152話:偽りのない家族
静寂が支配するリビングで、ヒナは震える指先を握りしめた。
エリンが静かに自分を見つめている。
あたたかい紅茶の湯気が、ゆっくりと揺れながら天井へと消えていく。
──全部、話さないと。
「……ご主人様。」
震える声が、静寂を破った。
「……お話ししたいことがあります。今までのこと……全部、ご主人様にお話しします。」
自分の中に抱えていたものを、誠実に伝えなければならない。
覚悟を決めた瞳で、ヒナはエリンをまっすぐに見た。
エリンは小さく微笑み、ゆっくりと頷く。
「……わかったよ。話すと決めてくれて、ありがとう」
ヒナは唇を噛みしめ、深く息を吸い込む。
胸の奥に溜まっていたものを、ひとつずつ、言葉に変えていく。
「……ボク、リオンさんにずっと……魔力譲渡をしてもらっていました。」
エリンの表情が、わずかに曇る。
しかし、それを表に出さないように、ただ静かにヒナの次の言葉を待っている。
「ご主人様が、ボクのことを家族として大切にしてくれているのは、ずっとわかっていました。
それでも……ボクは……魔力を補うために、リオンさんに頼ってしまいました。」
その言葉を口にすると、途端に胸が苦しくなった。
告げるべきではなかったのではないか。
もう遅いけれど、今さら怖くなってきた。
不安そうに震えるヒナの声を、エリンは最後まで遮らずに聞く。
ただ、まっすぐに見つめている。
その穏やかで包み込むような視線に、ヒナはかえって苦しくなった。
「ご主人様には言えませんでした……。
好きな人に知られるのが怖かったから……。
……嫌われても仕方がないって、そう思っています。」
最後の一言を絞り出すと、ヒナは小さく息を震わせた。
エリンはゆっくりと紅茶を置くと、静かにヒナの手を包み込んだ。
「そんなことないよ。」
優しく、けれど確かに響く言葉。
ヒナの肩が、かすかに揺れる。
「ヒナが心の傷を作ってしまうんじゃないかって……それが、ずっと心配だった。
だから、無理に言わせたくなかったし……こうして話してくれたことは嬉しいよ。」
その言葉を聞いた途端、張り詰めていたものが一気にほどけていく。
ヒナの瞳に、涙が滲む。
「ボク……ずっと、怖かったんです……。
ご主人様に、全部話したら……軽蔑されるんじゃないかって……。」
「そんなことない。」
エリンは優しく微笑みながら、ヒナの涙を指で拭う。
「むしろ、言ってくれてありがとう。
ヒナはずっと、一人で頑張ってたんだね。」
ヒナは震える唇を噛みしめ、ぎゅっと目を閉じた。
──言えてよかった。
けれど、胸の奥に残る罪悪感は、まだ完全には消えない。
エリンはそっとヒナの肩を抱き寄せた。
「これからは、ヒナが必要だと思ったら何でも話してほしい。
もちろん言いたくないことは言わなくていい。
だけど、一人で抱えてほしくない。」
優しく、包み込むように抱きしめる。
「どんなことがあっても、僕はヒナのことを軽蔑したりしないよ。今もね。」
ヒナの涙が、ぽろりと零れ落ちた。
こらえきれずに、エリンの腕にすがるようにしがみつく。
「……ありがとうございます……っ」
かすれるような声で、それだけを言った。
エリンの腕の中で、静かに涙を流しながら──。




