第22話 完璧な証明
秋の深まりを感じるようになった頃。
学園の豪奢なテラスでは、貴族の令嬢たちが集う『秋薔薇のお茶会』が開かれていた。
「皆様、本日はわたくしの主催するお茶会へ、ようこそいらっしゃいました」
上座でふんわりと微笑むのは、ビアンカ・ブランシュ公爵令嬢。
派手な縦ロールの髪型に、気の強そうなつり目が特徴的な彼女は、昔からロザリアを一方的にライバル視していることで有名な令嬢だった。なんでも、リュシアン殿下の婚約者の座を本気で狙っていたらしい。
用意された最高級の茶葉と焼き菓子を楽しみながら、令嬢たちの和やかな歓談が続くこと小一時間。
お茶会も中盤に差し掛かった頃、ビアンカ様は優雅な仕草で扇子をパチンと閉じると、待ってましたとばかりにロザリアへ狙いを定めて口を開いた。
「それにしても、ロザリア様。今年の夏休みは随分と庶民的な過ごし方をされたと伺いましたわ」
「あら、庶民的とは?」
「公爵領での交易市のことです。未来の王妃ともあろう方が、いち商人の真似事をされるなんて……王族の品格に関わるのではないかと、わたくし心配しておりましたのよ」
ビアンカ様が扇子で口元を隠しながら嫌味を言うと、周囲の令嬢たちがヒソヒソとざわめき始めた。
「そ、そんなことありませんわ!交易市は大成功で、領民たちもとても喜んでいたと聞いております!」
「ええ、そうですとも!わたくしも新しい紅茶の葉を買わせていただきましたし……」
すかさず庇うような声を上げてくれたのは、以前のお茶会でも一緒だったマーガレット様とアイリス様だった。二人の優しい援護射撃に、私は胸があつくなる。
「ふふっ。領民が喜ぶのは結構なことですけれど。……そちらのリリア様のような伯爵令嬢ならいざ知らず、ロザリア様が自ら店先に立つなど、身分に合わないのではなくて?」
矛先が急に私に向き、ビクッと肩が跳ねる。
しかし、当のロザリアは全く動じることなく、優雅な所作でティーカップをソーサーに置いた。
「商人の真似事?……ふふっ、ビアンカ様は少し、視野が狭いようですわね。あれは単なる商売ではなく、国益のための外交ですわ」
「が、外交、ですって……?」
「ええ。この夏、わたくしは東方の商人たちと直接交渉し、幻の宝石と呼ばれる『彩雲石』の独占買い付けルートと、我が国への流通の糸口を成立させましたのよ」
その言葉に、テラスの空気がピタリと凍りついた。
『彩雲石』――それは虹色の光を内包し、光の当たり方で万華鏡のように輝く、他国でも滅多にお目にかかれない希少中の希少な宝石だ。
「さ、彩雲石の独占ルートですって!?あんな莫大な利益を生む取引を、学生の身で……!?」
「ええ。すでに殿下を通し、王国認可の正式な事業として動き出しておりますわ」
「――ッ!」
ビアンカ様は扇子を持つ手をワナワナと震わせ、完全に言葉を失っていた。周囲の令嬢たちからは「さすがロザリア様……!」「未来の王妃にふさわしい御手腕だわ」と、感嘆の声が漏れる。
「それに、わたくし一人の力ではありませんわ。そこにいるリリアが、勉学で得た異国の特産品や薬草の知識で商人たちと深く打ち解けてくれたおかげで、信頼を勝ち取ることができたのです。彼女はわたくしにとって、必要不可欠なパートナーですわ」
ロザリアはそう言って、私に向かって優しく、けれど誇らしげに微笑みかけた。
ロザリアや殿下が交渉のために東方の商人を連れて公爵家の屋敷に戻ってきた時、ちょうどその場に出会した私が植物図鑑の知識で商人たちと楽しく語り合い、薬草の話で意気投合しただけだ。
そんな私の小さな行動まで功績として拾い上げて、こんな公の場で立派に仕立て上げてくれるなんて。
(ロザリア……、やっぱりあなたって、本当に凄くてカッコいい親友だわ!)
ビアンカ様は顔を真っ赤にして黙り込み、お茶会はロザリアの完全なる一人勝ち(大勝利)で幕を閉じたのだった。




