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第2話 胃薬同盟の結成

 放課後。心地よい初夏の風が吹き抜ける、学園のオープンテラス。

 私は少し端にあるテーブル席に座り、運ばれてきたばかりの紅茶に口をつけた。

 

「……ふぅ。今日も疲れた」

 

 ぽつりとこぼした独り言は、誰に向けたものでもない。

 

 視線の先、少し離れた薔薇園のアーチの下では、リュシアン殿下とロザリアが二人で並んで歩いている。遠目にも、殿下が何か甘い言葉を囁き、ロザリアが顔を真っ赤にして言い返しているのがわかった。

 ああして二人の世界に入っている間は、私が隣に立っていても邪魔になるだけだ。

 

「相席、よろしいですか。リリア嬢」

 

 不意に横から声をかけられ、顔を上げる。

 そこには、分厚い冊子を小脇に抱え、ひどく疲れた顔をしたテオ様が立っていた。

 

「テオ様。ええ、どうぞ」

「……失礼します」

 

 テオ様は向かいの椅子に腰を下ろすと、右手でメガネのブリッジを押し上げ、左手でそっと自分の胃のあたりを押さえた。その見慣れた仕草に、私は苦笑いをする。

 

「お疲れのようですね。昨夜はロザリアののろけ……じゃなくて、怒りの声を聞くのに一苦労でしたけど、そちらはいかがでしたか?」

「聞かないでください。殿下は昨夜、ご機嫌で『今日のロザも可愛かっただろう?』と一時間ほど語り続けておられました……。おかげで、今日提出予定だった内政課題のレポートをまとめるのが遅くなってしまって」

「まあ。それは本当に……お疲れ様でございました」

 

 私は制服のポケットから小さな小瓶を取り出し、テーブルの上にことりと置いた。

 

「いつもの、飲みますか?」

「……助かります。ちょうど手持ちを切らしていたところで」

 

 テオ様は心底ホッとしたような顔で、私が差し出した胃薬を受け取った。


 テオ・アシュトン侯爵令息。

 彼はリュシアン殿下と乳母が同じで、物心つく前から一緒に育ってきた、兄弟のような関係だ。年齢も同じであることから、王家から半ば公式に殿下の『お目付役』を任されている。

 学園でも常にトップクラスの成績を修める優秀な頭脳の持ち主だが、あの自由奔放な殿下のストッパー役を一身に背負っているため、常に眉間にシワを寄せている苦労人でもある。

 

「本当に、私たちは振り回されてばかりですね」

「ええ。ですが、あの二人が幸せなら、まあ……胃の痛みくらいは我慢しましょう。出来の悪い弟を持ったようなものです」

 

 やれやれとため息をつきながらも、その声には殿下への確かな信頼と親しみが滲んでいた。

 思わず顔を見合わせ、私たちは小さく笑みをこぼす。

 

 これが、私とテオ様の日常。華やかな主役たちの影で結成された、秘密の『胃薬同盟』だった。

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