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第3話 一通の招待状

 私とロザリアは午後の授業へと向かうため、陽の差し込む広い渡り廊下を歩いていた。

 

 この学園は、普通科・政務科・騎士科・芸術科に分かれており、午前中は所属科に関係なく基礎教養を学び、午後は各科ごとの専門的な授業を受ける仕組みだ。

 私とロザリアは幅広い教養を身につける普通科に在籍し、殿下やテオ様は国政を学ぶため政務科を専攻している。

 中でも、将来近衛騎士を目指す者たちが集まる騎士科の生徒たちは、午後の厳しい授業の前後にも自主的な訓練を行っており、学園内でもひときわ目立つ存在だった。

 

「あ……ガランド様よ」

「今日も凛々しくて素敵ね……」

 

 ふと、周囲を歩いていた令嬢たちが、頬を染めて小声で囁き合い始めた。

 

 視線の先、渡り廊下の向こうから歩いてくるのは、騎士科の友人たちに囲まれたルーカスの姿だった。初夏の風に髪を揺らしながら歩いてくる彼は、長身で美しい姿勢も相まって、まるで一枚の絵画のように見えた。


 相変わらず、すごい人気……。

 

 少しだけ圧倒されていると、距離が縮まった瞬間、ふっとルーカスと視線が絡んだ。

 

 ルーカスは私たちの前でスッと立ち止まると、胸に手を当てて完璧な騎士の礼をとる。

 

「ごきげんよう。ウィンザー様、シェイン様」

 

 一切の隙がない美しい所作。

 同行していた友人たちも彼に倣い、私たちに向かって丁寧に頭を下げる。

 

「ええ、ごきげんよう。ガランド様も皆様も、午後の鍛錬がんばってくださいね」

「ごきげんよう」

 

 ロザリアが堂々と微笑み返し、私も完璧な令嬢の笑みを浮かべて挨拶を返した。

 

 彼らが再び歩き出し、背中が見えなくなった途端、廊下の端にいた令嬢たちから、先ほどとは違う刺々しいヒソヒソ声が漏れ聞こえてきた。

 

「……何よ。殿下の婚約者だからって」

「次期王妃様の威光ってやつかしら。いつも特別扱いされて、本当に目障り……」

 

 わざと聞こえるように発せられた、嫉妬とやっかみが入り混じった声。

 私は思わず眉をひそめたが、当のロザリアは気にした様子もなく、「さ、早く行きましょ」と私の腕を引いて歩き出した。次期王妃という重圧の中で生きる彼女は、これくらいの陰口にはすっかり慣れてしまっているのだ。

 

 その強さを誇らしく思うと同時に、私はロザリアを守るように、少しだけ彼女に寄り添って歩幅を合わせた。


♢♢♢

 

 放課後、私たちの部屋に一通の封筒が届いていた。

 

「……あら。バーンズ侯爵令嬢から、お茶会のお誘いだわ」

 

 差出人の名前を見たロザリアが、わずかに眉を寄せ、小さく息を吐く。

 

 バーンズ侯爵家といえば、リュシアン殿下とは別の派閥に属する高位貴族だ。名目上は親睦を深めるためのお茶会だろうが、どう見てもロザリアを値踏みし、あわよくば牽制してやろうという思惑が透けて見える。

 

「ロザリア、私も行くわ。もちろん、一緒に参加しても問題ないお茶会よね?」

「ええ、リリアも来てくれるなら安心だわ!殿下に心配かけたくないし、二人で乗り切りましょう!」

 

 私は小さく頷きながら、上品な香水の匂いがするその招待状を静かに見つめた。

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