↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/34

148話:求めるたびに、遠ざかるもの

(本当に、愛を知らないのかな……)


ヒナはリオンの横顔をじっと見つめながら、心の中で呟いた。

愛を求めることなく、愛を知らないまま生きている──

そんな彼の言葉が、どうしても頭から離れない。


──愛を教えられるかは、わからない。


でも、ヒナの胸の奥から自然と湧き上がる感情があった。

それは、ただ「リオンにも愛を感じてほしい」という純粋な想いだった。


気がつくと、ヒナはそっと手を伸ばし、リオンの頬に触れていた。

「……?」

リオンが少し驚いたようにこちらを向く。

その隙をついて、ヒナは唇をそっと重ねた。


──ほんの一瞬。


唇が触れたか触れないかくらいの、儚いキスだった。

けれど、ヒナにとっては精一杯の勇気だった。


「……ヒナ?」


リオンが静かに名前を呼ぶ。

ヒナは恥ずかしさに耐えきれず、視線を逸らした。


だが、それでももう一度──今度はしっかりと、リオンの目を見つめた。

頬を染めながらも、どこか覚悟を決めたような瞳で。


その瞬間、リオンの中で何かが弾けた。


「……そっか。」


微かに笑ったリオンは、ヒナの顎を軽く持ち上げると、今度は自分からキスをした。


深く、舌を絡めるような濃厚なキス。


口を開かされ、唾液を奪われるように貪られると、ヒナはたちまち頭がぼんやりとしてくる。


──リオンさんのキス、前よりも……


甘く、熱い。

支配するようで、でもどこか優しさすら感じるそれに、ヒナはゆっくりと溶かされていった。


気づけば、リオンに押し倒されていた。


「ん……っ……」


ヒナは夢中で応えながら、無意識にリオンの背中に手を回す。触れた肌の温もりに、胸が高鳴る。


けれど、すぐに唇を離される。

「……っ…。」

唇が離れた途端、ヒナは名残惜しそうにリオンを見つめた。


その表情を見たリオンは、一瞬だけ目を細めると、再び深く口づける。


「……ぁ……」

ヒナの指が、リオンの服をぎゅっと掴む。


──もっと、もっと、求めてほしい。


腕を掴まれ、乱暴に服を脱がされる。

肌を弄られ、首筋に甘噛みされ、舐められる

与えられる快楽の強さに、ヒナの意識はだんだんと溺れていった。


──支配される行為。


それが、まるで自分が求められているかのような錯覚を生む。ヒナの中では、いつの間にかその感覚が喜びに変わっていた。


「……っ、ぁ……リオン、さん……っ」


呼吸が荒くなる。

息が詰まるほどの快楽に、思考がぼやけていく。


繋がる瞬間の甘く鋭い刺激が、ヒナの意識のすべてを塗り替える。

この感覚が、好き──…


リオンの俯くような顔をそっと覗きこもうとすると、視線に気がついたリオンがヒナをじっと見る。


この赤い瞳が熱を帯びたように見える瞬間が、好き──…。


もっと欲しい。

もっと求めて欲しい。

頭の中が次第に蕩けて、すべての思考が溺れていく。


何度も、何度も貪るように──…。

与えられないとわかっているのに、『愛』を求めてしまう。

刺激に敏感に反応し、果てることを繰り返す。


余裕なんて一切ないヒナが、

それでも今日は愛を知らない悪魔に教えたいと願っていた。

愛を与えることもなく、愛されたいと願うこともなく──

それが本当なら、あまりにも寂しい。


リオンにも、愛を知ってほしい。

誰かを大切に思う気持ちが、

ただの「魔力の譲渡」や「手段」じゃないことを……

伝えたい──…


「……す…き……、です…」


快楽の波に揺られながら、ヒナは途切れそうな息を継ぎ、

必死に短い言葉を絞り出した。


その声に、リオンの動きが一瞬止まる。

ちらりと、ヒナの顔を見下ろす。


潤んだ瞳で見上げるヒナをじっと見たリオンは、

何も言わず腕を掴み、強引に唇を塞いだ。


齧るような、熱のこもったキス。

呼吸ができないほど、深く、強く。


ヒナは意識が保てないほどの快楽の中で、

リオンがほんの一瞬、苦しむような、切ないような表情を見せたことに気づく。


──その表情さえ、愛おしく思えた。


耳元で、小さく唸るような声が落ちる。

それがヒナの承認欲求を強く満たした。

リオンの魔力が流れ込む瞬間、ヒナは恍惚の表情を浮かべる。喉元を甘く噛まれるたび、背筋が震えた。


自分が、必要とされている──。

そんな錯覚を覚えるほどの激しい行為に満たされ、

リオンの視線に自分の心臓が跳ねる音すら心地いい。


ただの魔力の譲渡。

それが、次第に抗えない快楽へと変わっていく。

触れ合いたい、愛し合いたいという天使の本能を刺激する。


渇いた魔力を求めたら、何度でも注いでくれる。

満たされないエリンへの愛も、

触れてもらえることの少なくなった寂しさも、

全部、拒絶することなくリオンは受け止めてくれる。


リオンの何気ない言葉に心を開き、頼り、甘えてしまうヒナ

ヒナ自身は気がつかないうちに、リオンに完全に依存していた──。


───────


気がつくと、リオンはベッドの端に腰掛けていた。

どこか気だるげに上着の袖を直しながら、ベッドの上に置かれたヒナの上着を摘み上げる。


そして、それをぽんとヒナに投げ渡した。

柔らかい布がヒナの胸元に当たり、軽く跳ね返る。


ヒナは静かに上着を拾い上げ、乱れた体にそっと羽織る。

袖を通すこともなく、ただ肩に掛けるように身を覆う。


「リオンさん……。」


「ん?」

赤い瞳が、ヒナを静かに見つめる。


「手を……繋ぎたいです……。」

ヒナが小さな声で言うと、リオンの眉がわずかに動いた。

だが、すぐに口元に薄い笑みを浮かべる。


「へぇ……。」


リオンはおもむろに腰を下ろし、ベッドに座り直した。

そして、ヒナの小さな手を掴むと、そのまま引き寄せるように体を動かし、ヒナを再びベッドに押し倒した。


「ヒナ……今日、オレのこと『好き』って言った?」


からかうような口調。

だが、どこか不快そうな表情が滲んでいた。


ヒナは視線を逸らし、黙り込む。

その様子を観察するように見ていたリオンは──突然、ヒナの唇を塞いだ。


思考を遮るように、深く、絡めるようなキス。

ヒナは戸惑いながらも、抗えずに身を委ねる。


──「ただいま。」


玄関の方から、エリンの控えめな声が聞こえた。


その瞬間、ヒナの身体がびくりと震える。


意識が、一気に覚醒した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。