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第23話 忍び寄る影

 あのお茶会から数日が経った。

 ロザリアは殿下に呼ばれて生徒会室へ向かったため、私は一人でサロンに立ち寄り、図書室で借りた本を読んでいた。

 

「はぁ…………」

 

 ふと、向かいの席から地を這うような重たい溜息が聞こえた。

 顔を上げると、いつの間にかテオ様が向かいのソファーに腰を下ろし、この世の終わりのような疲労困憊の表情でテーブルに突っ伏していた。

 

「テ、テオ様!?大丈夫ですか!ひどい隈ですよ……!」

「ああ、リリア嬢……。お見苦しいところをお見せしてすみません。少し、徹夜が続いておりまして」

 

 テオ様は力なく微笑みながら、ウェイターに濃いブラックコーヒーを注文した。

 いくら生徒会の仕事が忙しいとはいえ、普段は涼しい顔でこなしている彼がここまで疲弊しているなんて、ただ事ではない。

 

「あの、私にできることなら手伝いますよ?書類の整理とか……」

「お気遣いありがとうございます。ですが、これはリリア嬢にはお願いできない類の、裏仕事でして」

「裏仕事……?」

 

 テオ様はコーヒーを一口飲み、少しだけ声を潜めて私に顔を近づけた。

 

「……先日の『秋薔薇のお茶会』で、ロザリア様がご自身の功績を公にされたでしょう。彩雲石の独占ルート……あれは、国を動かせるほどの莫大な利益を生む話です」

 

「はい。エレノア様たちも、すごく驚いていました」

 

「ええ。ですが、驚いたのは学園の令嬢たちだけではありません。その噂はあっという間に社交界を駆け巡り……。結果として、ロザリア様が持つ利権を狙うならず者や、裏社会の過激派たちが動き始めてしまったのです」

 

 テオ様の言葉に、私はサッと血の気が引くのを感じた。

 ロザリアの凄さを証明したお茶会が、まさか彼女自身を危険に晒す引き金になってしまうなんて。

 

「そ、そんな……!ロザリアは大丈夫なんですか!?」

「ご安心を。そのための我々ですから」

 

 テオ様は眼鏡の位置をクイッと直し、鋭い知性を感じさせる目を細めた。

 

「殿下はロザリア様のこととなると、一切の容赦がありません。『彼女に近づく害虫は、羽ばたく前にすべて叩き落とせ』とご命令が下りましてね。現在、近衛騎士団の精鋭と我々生徒会が総出で、怪しい動きを見せる輩を片っ端から潰して回っているところです」

 

 テオ様が徹夜続きなのは、ロザリアを守るために裏で暗躍していたからだったのだ。

 未来の王妃を守るという重責。殿下の過保護すぎるほどの愛情と、それを実務として支えるテオ様たち側近の有能さに、私は感嘆の息を漏らした。

 

「テオ様、本当にありがとうございます。ロザリアを守ってくださって」

「これが私の仕事ですから。……ただ、リリア嬢も気をつけてくださいね」

「え?」

 

「あなたは学園内で、誰よりもロザリア様の近くにいる。万が一、我々の網の目を掻い潜った愚か者がロザリア様に接触しようとした時、隣にいるあなたも巻き込まれる可能性があります。どうか、人目のつかない場所へは決して近づかないでください」


 テオ様の真剣な忠告に、私は深く頷いた。

 

 平和に見える学園生活の裏で、確実に黒い影が忍び寄ってきている。親友の身を案じながら、私は膝の上でギュッと自分のスカートを握りしめた。

お読みいただきありがとうございます。よろしければ★やブクマをいただけると嬉しいです。引き続き宜しくお願いいたします。

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