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第6話 放課後の訓練場

 私は、今にも倒れそうな顔をしたテオ様から、書類の束を受け取っていた。

 

「本当に、本当に申し訳ありません……。生徒会から騎士科の教官へ届ける書類なのですが、殿下が急に『視察に行く』などと言い出しまして……」

「大丈夫ですよ、テオ様。胃薬同盟のよしみですから、お任せください。殿下のストッパー、頑張ってくださいね」

「リリア嬢……あなたは女神か。この恩は必ず」

 

 深々と頭を下げるテオ様を見送った後、私は頼まれた書類を抱えて、学園の敷地の端にある騎士科の訓練場へと足を向けた。

 

 訓練場に近づくにつれ、鋭い掛け声と剣を交える激しい音が聞こえてくる。

 邪魔にならないよう、見学者用スペースの後ろに立つと、砂埃の舞う広いグラウンドの中心で、ひと際目を引く姿があった。

 

「――っ、そこだ!」

 

 鋭い踏み込みと共に、ルーカスの剣が上級生らしき相手の剣を弾き飛ばす。

 流れるような美しい剣筋と、一切の無駄がない身のこなしで相手を圧倒する姿に、周囲の騎士見習いたちからも「おおっ……」「さすがガランドだ」と感嘆の声が漏れていた。

 

 すごい……!やっぱり、剣を持ってる時のルーカスは……

 

 息を呑んで見惚れていると、やがて教官の終了の合図が響いた。

 教官に書類を渡そうとタイミングを見計らっていたが、それよりも早く、見学スペースに陣取っていた令嬢たちが一斉にルーカスのもとへと駆け出した。

 

「ガランド様!お疲れ様です、これ差し入れのクッキーです!」

「あの、よろしければこちらの冷たいお水も……っ」

 

 競い合うように距離を詰め、我先にと差し入れを押し付けようとする令嬢たち。彼の周りにはあっという間に人だかりができる。

 そんなひしめき合う凄まじい熱気の中でも、ルーカスは嫌な顔ひとつせず、誰に対しても角が立たないような完璧な笑顔で対応している。

 

 その光景に胸の奥がチクリと痛んで、私は書類を抱える手に少しだけ力を込めた。

 

 ……モヤモヤする。わかってる、あれはガランド家の次期当主としての、そして近衛騎士を目指す彼の見事な対応だってこと。でも……

 

 これ以上見ているのが辛くなって、早く教官を見つけようと視線を逸らそうとした、その時。

 

 ふと、人だかりの中心にいたルーカスが顔を上げ、真っ直ぐにこちらを見た。

 少しだけ驚いたような表情をした後、目を細めてふわりと微笑んだ。そして彼は、胸の高さで小さく手を振った。


(えっ……!?)

 

「キャーッ!!今、こっち見て手を振ってくれたわ!」

「嘘、私よ!私の方を見てくれたのよ!」

 

 周囲の令嬢たちが黄色い悲鳴を上げて色めき立つ。

 勘違いして騒ぐ彼女たちをよそに、私はそのサインが誰に向けられたものなのかを理解していた。

 

「〜〜〜っ!」

 

 一気に顔に血が集まるのがわかる。

 これ以上ここにいたら、限界を超えた熱で倒れてしまうかもしれない。私は慌てて教官の元へ駆け寄り、書類を押し付けるように渡すと、真っ赤になった顔を手で隠しながら、逃げるようにその場を後にした。

 

 ――背中越しに感じる彼の視線が、心臓に悪すぎる。

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