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第53話 すずらんの想い(前編)

 雲一つない五月晴れの空の下、待ちに待った建国記念祭の朝がやってきた。

 私は鏡の前で学園の制服をきちんと整え、胸元に特別委員の証である赤いリボンをつける。今日という素晴らしい一日への期待に胸を弾ませ、私は足早に寮を飛び出した。


 寮から広場へと向かう街の景色は、普段とは全く違っていた。すれ違う人々は皆どこか浮き足立っていて、子供たちは色鮮やかな服を着てはしゃいでいる。建物の窓辺や石畳の街灯だけでなく、道ゆく馬車の車体にまでツタや花々が巻き付けられ、王都中がまるでひとつの巨大な花園になったかのようだ。

 あちこちから漂ってくる甘い花の香りに包まれながら、私はお祭りの中心となる大広場へと歩みを進めた。

 

 王都の中心にある大広場は、早朝からすでに熱気と活気に満ちていた。

 

「皆様、おはようございます!」

「あ、シェイン様!おはようございます!」

 

 広場の片隅に設営された私たち特別委員のテントに向かうと、すでにグレイ様、ルフナ様、セイロン様が揃っていた。皆の胸元にも、私と同じお揃いのリボンが誇らしげに揺れている。

 

「さあ、お昼の配布に向けて、最後の仕上げですね。温室のお花は無事に届いていますか?」

「はい!業者の馬車で、今しがた届いたところです」

 

 セイロン様が指差した先には、朝露に濡れた新鮮なカモミールの花がカゴいっぱいに用意されていた。

 昨日、四人で手分けして小袋に包んでおいた大量のクッキー。そこに、この摘みたてのカモミールを一輪ずつ、麻紐で丁寧に結びつけていく。生花を一番綺麗な状態で子供たちに渡せるよう、あえて当日の朝に作業を残しておいたのである。

 

「カモミールのお花、小さくて本当に可愛らしいですわね!」

 

 手際よく紐を結びながら、ルフナ様がぱっと顔を輝かせる。

 

「ええ。白と黄色の可憐な姿が、元気な子供たちにぴったりだと思います。クッキーのお味ともお揃いですしね」

「ああ……この小さな花が、やがて子供たちの手から大切な誰かのもとへ……!なんて美しい連鎖なんだ……っ!」

 

 私の言葉に、グレイ様が朝からハンカチで目頭を押さえて感動している。いつもの光景に思わず『ふふっ」と笑い合いながら、私たちは和やかな雰囲気で作業を進めていった。

 

 やがて、時刻は午前十時を迎えようとしていた。

 広場に集まった人々のざわめきが、波が引くようにふっと静まり返る。

 皆の視線が、広場に隣接する王宮の、一段高いバルコニーへと注がれた。

 

 そこへ、豪奢なマントを羽織った国王陛下がゆっくりと姿を現した。

 

『我が国の愛すべき民たちよ!』

 

 陛下の威厳ある声が、音響装置によって王都の空に響き渡る。

 

『五年に一度のこの良き日を迎えることができ、喜ばしく思う。今日という日は、身分も立場も忘れ、大切な者へ感謝と愛情を伝える日だ。さあ、街を花と笑顔で埋め尽くそうではないか!建国記念祭の開催を、ここに宣言する!』

 

 陛下の高らかな声に合わせ、王宮の時計塔から「カーン、カーン」と、開祭を告げる重厚な鐘の音が鳴り響いた。

 同時に、広場を埋め尽くす群衆から「わあっ!」と割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。そして、どこからか色鮮やかな花びらが舞い散り、青空を美しく彩った。音楽隊の陽気な演奏も始まり、広場の熱気は一気に最高潮に達する。

 

「始まりましたわね……!」

 

 ルフナ様と弾けるような笑顔を交わし合い、私も空を見上げて力いっぱい拍手をした。

 胸の奥で、お祭りへの期待が鐘の音とともに高鳴っていた。

いつもお読みいただきありがとうございます。いよいよ建国記念祭の開催です!リリアとルーカスはどうなるのか...続きを楽しみにお読みいただけたら嬉しいです。

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