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追憶の潜水士  作者: 今璃 咲
Ⅰ 初任務
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16.スピーチで示せ、その覚悟!~委員会決め~

 「えー、僕岬橋拓海(みさきばしたくみ)は、謝罪しなければならないことがあります」


 とある日の三時間目・総合。開始早々担任が記者会見を始めた。

 そして澪のAクラスは謎にノリが良いので(高校生なのに!)、マイク(筆箱)を彼に突き出す。

 

 「実は皆さんに伝え忘れていました―」


 緊張の波が高まり、誰かが唾を嚥下(えんげ)する音が聞こえた。


 「委員会決めをすることを」


 (はぁ?)


 ざっぱーん!と、葛飾北斎が描いた【富嶽三十六景】の一つ、【神奈川沖浪裏(おきなみうら)】の幻影が背後に見えた、気がする。

 しかし、あちらは猛々(たけだけ)しい波に対し、こちらは波も気持ちも引いているのが現状。


 「先生、早く始めましょう」


 凪の如く静まり返った教室に、冴えわたる諒の声が響いた。

 ―このくだり、いる?


 ◇


 「いやー、ウケなかったなぁ。悲しい」

 「碧先生の入れ知恵ですか?」

 「ううん、僕渾身のオリジナル」


 黒板に書き終えた拓海は、苦笑気味に生徒に答える。


 (あれはウケない)


 無駄に緊張して損した。アルナ学園は潜行士・海底士を育成する機関なので、今後に関わる重大発表がぽんと言われてもおかしくない。しかしわざわざシリアスな雰囲気にする必要もない。


 「さて、どの委員会に入るか今から十分間決めてもらうね」

 「先生、質問いいですか」

 「はい、朝顔さん」


 朝顔と呼ばれた女子は、単刀直入に言い切る。


 「委員会活動は部隊昇格や今後の成績に影響するんですか?」

 「成果を挙げればね。上位部隊は参加することは少ないけど、委員会活動をしている隊員もいるから、価値はあると思うよ」


 情報担当プロの彼は三日月のように目を細めると、意味ありげにコツコツとタブレットを叩いた。


 ◇



 有益な情報にクラスがざわめき、目の色を変え真剣に相談し始めている一方。

 澪たち三班は拍子抜けするほどのんべんだらりと、班体型で顔を突き合わせて話し合っていた。


 「んだよ、もっと早く教えて欲しかった」

 「澪は何にするか決めたの?」

 「もちろん。桜宮さんは?」


 所属希望の委員会を聞かれると、ややこしい。これは以前悠斗と会話した時に学んだ。



 『近々委員会決めがあると思うが、オレは情報委員会を勧める。てか入れ』

 『ええ・・・・・・理由は?』

 『情報委員会は生徒会や他委員会と関わることの多い中立的立場だからだ。防犯カメラや盗聴器等のハッキング・設置を防ぐ見回り。朝会や集会での機材の準備、情報伝達など学園についても知れるしな』

 『他の委員会でも良くないですか?』

 『情報は人を制すというだろう。お前は(よし)(ずい)から天井を覗くのか?』

 『・・・・・・』

 『あと、他人に所属希望の委員会は口外法度だ。裏取引きしようなどと言われたら頷きそうで怖い』

 『そんなことしませんよ!』

 『ほーん、昔同じ罠に引っかかったけどな。あんぽんたん』

 『傷口に塩を塗らないでください、いけず』


 と、見事に先輩に押し切られたのである。コワイ。

 それはさておき、澪は高速でタブレットを操作する百合に話を振った。

 百合は何やらメッセージを打つと即答する。


 「保健・衛生委員会です」

 「情報委員会じゃないんだね」

 「保健には、藤本先輩がいらっしゃいますので」


 (あー、なるほど)


 先ほどから一心不乱にタブレットを操作していたが、どうやら情報収集をしていたらしい。

 大人しそうに見えて、やはり最終試験突破しただけの実力者だ。

 それ程藤本菫(ふじもとすみれ)に心酔・・・・・・・いや、敬愛しているのだろう。玲奈と光が遠い目をしている。


 「そういや霞原くんは、学級委員会入るの?」


 ―その瞬間、彼の纏う空気が変わった。


 光の入らない深淵のような闇に、怒濤の澎湃(ほうはい)が押し寄せ繁吹(しぶき)雨が心を殴るような。傘をも貫く沛然(はいぜん)とした雨に叩かれるような。


 そんな暴風域が、彼を渦巻いていた。


 「・・・・・・・帆梶さん、僕は”きりはら”だよ」

 「あ、ごめん」

 「”かすみはら”じゃない」

 「ご、ごめん。気をつける」

 「うん」


 返された返事は覇気がない。俯いた表情は暗く、霧に消えそうな弱々しさ。


 (どうしよう、地雷踏んじゃった?)


 平和で忘れそうになるが、ここにいる大多数は家族や友人を亡くした者ばかり。生々しい傷を抱えて今を生きているのだ。だから家族などのプライベートな話は話題にすることはないし、詮索もしない。

 今までも、これからも。


 「えーっとそれで霧原はどうすんの?」

 「入らないかな。僕は生徒会に入りたいし」

 「また、倍率ヤバいところに・・・・・・・俺は入らん。日向もだよな。清水は?」

 「ボランティア委員会かな。前々から決めていたの」

 「「意外」」

 「あはは」


 ◇


 そんなわけで各自が希望の委員会に立候補するわけだが、やはりというかなんというか。

 希望者定員オーバーにより、スピーチが行われた。


 「あたしが環境委員になりたい理由は―」

 「おれが委員会に入ったら―」


 どれも聞きごたえのあったスピーチだが、とある人物は群を抜いて素晴らしく、少々異彩であった。

 それがー桜宮百合(おうみやゆり)


 「私が委員になった暁には、自覚をもって校内の清潔さを保つこと。また情報担当として他委員会との連携を図り、学園全体で衛生に関する知識を高めようと思います。

 具体的には養護教諭による講習を行ったり、ハンカチ・爪の衛生チェックキャンペーン、また環境委員会と手を組み個人のみならず、学園全体で意識を持てるようにポスター作製などの行いを―」

 「お、桜宮さん。分かったからもういいよ。時間無いから」


 (なんか、阿吽が見える)


 理路整然で、徹頭徹尾の最早鬼気迫る勢いで、他立候補者は自ら辞退したほどだ。拓海も普段とは真逆の様子に驚いていた。諒と日向は珍しく驚き、澪たちはマンタの表情だったが・・・・・・・。


 ◇


 「よし、異論がないなら、これで決定します。就任した生徒は責任をもって行ってください」


 (なんとか、乗り切った!)


 安堵の息をつく。そう、澪は情報委員の座を見事勝ち取ったのだ。


 (これで佑磨に関する情報収集ができる!)


 百合はぶっちぎり、玲奈も見事に入ることが出来た。ちなみに一番やる気のなかった日向は、ちゃっかり『整備・点検委員』になっていた。

 何はともあれ第一関門は突破だ。


 「帆梶さんお疲れ様です」

 「あ、桜宮さん。すごかったね」

 「あ、ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいですけど・・・・・・」


 髪を口元に寄せるその仕草はたいそう可愛らしく、とても同一人物とは思えない。

 だが、少しだけ。人形のような彼女の、人らしい一面を見れた。


 「これからお互い、頑張ろうね」

 「はい」


 そう微笑みあった二人の距離は、確かに近づいた。


 ―もう、他人じゃない。クラスメイトで仲間だ。


 風に揺蕩(たゆた)う桜が、澪たちを祝福するように舞っていた。

面白かったらリアクション・ブクマ・コメよろしくお願いします。

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