19.聞き込み調査~探れよ先輩、広げろ人脈~
面白かったらリアクション・ブクマ・コメよろしくお願いします。遅くなりました、すみません!
「―帆梶さん、藤本先輩について知りたいの?教えてあげようか?」
「えーっと、こいつに教わるので大丈夫?」
前のめりで餌を待つ犬のように話しかけ、また困惑顔でこちらを見る二人の男子。
澪はにっこり笑い、席を勧めた。
《情報提供者 No.2 第七部隊 第四班 学級委員 野分懸信》
《情報提供者 No.3 第七部隊 第五班 早蕨竹吉》
最初に尋ねた朝顔 珠樂の席を取り巻くように、澪は光たちと座る。男女比が三:二なのは周囲から見てもおかしくはないだろう。別にやましいことは話してないが。
半ば無理やり同伴させられた野分は、居心地悪そうに着席するが光を見た瞬間目を見開く。
「あれ、トリ公もいるのか?」
「とり、こう?え?」
「アハハ、鳳のあだ名だよ!面白いよね、トリ公」
「・・・・・・そうか、法廷で会おう」
「あばばばば」
鳳凰のごとく怒りの業火を背負う光と、ヘッドロックに泡を吐く二人。珠樂は戸惑い右往左往、澪は菩薩の笑みで無言で合掌した。
◇
「えーっと、藤本先輩は男女学年分け隔てなく接するサハラ砂漠並みの人脈で、数多くの虜を生み出してきた人たらし。
特徴は人心掌握術が上手くて、会話の流れが視えてるところかな。誘導やはったりが上手くて、気づかぬうちに情報が漏れて、搾られるんだよね。だから無能な奴は交渉の時にいいように流されるんだよ。後悔しても後の祭りだから、敵対はしたくない人物。味方にしたら百人力だけど不可能に近いし。
基本的に温厚篤実で優美な印象かな。髪は編み込みで分かりずらいけど鳩尾辺りのロングヘア。身長は156cmの平均より少し低めで、体重は・・・・・・」
「おい、ストップだ!」
「滅茶苦茶知り尽くしてるな」
「早蕨くん、最後のは・・・・・・」
「ごめん、身体的情報はいらないです」
立て板に水で際限なく話す早蕨。女好きと言われていたことあって、話の割合的に能力より容姿に関する情報が多い。光はドン引きし、野分は慣れているのか宥め方が板についている。一方巻き込んでしまった朝顔の顔には、早蕨への好感度が下がったと分かりやすく書いてある。ごめん。
(というかなんで身長体重知ってるの??)
確か彼は情報担当だったハズ。
(もしやハッキングで・・・・・・いやいやまさか、ね)
違うことを祈る。
ともかくこの人は教師陣きってのマッドサイエンティスト・岬橋碧とは別の種で危険人物だ。レッドリスト行き決定である。
「あれ?そうなの?まあこんなところかな、僕が言えるのは」
「お前はこれ以上言うな。はぁ、ごめんね帆梶さん、朝顔」
「ううん、止めてくれてありがとう。これ以上聞いてたら悪酔いして嫌悪感で吐いてたかも」
「あたしは改めて、早蕨くんは女好きの変態変人って理解したから大丈夫」
「そっか、良かったよ」
「え、どこが」
「あ、ごめんだけど帆梶さん、俺はあんまり藤本先輩について知らないんだ。申し訳ないけどここでお暇させて」
「大丈夫!ありがとう」
「うぇ!?まじで」
餌をねだるあざらしのようなぴえん顔をガン無視して、早蕨を引きずり颯爽と退場する野分。疲労で眼鏡がずり落ちている気がする。早蕨のお守は胃を傷めない程度にして欲しい。学級委員とは大変だ。
「あ、そろそろチャイム鳴るから戻らないと。迷惑かけてごめんね、朝顔さん」
「楽しかったから問題ないよ!それと・・・・・・嫌じゃなかったら、連絡先交換しない、かな」
「え、もちろん!嬉しい!」
まさかの嬉しい誤算で連絡先ゲットした澪は、鼻歌交じりに着席する。とにかくメインの藤本菫に関する情報収集は完了した。精査・分析して彼女の傾向から対策を練り、その後は野となれ山となれの精神で対談に挑むしかない。
(悠斗さんとの関係も探ってそうな様子だったし、上手く攪乱させないと)
澪は気合を入れなおし、昼休みまでの授業と格闘するのであった。
◇
さて、ついに舞台は整った昼休み。不退転の決意で予約済みの談話室に出向いた澪に対し、決戦の場である談話室には―
「い、いない、だと!?」
破滅フラグ持ちの悪役台詞を放った澪に、部屋は無言である。しかし視力とは残酷なもので、人という生物の残滓は全く感じられない。
(どうしよう、時間間違えた?)
実は行間休み、もしくは放課後―そんな考えが浮かんだが、すぐに追い払う。律儀そうな菫に限ってそれはない。となるとなにか事情で遅れているか、あるいは。
(私の人間性を試されてる?)
今の澪は上位部隊に、名が微量ではあるが浸透している。諒によると悠斗と談話していることは、知られているようだから油断ならぬと警戒態勢なのかもしれない。
まだ来ていないと油断するか、約束を持ち掛けたくせにと侮るか。もしくは―
(話すのに値する度胸と知能を持ち合わせているか)
澪はがばりとソファーの下を覗き込んだ。言うまでもなく、盗聴器や小型カメラを見つけ出すためだ。
この部屋は葡萄色のボックスソファーと灰色のストレートソファー、檜のローテーブルと観葉植物が置かれている、至って普通の部屋だ。壁紙は明るい茶色なのでカメラを仕込むのは、本体に着色でもしないと無理だろう。
となると家具に着けるのが一般的な方法になる。
ソファーの下を目を皿にして見るが違和感なし。観葉植物も葉の裏、茎の根本、鉢の受け皿まで確認したが、見事にない。となると・・・・・・
(え、なんだろ?)
ソファーに腰かけ、足を組んで顎に手を置き、熟考するも虚しく頭は空っぽだ。ついでに腹も。今すぐ栄養くれ、ご飯の時間だと爆音を鳴らして食欲の扉を叩いている。振り切って集中しようとするも、欲望には勝てなかった。
(うーん、わからん)
もはやこれまでか。是非に及ばず。
澪は最終兵器・するめいかをセーラーのポケットから取り出した。渋い茶色のお出ましは唾液腺を刺激するお姿だ。ああ、するめいかさま、私にご慈悲を!
「いただきますっ」
特大の感謝を捧げ、もっきゅもっきゅと噛みしめる。絶妙な硬さの歯ごたえと、口に広がるこのうまみ。一生飽きることはない。そしてするめいかの香しい香りが部屋に充満し、余韻に浸れることのなんと素晴らしいことか。
(これ以上ない至福に感無量・・・・・・)
しかし、そんな時間は終わりを告げる。
「すみません、遅れました―」
「あ」
扉を開け、澪に―というよりその手元に視線を向ける相手。鼻孔に届く海鮮らしいにおい、澪の腹の虫の音、そして今しがた口に含んでいた茶色い短冊状のモノ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・帆梶さん」
浮かんでいた謝罪の色は見る間に入れ替わり、明記が困難な表情に変化する。やがて、眉がぴくぴくと動き、唇の端が不気味に上がっていった。かろうじて笑みを保っている顔だ。
言うなれば喜怒哀楽の―”怒”であった。
「帰って良いでしょうか?」
「大変申し訳ございません!!」
やがてこの日は、澪の黒歴史で【誠心誠意、全身全霊で土下座した、悪夢の日】と記されることになる。




