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第14話 試験終わりのひととき

 長く苦しい戦いが、ついに。

 

「終わったぁ……っ!」

 

 最終科目の終了を告げる鐘が鳴り響いた瞬間、私は机に突っ伏した。

 一学期の集大成である期末試験。後半は記憶が少し曖昧だけれど、今の私にはすべてを出し切ったという達成感(と疲労感)しかない。

 

「リリア、お疲れ様。ゆっくり紅茶を飲みたいところだけれど、これから殿下と街へ出掛ける予定があるから、行くわね!」

「ええ、いってらっしゃい。思いっきり楽しんできてね」

 

 試験が終わるや否や、カバンを掴んで風のように教室を飛び出していくロザリアを笑顔で見送る。

 

 さて、私も疲れた頭と体を癒やすために、甘いものでも食べに行こうかな。

 カバンを持って廊下を歩いていると、前方の角から見覚えのある柔らかい茶色の髪がふらりと現れた。

 

「あれ、テオ様」

「ん……?おや、リリア嬢。お疲れ様です」

 

 声をかけると、テオ様はいつものように穏やかな、けれどどこか疲労の色が濃い笑顔を浮かべた。

 

「テオ様もお疲れ様です。試験、どうでしたか?」

「ええ、なんとか。……少なくとも、歴史の年代を逆に書くような悲劇は回避できたと思います。リリア嬢は?」

「私も、なんとか空欄だけは埋めました!試験勉強を頑張った自分へのご褒美に、今からサロンで甘いものを食べようかと思いまして」

 

 私がそう言うと、テオ様は「いいですね」と目を細め、ふと思いついたようにぽんと手を打った。

 

「もしよろしければ、私がご馳走してもよろしいですか? 」

「えっ、本当ですか!?でも、悪いですよ……」

「いいえ。先日の訓練場への書類の件、あの時は本当に助かりましたから。そのお礼がまだできていなかったので」

 

 テオ様の「ぜひ」と言うスマートな申し出に、私は甘えることにした。

 

 冷房が心地よく効いた、学園のサロン。

 私たちはふかふかのソファ席に深く腰を沈め、色鮮やかなフルーツタルトと冷たい紅茶を前に、心からの休息を満喫していた。

 

「あー、美味しいっ……!疲れた頭に糖分が染み渡ります」

「ふふっ、喜んでいただけて何よりです。テスト結果はひとまず置いておいて、今日はパーッとやりましょう」

 

 優雅に紅茶を飲むテオ様と、他愛のない試験の苦労話に花を咲かせる。

 

「そういえば、殿下も先ほどロザリア様と合流されて、街へ出掛けられましたよ。試験期間中はいつもの突拍子もない行動は自粛されていましたから、ストレスが溜まっていたのでしょう。とても楽しそうにしておられました」

「ふふ、それはよかったですね」

 

「しかし、試験が終わった途端、『あとの生徒会の書類は頼んだよ』と爽やかに言い残して去っていかれました。デートに向かうついでに、私の仕事まで増やしていくとは」

「あはは……。テオ様、本当にお疲れ様です」


 テオ様は、ふぅ、とため息をつく。

 しかし、文句を言いながらも、彼の声には次期国王である幼馴染への確かな敬愛と、愛ある呆れが滲んでいた。

 

 そんなふうに二人で笑い合っていた時。

 

「あの、アシュトン様……。お休みのところ、申し訳ございません」

 

 不意に声をかけられ振り返ると、書類の束を抱えた見知らぬ男子生徒が立っていた。腕に付けている腕章から察するに、生徒会の役員のようだ。

 

「ああ、すまない。例の資料だね、確認しよう」

 

 テオ様が表情を引き締め、サッと書類に目を通し始める。

 私は、テストが終わったばかりなのに、もうお仕事だなんて……と、目の前の苦労人に心の中でそっと手を合わせてしまった。

 

「――よし、これで問題ない。あとの処理は私の方でやっておくから、君はもう休んでいいよ」

 

 感謝の言葉をかけながら書類を受け取った男子生徒は、チラリと私の方を見て、少し気まずそうに声を潜めた。

 

「……デート中にお邪魔してしまい、すみませんでした」

「「えっ?」」

 

 私とテオ様の声が見事にハモる。

 

 一瞬の沈黙の後、私たちは顔を見合わせ、どちらからともなく吹き出してしまった。

 

「くくっ……い、いえ。彼女とはそういう甘い関係ではありませんよ。どちらかというと……そうですね、『戦友』と呼ぶのが正しいでしょうか」

「ええ、間違いありません。胃の痛みを分かち合う、大切な同志です」

「は、はぁ……?」

 

 キョトンとする彼を笑顔で送り出した後、私たちは再び冷たい紅茶で乾杯をした。

 

 平和で、穏やかで、少しだけ可笑しい。

 胃薬同盟の同志と共に過ごすこの涼しいティータイムは、試験で擦り減った私の心を、甘いタルトと同じくらい優しく満たしてくれたのだった。

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