153話:その選択の先に
エリンの腕の中で、ヒナは静かに涙を流していた。
けれど、その涙はどこか安堵にも似たものだった。
エリンはヒナの背を優しく撫でながら、落ち着くのを待っていた。
ヒナは小さく鼻をすすり、震える声でぽつりと呟いた。
「……ボク、リオンさんにずっと支えてもらっていました。」
エリンは静かにヒナの言葉を待つ。
ヒナの肩がわずかに震えている。
「怖かったんです……。
でも、どこかで頼ってしまっていて……。
……それでも……リオンさんには感謝しています。」
言葉を紡ぐたびに、ヒナの表情が揺れる。
「厳しいことも言われましたけど……
その奥にある優しさに、気づいていました。」
ヒナの声は、まだ少し震えているが、
その中には確かな思いが込められていた。
エリンは、ヒナの頭をそっと撫でる。
「リオンらしいね。
彼は不器用だけど、大事なものには真剣に向き合う人だから。」
ふっと柔らかく笑みを浮かべながら、静かに言った。
ヒナは、小さく頷く。
エリンは静かに紅茶を手に取り、一口飲んだ。
そのまま、少し考えるようにカップを見つめる。
「……僕もね、リオンの言葉に何度も救われたことがあるんだ。」
ヒナは驚いたように顔を上げる。
「リオンは気まぐれだけど、目的があれば迷いがない。
すぐに行動に移せる強さがある。
僕には、少し羨ましく思えるよ。」
ヒナは、エリンがそう言うことに少し驚いたようだった。
エリンは、ふっと目を細める。
「それでね……。
リオンはずっと、魔力の譲渡は僕がするべきだって言っていたんだ。」
ヒナの肩がびくりと動く。
「……え……?」
「僕はずっと拒んでいたけど、彼の言うことも理解はしてる。
ヒナを傷つけたくなかったから、他の方法を探そうとしてたんだ。」
エリンの声は穏やかだったが、どこか少し苦しそうでもあった。
「でも……同じ悪魔の魔力を継続的に受け続けると、
いずれ天使の心は侵食される。」
ヒナは、思わず息を呑んだ。
「それを防ぐためには、精神安定剤を使うか、
継続的な譲渡を避けるために間隔を空ける。
もしくは……違う種族と交わること。」
ヒナは目を見開く。
「……それって……」
エリンは静かに首を振る。
「無理にとは言わないよ。
ただ……ヒナがこれからどうしたいのかを、ちゃんと考える必要がある。」
エリンはヒナの手を優しく包み込む。
「僕は、ヒナが傷つくことは絶対にしたくない。
だから……どうしたいのか、ヒナの気持ちも聞かせてほしい。」
ヒナは息を詰まらせたまま、何も言えなかった。
エリンは、そんなヒナを静かに見守りながら、
次の言葉を待っていた。




