第44話 鏡台の乙女たち
厳粛な雰囲気の中で行われた修了式が終わり、寮の自室に戻ってきた私たちを待っていたのは、今夜のパーティーに向けた慌ただしくも胸躍る準備の時間だった。
「お嬢様、髪の結い上げはこちらの高さでよろしいでしょうか?本日お召しになるドレスの雰囲気にも、とてもよくお似合いになるかと」
「ええ、ありがとうニーナ。これでお願いするわ」
伯爵邸から駆けつけてくれた侍女のニーナが、鏡越しに優しく微笑みかけてくる。
部屋の中には、ニーナやロザリアの侍女たちが運び込んだ色とりどりのドレスや、宝石箱が所狭しと並べられていた。
私たちは今、並んで鏡台の前に座り、侍女たちの手によって魔法のように磨き上げられている最中だ。
「それにしても、リリアったら本当に嬉しそうね。お茶会の後から、ずっと頬が緩みっぱなしよ」
「っ、そんなことないわよ……!ロザリアだって、さっきからずっと楽しそうじゃない」
隣の鏡台から揶揄うように視線を向けてくるロザリアに、私は赤くなった頬をパタパタと手で扇いだ。
ロザリアは、王族の婚約者という立場にふさわしい、気品と華やかさを兼ね備えた深紅のドレスを身に纏っている。美しく結い上げられた髪には、リュシアン殿下から贈られたであろう見事な宝石が輝いていた。
「殿下、きっとロザリアのドレス姿を見たら、またすごく甘い言葉をかけてくださるわね。『俺の記憶には、ロザが美しかったことしか残らない』なんてね」
「も、もう!リリアまで揶揄わないでちょうだい。……殿下は口が達者すぎるのよ」
私が殿下の言葉を真似てみせると、ロザリアはツンとそっぽを向いたが、その耳の先は可愛らしく赤く染まっていた。そんな彼女の姿が微笑ましくて、思わずふふっと笑いがこぼれる。
すると、私の髪を丁寧に結い上げていたニーナが、感慨深く言った。
「中等部の頃のお嬢様は、パーティーの準備中もずっと本を読んでいらして、『パーティーは適当に誰かと踊れれば、それでいいわ』なんて仰っていたのに……」
「ニ、ニーナっ!」
「ふふっ。それが今日は、こんなにも可愛らしく鏡の前でそわそわされて……。今回はガランド様とご一緒で、私も本当に嬉しいです。お嬢様も、すっかり素敵なレディになられましたね」
ニーナの温かい言葉に、私は照れくささでいっぱいになりながらも、鏡の中の自分を見つめた。
丁寧に化粧を施され、綺麗に結い上げられた髪。ルーカスに少しでも可愛いと思ってもらいたくて、ニーナと相談して念入りに選んだドレス。
そして、最後の仕上げとして髪に挿されたのは、可憐なすずらんの髪飾りだ。
冬休みの日に、ルーカスが私に似合いそうだと選んでくれた大切な髪飾り。夜会ではつけることができず、今日のためにずっと宝石箱の奥にしまっていた、宝物だった。
「……ありがとう、ニーナ。私、すごく緊張しているけれど……ルーカスに、少しでも綺麗だって思ってもらえたらいいな」
「もちろんでございます。ガランド様も、きっとお嬢様から目を離せなくなりますよ」
すずらんの髪飾りにそっと触れると、胸の奥がじんわりと温かくなる。
隣では、ロザリアも準備を終え、満足げに立ち上がっていた。
「さあ、リリア。準備はいいかしら?殿下たちをあまり待たせるわけにはいかないわ」
「ええ。行きましょう」
深呼吸をして、立ち上がる。
向かう先は、煌びやかな光に包まれたパーティー会場。そこで待っているはずの彼の元へ、私は大きく足を踏み出した。




