↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/57

第26話 白馬の騎士(後編)

 ――ガキィィィッ!!

 

 私に向かって振り下ろされた刃物は、凄まじい衝撃音とともに宙を舞い、冷たい石畳の上へと弾き飛ばされた。

 

「……え?」

 

 何が起きたのか分からず、恐る恐る目を開ける。

 私の目の前には、見慣れた広い背中があった。

 

 彼が右手に持っているのは、親善試合で使っているはずの木刀だ。それが信じられないほどの速度と威力で、男の刃物を弾き飛ばしたらしい。

 

「ル、ルーカス……!?」

 

 なぜ、試合会場にいるはずの彼がここに……。

 驚く私を背中で庇うように立ち塞がったまま、ルーカスは氷のような視線で男たちを睨み据えた。

 

「妙な学生がロザリア様に声をかけているのが見えてね。胸騒ぎがして追ってきてみれば……」

 

 その声は、ひどく低く、冷たかった。

 普段の温厚で優しい彼の面影はどこにもない。そこにあるのは、静かな怒りと、研ぎ澄まされた刃のような鋭い威圧感だけ。

 深い闇のような瞳に見下ろされ、屈強な男たちが一瞬、恐怖に顔を引き攣らせた。

 

「よくも、僕の大切な人を傷つけようとしてくれたね。……容赦はしないよ」

 

 そこからの光景は、もはや戦闘と呼べるものではなかった。

 ただの圧倒的な制圧だ。

 

 ルーカスの振るう木刀は、一切の容赦なく男たちの急所を的確に打ち据えていく。流麗で、それでいて冷酷なまでの剣捌き。

 数人いたはずの男たちは、瞬く間に全員が手から武器を弾き飛ばされ、立ち上がれないほどの痛手に悶絶して床に沈んだ。

 

 男たちが完全に無力化したのを確認し、彼が静かに振り返る。

 冷ややかだったその瞳が、私を見た瞬間にハッと揺れ動き、いつもの優しい色を取り戻した。

 その顔を見た途端、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた。

 

「リリアッ!!」

 

 ルーカスとロザリアが、血相を変えて私のもとへ駆け寄ってくる。

 良かった、助かったんだ。

 そう安堵した瞬間、私の体から急速に力が抜け落ち、視界は暗転した。

 

♢♢♢

 

 ふわりと香る、清潔な薬品の匂い。

 重い瞼を開けると、そこは学園の医務室だった。

 

「あれ、私……」

 

 ゆっくりと体を起こした瞬間、脇の椅子に腰掛けていた影が、弾かれたように動いた。

 

「リリア……!!」

 

 ギュッ、と。

 苦しいほどの力で、私は温かい腕の中に引き寄せられ、抱きしめられていた。

 

 顔を上げると、そこにはひどく憔悴した顔のルーカスがいた。

 

「ルーカ、ス……?」

「っ、リリアが、無事で本当によかった……っ」

 

 耳元で響く彼の声は、ひどく震えていた。

 あの完璧で強いルーカスが……。

 

「……僕が前に言ったこと、覚えているかい?」


 脳裏に、先日彼に言われた言葉がよぎる。

 ——『君のことを大切に思っている人もいるってこと、ちゃんと自覚して』

 

「……うん、覚えてる。でも、ごめんなさい。私、ロザリアを助けなきゃって、咄嗟に体が動いちゃって……っ」

 

 あの時の、凶刃が目の前に迫ってきた恐怖が遅れて蘇り、私の体もガタガタと震え始めた。

 

(怖かった。本当に、殺されるかと思った)

 

「ルーカス、助けてくれて……ありがとう……っ」

 

 私は堪えきれず、ポロポロと涙をこぼしながら彼の背中に腕を回し、しがみついた。

 

 ルーカスは何も言わず、ただ私を力強く抱きしめ返し、大きな手で私の頭を何度も何度も優しく撫でてくれた。

 静かな病室の中、私たちはしばらくの間、お互いの温もりを確かめ合うようにただ抱きしめ合っていた——。

 

♢♢♢

 

 その後、事件は迅速に収束した。

 事態の異常に気づいて駆けつけたリュシアン殿下とテオ様たち生徒会、そして警備の騎士団によって、犯人グループは一網打尽にされた。

 

 ロザリアをこれ以上危険に晒さないため、彼女が切り開いた彩雲石の独占取引の権利は、殿下の提案により王国への正式な譲渡という形で決着がついた。

 これで、裏社会の過激派が彼女を狙う理由は完全に消え去った。

 

 一方、ルーカスは私に付きっきりだったため、親善試合の午後の部は棄権扱いとなってしまった。

 彼の輝かしいアピールの場を奪ってしまったと落ち込む私だったが、事態は思わぬ方向へ転がった。

 

『たった一人で、完全武装の賊を木刀一本で制圧するとは。しかもあの若さで……素晴らしい実力だ』

 

 事件現場の惨状を見た殿下と近衛騎士団の幹部が、ルーカスの圧倒的な実力を手放しで絶賛したのだ。

 結果として、ルーカスは試合を棄権したにもかかわらず、殿下から生徒会への正式なスカウトを受けるという、異例の大抜擢を果たしたのだった。

 

 すべてが丸く収まり、平和な日常が戻ってくる。

 ……はずだったのだけれど。

 

「ねぇ、リリア」

「な、なに? ロザリア」

 

 後日、学園のテラス席で向かい合ってお茶を飲んでいたロザリアが、ふとジト目で私を見つめてきた。

 

「ずっと気になっていたのだけれど」

「えっ?」

 

「あの時。あのルーカス・ガランド様が、あなたのことを『リリア』と、呼び捨てにしていましたわね」

 

「――ッ!?」

「それに、あなたも彼のことを『ルーカス』と……。ただの同級生にしては、ひどく親しげでしたわ。……ねぇ、リリア。あなたたち、一体どういう関係ですの?」

 

 にっこりと、背後に百合の花が咲き乱れるような極上の笑みを浮かべる親友を前に、私は盛大に紅茶を吹き出しそうになったのだった。

お読みいただきありがとうございます!ロザリアの危機とルーカスの勇姿、いかがだったでしょうか。よろしければ★やブクマをいただけると嬉しいです。引き続き宜しくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。