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第9話 迷子のキーホルダー

 放課後の柔らかな日差しが差し込む、庭園の裏道。

 寮へ帰ろうと歩いていると、美しく刈り込まれた植え込みの周りで、半泣きになりながら何かを探している令嬢の姿があった。

 

「あの、どうかされましたか……って、あなたは!」

 

 振り返った姿にハッとした。彼女は先日、マーガレット様主催のお茶会に同席していた令嬢の一人、アイリス様だった。お茶会ではマーガレット様の背後で、ロザリアに対して気まずそうにしていた令嬢だ。

 

「リリア様……っ」

「アイリス様、こんな所でどうしたのですか?顔色が悪いようですよ」

「私っ、落としてしまったんです。婚約者から贈られた、とても大切な銀のキーホルダーを……。あの方との大切な思い出の品なのに……っ」

 

 今にも泣き出しそうな彼女の様子に、私は迷わずしゃがみ込んだ。

 

「私も一緒に探します!今日、どのようなルートで学園を回られましたか?」

「えっ、でも、私はお茶会でロザリア様にあんな態度を……」

「それはそれ、これはこれです。さあ、一日の行動を教えてください!」

 

 私の言葉にアイリス様は少しだけ涙ぐみながら頷き、私たちは彼女の今日の足跡を辿り始めた。

 

 まずは、学園の南側にある『大温室』へ向かった。

 天井の高いガラス張りのドームの中には、一年中色鮮やかな花々が咲き誇り、甘い香りが満ちている。お昼休みにここで休んでいたという彼女の記憶を頼りに、ベンチの下や鉢植えの影などをくまなく探したが、見つからない。

 

 次に足を運んだのは『音楽堂』だ。

 放課後のこの時間は、どこかの教室から繊細なピアノの調べが漏れ聞こえてくる。午後のマナー授業の前に、少しだけこの廊下を通ったという。ステンドグラスから差し込む光に照らされた絨毯の上を二人で目を凝らして歩いたが、銀色の輝きは見当たらなかった。

 

「どうしよう、やっぱり見つからない……」

「諦めないで。他に行かれた場所はありませんか?」

「あとは、朝一番に掲示板を見たくらいで……」

 

「あら、リリア。それに、アイリス嬢も。何かあったのかしら?」

 

 掲示板のあるエントランスホールへ向かおうとした時、ちょうどサロンから戻ってきたらしいロザリアとばったり鉢合わせた。

 私が事情を説明すると、ロザリアも「それは大変!」とすぐに捜索に加わってくれた。

 

 そして、三人でエントランスの巨大な掲示板の下を探し始めた時。

 

「――ありましたわ!これです!」

 

 アイリス様の明るい声が響いた。彼女の手には、掲示板の影にひっそりと落ちていた、繊細な細工が施された銀のキーホルダーが握られている。

 

「ああ……っ、良かった……!ありがとうございます、ロザリア様、リリア様……!」

 

 アイリス様はキーホルダーを胸に抱きしめ、安堵の涙をぽろぽろとこぼした。そして、ハッと我に返ったように姿勢を正し、ロザリアに向かって深く頭を下げた。

 

「ロザリア様。先日は、お茶会で失礼な態度をとってしまい、本当に申し訳ありませんでした……。それなのに、私のような者の探し物を手伝ってくださるなんて」

 

 消え入りそうな声で謝罪する彼女に、ロザリアはキョトンとした顔をした後、ふふっと優雅に微笑んだ。

 

「あら、何のことかしら?私はただ、困っている同級生の手助けをしただけですわ」

「ロザリア様……」

「それに、愛する婚約者を想う気持ちは、私もあなたも一緒ですもの。大切なものが見つかって、本当に良かったわね」

 

 次期王妃としての威厳と、海のように深い優しさ。

 その圧倒的な器の大きさに触れたアイリス様は、完全に心を射抜かれたような顔をして「は、はいっ……!」と頬を赤らめて頷いた。

 

 ……どうやら今日、この学園にまた一人、ロザリアのファンが誕生してしまったらしい。

 私は、眩しいものを見るようなアイリス様の視線と、どこまでも真っ直ぐな親友の横顔を見つめながら、誇らしい気持ちでふわりと微笑んだ。

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