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追憶の潜水士  作者: 今璃 咲
Ⅰ 初任務
16/20

15.澪って幼馴染のこと・・・・・・・

 幾多の困難や試練を乗り越え、気づけば入学から一週間がとある日。


 「疲れた~」


 寮の第四棟《海月(くらげ)》の203号室で、澪はベッドにて疲れを癒していた。


 (座学は養成時代に比べて倍スピードだし、実技は筋肉痛になるし)


 今もふくらはぎが痛くて、寝付けない。それはスキンケア中の玲奈も同じようで、「それね」と同意する。ちなみに百合は入浴中でいない。


 「でも一人もは出てないわよね」

 「まあ最終試験突破したからには、それ相応の度胸と精神力があるからね」


 枕にぬくぬく顔を押し付けると、玲奈が微笑を浮かべる。


 「澪も鋼のメンタルよね」

 「私はリタイアできないから」

 「ああ、幼馴染くんね」

 「うん。そのために頑張ってるんだから、ここで挫けたら顔向けできないよ」


 澪は頬杖をつくと彼に思いを馳せる。


 (佑磨も大丈夫かな)


 研究所が怪しい、ならば潜行士(サルヴァ―)として情報を集めようと努力している澪。

 こちら側が平和なのに対し、あちら側は悠長に研究できる平穏な日々ではないだろう。研究内容や佑磨の現状での扱い、彼の同士の人数については、全く情報がない。

 悠斗曰く、


 『4年前―つまりお前が小6の時の、日本史上最大の大津波地震に研究所が関与していて、その地震をきっかけに表舞台に出られなくなった、とオレは考えている。

 例えば研究に失敗して途方に暮れていた時、地震が起こりそれを好機として死んだことにしたとか』


 と、推測を立てている。つまり―


 (表沙汰にできない、最高機密情報(トップ・シークレット)レベルの研究)


 そんなものに佑磨は関わっているということだ。希望ある未来を潰され、殺伐とした場所で。

 談話室で聞かされた時は、氷漬けにされたような気分だった。だが、無慈悲な天災にも関わらず国家機関に勤める要人に、亡者が少ないことを踏まえると妥当性がある。

 ―国家ぐるみの研究が失敗した場合でも、日本が回るように。


 (もし私が上位部隊や海上基地でサルヴァーとして勤めることになったら、国家という母国を敵に回すことになるのかな)


 「ただ佑磨と話せる日々が欲しいだけなのに・・・・・・・」


 弱弱しく突っ伏した澪に対し、玲奈は真面目な顔でベッドに座る。


 「ねえ、澪ちょっと聞きたいんだけど」

 「ん~なに?」


 二段ベッドの梯子(はしご)をのそのそと降りる澪。


 「澪は幼馴染くんのこと好きなの?」

 「ハ!?」


 ずるりと足を滑らせ見っともなく落ちる。いたい―ってそれどころじゃない!!


 「いややや、な、何言ってるの?どうした、頭バグった?」

 「澪こそまず平静を取り戻して、姿勢を正したら?」

 「あう」


 天井に突き上げた足を戻し、勉強机の椅子に体育座りする。自然と足が出口の方向を向き、椅子を動かして玲奈から距離を取る。それでも玲奈の探るような視線が痛いったらありゃしない。


 (おおお、落ち着こう。えーっと緊張サインは髪を触るんだったっけ?なら髪を触らないようにして、視線はできるだけ足元に・・・・・・・ああ、逆に怪しい?でも斜め上は変だよねっ??)


 一人百面相する澪に冷たい視線が突き刺さるのは気のせいだ。おそらく多分。うん、気のせいにしよう。ああ、気のせいとはなんて素敵な言葉。


 「それで」

 「玲奈、知ってる?江戸時代中期の老中・田沼意次は賄賂(わいろ)が大好きな腹黒政治家って言われてたんだよ。でも賄賂を贈ったのは気に入られたい武士や商人であって、意次は受け取っただけ!賄賂が当たり前になったのは、向こうが勝手に贈ってきただけ!それなのに勝手に決めつけられたんだよ!

 ほら、霞原くんだって養成時代『自分は君たちより実力が勝ってる』って勝手に決めつけてたし!」

 「歴史研究家を馬鹿にしない」

 「してないよ。それに霞原くんだって賄賂好きそうじゃん」

 「偏見の塊ね。あと”きりはら”じゃなくて”かすみはら”」

 「同義語みたいなモンだよ。ああ、それで二人とも心では思ってるよ、偏見は良くないって!ちゃんと心で感じたこと、考えたこと明言しないと!」

 「つまり?」

 「アー、えっと」

 「じゃあ私も心で思ってること言うわね」

 「エ」


 走り終えた後のように息切れし、ついでに青ざめて石になる澪に対し、玲奈は饒舌にしゃべりはじめる。


 「あんね、嘘つくときにひっきりなしに喋るのは常套手段なの!大体あれだけ動揺して声のトーンが高くなって、おまけに無意識だろうけど目線が斜めなのは嘘つきだと自白してるもの!」

 「いや、売り言葉に買い言葉とかあるし、たまたまだし・・・・・・・」

 「へー?澪の言葉こそ浅慮で主観的な思い込みじゃないの?私は客観的事実を元に証言したけど」

 「えぇ・・・・・・・」

 「今の人差し指つんつんしてる仕草はまさにそれ!マンガで気まずいときにする手法!」

 「でもぉ」

 「そもそも!」


 びしりと人差し指を澪に向ける玲奈。某少年探偵を彷彿させる仕草だ。あれですか、真実は一つですか。随分雑な迷探偵だけど!


 「全く爪の先ほども恋情を抱いてなかったら、梯子から転げ落ちないでしょうが!」

 「恋情とか、大きい声で言わないでよっ」


 お願いだ、睡魔早く来てくれ。

 (これは時間が経つにつれ黒歴史になるッ・・・・・・・!!)

 しかし悲しいかな、現実は嗚呼、無情。

 フーフーとぎらついた視線でねめつける玲奈に、澪は冷や汗をぼたぼた たらし目を逸らす。


 ―やがて五分後、お互い冷静になり。


 「で、どうなのよ」

 「全く一ミリも一ナノグラムも、抱いておりません」

 「本当に?」

 「はい、海よりも高く、山よりも低いです」

 「つまりゼロ、と。・・・・・・・補足だけど使い方間違ってるわよ」

 「存じております」


 仁王立ちの玲奈からなんとか誤解(?)を解くことに成功した。ふう、一安心。


 「あー、離れた時間が愛を(はぐく)むとかないかしら」

 「そもそも佑磨は私のことなんて、頭にないと思うよ」


 澪は先程とは打って変わって冷めた口調になる。あの時を思い出して。


 『たかが小学校の卒業式だよ?そのために残るより、研究のために東京に行った方が絶対良いよ!』


 彼にとって本当に価値のあるもの。佑磨にとって澪は、旅立ちの時に後ろ髪を引かれるほどの存在には、慣れなかった。そしてそれは今も変わらないだろう。


 (どれだけ佑磨を想っても、彼には決して届かないし、分からない)


 それでも彼を救うためにここにいる。


 「学園に入学したのは、恋情なんかの素敵な感情じゃなくて、ただの自己満足だよ」


 にっこりと笑って玲奈を見ると、彼女は唇を嚙んだ。手を強く握りしめ葛藤しているように見える。


 「・・・・・・・澪は、いいね」

 「ありがとう」


 その『いいね』に含まれる感情は、想いはきっと一つだけじゃない。彼女の心中は数多の感情が渦巻いていて、澪はそれを(おもんばか)ることは、きっとできないだろう。

 納得できない、どうしてそこまで命を懸けられるのか。そう思われるかもしれない。


 『それだけのために命懸けの世界に飛び込んだのか?無鉄砲にもほどがある。このご時世平和な生活は金よりも貴重で希少だ』

 『お前は人のためじゃなく自分のために頑張れ。努力の方向を履き違えるな』


 (私は、私の存在意義を履き違えない)


 これは、私の決めた道。私の決めた人生。いつか冥府の門をくぐる時は後悔なく歩みたい。


 ―幼馴染と再会して、思い出話に花を咲かせた記憶(宝物)を持って。

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