第27話 未来の側近たち
放課後のサロン。私たちの貸し切り状態となった特別室には、淹れたてのダージリンの香りが満ちていた。
王立学園の生徒会。
表向きは、学園行事の企画から予算管理、学生の統率までを行う組織だ。
しかし、その実態は単なる学生の集まりではない。本来、この組織は王国を支える未来の優秀な文官・重臣候補を学生のうちから見出し、育成するための特別な機関として機能している。
そして、王太子であるリュシアン殿下が在学し、自ら会長を務めている現在。この生徒会は、殿下が即位した後に国の中枢を担う『未来の側近たち』を選抜して確保をするための、より重要で強固な機関となっている。
業務に関わる人員は王国からの推薦で学園入学前から決まっていることが多く、お目付け役のテオ様も中等部から生徒会に入り、現在は副会長を務めている。
そこに先日、親善試合とロザリア誘拐未遂事件での活躍を経て、殿下の護衛および治安維持担当として新たに加入したのが――。
「ルーカス、生徒会の業務にはもう慣れたかい?」
ティーカップを優雅に傾けながら、リュシアン殿下が声をかけた。視線の先には、背筋をピンと伸ばして座るルーカスの姿がある。
「はい、殿下。アシュトン様に手厚くご指導いただいておりますので」
「それは頼もしいな。君には将来、祖父上や父上と同じように、近衛騎士団を背負って立つ男になってもらわなければならないからね」
殿下の言葉に、ルーカスの瞳に強い光が宿る。
「もったいないお言葉です。殿下の御期待に沿えるよう、剣の腕も政務も、より一層精進いたします」
未来の近衛騎士、軍務官候補としての重圧をさらりと受け止めるルーカスに、私は心の中で感心の息を漏らした。
「ああ、頼みにしているよ」
殿下は満足げに微笑むと、今度は隣でバインダーを開いているテオ様に視線を向けた。
「なにせ、テオは将来私の隣で宰相をやるのだろうから。国の頭脳となる彼と、国の剣となる君。二人がいてくれれば、私も安心して王座に座っていられるというものだよ」
「……はい?」
ペンを走らせていたテオ様の手が、ピタリと止まった。
「さ、宰相、ですか……?」
「おや。昔からずっと私の右腕を務めている君が、今更宰相以外の席に座るつもりだったのかい?」
殿下は悪戯っぽく笑うが、その瞳には一切の揺らぎがない。絶対的な信頼と、王としての器の大きさを示すようなまっすぐな眼差し。
テオ様は数秒ほど瞬きを繰り返し、やがて、深く息を吐いてメガネのブリッジを押し上げた。
「……殿下がそのおつもりなら。胃に穴が空く覚悟で、お支えいたしましょう」
「ははっ、それは頼もしい。リリア嬢からまた新しい胃薬をもらっておかないとね」
重みのある、けれど心地よい未来の話が一段落すると、殿下は私の隣に座るロザリアを見つめた。
「ところでロザ。今日の君は一段と美しいね。まるで秋の夕日に透ける薔薇のようだ」
「なっ……!で、殿下!?」
突然の甘い言葉に、ロザリアの顔が瞬時に真っ赤に染まる。
「や、やめてくださいます!?皆様がいらっしゃる前で、何を……っ!」
「皆の前だからこそ、私の可愛い婚約者を自慢したいのだけど?」
「もう!!」
相変わらず照れ隠しで怒るロザリアと、余裕の笑みでそれを受け流す殿下。
「……始まりましたね」
「ええ。今日も通常運転です」
私とテオ様は顔を見合わせ、やれやれと肩をすくめた。
そんな私たちのやり取りを、ルーカスが少し不思議そうな、物珍しそうな目で見つめている。
「驚きましたか、ガランド様」
テオ様が苦笑いしながら声をかけると、ルーカスはわずかに目を瞬かせた。
「これが、我々の日常です。殿下がああなられたら、あとはもう適当に相槌を打ってやり過ごすしかありません」
「……なるほど。これが日常、ですか」
ルーカスは小さく呟き、それから少しだけ可笑しそうに口元を綻ばせた。
「騒がしいですけど、悪くない時間でしょう?」
私が微笑みかけると、ルーカスは真っ直ぐにこちらを見つめ返し、「――はい。とても素敵ですね」と、ふわりと微笑んだ。
夕陽が差し込む放課後のサロン。未来の国を背負う彼らと共に過ごすこの平穏な時間が、ずっと続けばいいなと願った。
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