香る爽やかな香水が全身を包み込む。

 

「ステップの幅、これくらいで辛くないかい?」

「はい。……お気遣い、ありがとうございます」

 

 周囲には、完璧な騎士と令嬢の優雅なダンスに見えているはずだ。

 だが、私にとっては生きた心地がしなかった。ただでさえ彼とこんなに密着しているのに、彼を見上げようとすると、どうしてもあの日の訓練場で向けられた瞳を思い出してしまうからだ。

 私は彼の胸元あたりに視線を落としたまま、緊張を悟られないように決して目を合わせず、ただステップを踏むことだけに集中した。

 

 ……けれど。

 

「――ねえ」

 

 音楽に紛れるほどの小さな声で、彼が囁いた。

 腰に添えられた手に、先ほどよりも少しだけ強い力が込められ、グッと体が引き寄せられる。

 

「そんなに足元ばかり見つめてちゃ危ないよ。ほら、視線を上げて、僕の方をみて?……先日の訓練場みたいに」

「っ!?」

 

 誰にも聞こえない、私にだけの甘い追及。

 カァーっと顔を火照らせて見上げると、彼は少しだけ意地悪な顔で微笑んでいた。

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