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第43話 少しの勇気

 一年を締めくくる最大の関門、学年末試験が無事に終了した。

 騎士科の厳しい実技試験に臨んだルーカスは、教官たちから非常に高い評価を得て、近衛騎士団への入団へまた大きく前進したらしい。

 私のハーブに関する自由研究も、無事に優秀な成績を収めることができた。

 

「ガランド様、試験お疲れ様でした。大変素晴らしい剣術だったと伺いました」

「ありがとうございます。シェイン様の研究発表も、とても評判が良かったと聞きましたよ。お互い、無事に終わって安心ですね」

 

 まだ外の風が冷たいこの時期、貸し切られたサロンの特別室では暖炉の火が心地よい音を立てている。

 殿下から「試験終了のお疲れ様会を開こう」とお誘いを受け、特製ハーブティーとお茶菓子を用意していたのだが。

 

「殿下は試験が終わった途端、溜まりに溜まっていた公務を行うために、テオ様に泣きそうな顔で引きずられていったわ。自業自得ね」

「ふふっ、テオ様、昨日からずっと怖い顔をされていたものね」


 そんな事情で、現在ふかふかのソファに座っているのは、私とルーカス、そして呆れ顔で紅茶をすするロザリアの三人だけだった。


 和やかに美味しいお茶とお菓子を楽しんでいた時、ロザリアが口を開いた。

 

「そういえば、数日後に迫った修了パーティーのことなのだけれど」

「「…………」」

 

 彼女が何気なく切り出したその話題に、私とルーカスはピタリと動きを止めた。

 何とも言えないぎこちない空気が流れ、室内には気まずい沈黙が落ちる。

 私がティーカップの縁を指でなぞりながら視線を泳がせていると、見かねたロザリアが少しのため息と共にカップを置いた。

 

「ねえ、あなたたち……まさかとは思うけれど、まだパートナーが決まっていないの?」

「「えっ……」」

 

 痛いところを突かれ、私とルーカスは同時に肩をビクッと跳ねさせた。

 図星を突かれて固まる私たちに、ロザリアは深いため息をつく。

 

「ガランド様はご令嬢たちからのお誘いを全てお断りになっていると噂になっていますし、リリアだって先日令息からのお誘いを丁寧にお断りしていたじゃない。……一体誰からのお誘いを待っているのやら」

「ロ、ロザリア……っ!?」

 

 突然の暴露に、私は驚いて声を上げる。

 チラリとルーカスの方を見ると、彼も驚いたようにわずかに目を見開き、そして私の方をハッと見つめていた。

 

 ロザリアは優雅な動作で立ち上がると、ドレスの裾を軽く払う。

 

「ああ、そうだわ。私、テオ様に頼まれていた書類仕事を手伝わなきゃいけないんでした。リリア、ごめんなさいね。お茶会、少し中座するわ」

「えっ、手伝うって……今から?」

「ええ。……ガランド様、あとは"よろしく"頼んだわよ」

 

 ロザリアはルーカスに向けてチラッと視線を送り、ふっと口角を上げると、颯爽とした足取りで部屋から出て行ってしまった。

 

 パタン、と静かに扉が閉まる。

 二人きりの室内に、先ほどよりも緊張感のある沈黙が落ちた。

 私は照れと緊張を誤魔化すようにポットへと手を伸ばした。

 

「そ、そういえば。約束していた、とびきり美味しいお茶……淹れるね」

「……うん、ありがとう」

 

 少し震える手で特製茶葉の入った缶を開け、お湯を注いでしっかりと蒸らした後、彼の空になったカップに琥珀色のハーブティーを注ぐ。湯気と共に、ふわりと甘い香りが広がった。

 ルーカスはカップを受け取ると、ゆっくりと一口飲み、そして優しく目を細めた。

 

「……すごく、美味しい。リリアの淹れてくれるお茶は、いつだって特別だね」

「ほんと?……よかった」

 

 疲労を労わるように微笑む彼の姿に、私の中にあった強張りが、少しだけ解けていくのを感じた。

 すると、カップをソーサーに戻した彼が、真剣な眼差しで私を真っ直ぐに見つめた。

 

「……リリア」

 

 いつもより少しだけ低い声で名前を呼ばれ、私は肩を揺らした。

 

「一つ、聞いてもいい?」

「うん?」

「修了パーティーのパートナーは……もう、誰かと約束したの?」

「え……?ううん、誰とも約束してないわ」

「そっか……」

 

 私の答えを聞いて、ルーカスはどこか安堵したように、小さく息を吐き出した。

 そして、いつも完璧な表情でいる彼が、ひどく緊張したように微かに視線を彷徨わせ、けれど最後にはしっかりと私の目を見つめ返した。

 

「……もしまだ決まっていないなら、僕が立候補してもいいかな?」

「……っ!」

 

 静かな部屋に響いたその言葉に、私の心臓は大きく跳ね上がった。

 

「僕に、君をエスコートさせてくれないかな。リリア」

 

 耳まで真っ赤にしながら、それでも真っ直ぐに私を見つめる彼の姿に、私の胸はちぎれそうなほど甘い熱で満たされていく。


「……はい。私でよければ、喜んで」

 

 震える声でそう答えると、ルーカスはホッと肩の力を抜き、無邪気で心底嬉しそうな笑みをこぼした。

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