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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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208/211

104 ガミメスのよとぎ&アパーレの最期(後編)

 それからどれくらい時が経ったか、わからない。

 フーリッシュ王国の城下町を、ひとりの男が歩いていた。


 顔はボコボコで血が滲んでいて、髪の毛はボロボロでハゲ散らかしている。

 立派だった服は見る影もなく、あちこち破れて汚れきっている。


 その姿はどう見てもホームレス。

 通りすがる人たちは「うわっ」「くさっ」などと言いながら、鼻を押さえて避けている。


 それならまだいいほうで、子供たちからは石を投げられる。


「目障りなんだよ!」


 と、いきなり蹴られ、路地裏にあるゴミ箱に突っ込んだ。


「う……うう……!」


 這い出たその男は、路地裏から見ていた。風に揺れる指名手配の紙を。

『国家反逆罪』として指名手配されているのは、アパーレ。


 立ち話をしている婦人たちの話題も、もっぱらアパーレであった。


「あのクソアッパレ男、まだ逃走中なんですって」


「嫌ねぇ、あんなのがうろついてるなんて」


「ずっと私、ネズミみたいだって思ってたわ」


「私も! 大臣だった頃はへーこらしてたけど、心の中ではずっとネズミみたいって思ってた!」


「いまじゃドブネズミも同然よねぇ、オホホホホ!」


 ホームレスの瞳の端に、涙の粒が浮かぶ。


 ――なんで……なんで、こんなことに……!


 ホームレスの脳裏には、かつてこの大通りを歩いていた、栄えある自身の姿が浮かんでいた。

 最高級の身なりで、人々からの羨望のまなざしを一身に受ける。


 公園では幼い子供たちに囲まれて満面の笑顔。

 お城では揉み手をする部下たちにチヤホヤされている。


 良い思い出が、泡のように浮かんでは消えていった。

 最後に、ユニバスの顔が浮かぶ。


 ――なにもかも、ユニバスのせいだ……! アイツさえいなければ……!

 こうなったら、あの秘密の倉庫にあるユニバスの発明品をなんとか持ち出して……!


 また名を上げ、大臣の座に返り咲くしかない……!

 でも……指名手配されているいまの状態では、あの倉庫に近づくことすら……!


 ふと、ある顔が浮かんでくる。

 それは、微笑む妻の顔であった。


 ホームレスはハッ! と顔をあげる。

 その顔をぶるんと振って、流れかけた涙を振り払った。


 ――そうだ……! 泣くにはまだ、早いっ……!

 僕にはまだ、味方がいた……!


 スクッ、と立ち上がるホームレス。


 ――最愛の妻がいれば、僕は何度でもやり直せる……!

 それに屋敷を売れば、再起のための資金も作れる……!


 その瞳には、復讐の狼煙のような炎が燃え上がっていた。


 ――真の愛の力で……! ユニバスに、復讐をっ……!


 アパーレは夜になるのを待つ。

 それから人目を忍んで移動を開始し、かつての我が家の前にたどり着いていた。


 道中、壮絶ないじめに遭ったのだろう。

 顔はよりいっそうボコボコに、身なりは貧相を通り過ぎて素っ裸になっている。


 腰には綻びたゴザ、首には長いロープが巻かれていて、あまったロープをズルズルと引きずっていた。


 ――くっ……! 野良犬に襲われたうえに、子供たちには遊び半分で殺されかけるし、まさか身ぐるみまで剥がされるとは……!

 でも、やっと……やっと、たどり着いた……!


 ほうほうの体で屋敷の中に入ったアパーレ。

 出迎えてくれた妻を見て、とうとう男泣きしてしまう。


「あ……アッパレ……! ただいま、ハニーっ……!」


 妻も泣いて喜んでくれるかと思ったのだが、まるで入り込んできたゴキブリを見たかのような、嫌悪感丸出しの表情をしていた。


「わっ……汚っ……くさっ! あなた! あなたーっ!」


 妻が呼ぶと、ひとりの若い男が出てくる。

 それは、アパーレの部下のひとりだった。


「けっ、ケッパレ!?」


 アパーレのその一言で、部下の男は正体に気づく。


「なんだ……ホームレスかと思ったら、アパーレ元(・)大臣か」


「なっ、なんでキミが、僕の妻といる!? さては、浮気を!?」


 妻はとんでもない、という表情で言い返した。


「もうあなたは、私の夫でもなんでもありません!」


 妻はかつてアパーレから叩きつけられた『絶縁状』を突きつける。

 アパーレは「ぐっ……!?」とぐうの音も出なくなる。


 しかしすぐに、逆ギレしだした。


「り……離婚したくらいで浮気するとはっ! こ……この、アバズレがっ! ここは僕の屋敷だ! 出ていけ、出ていけーっ!」


 すると部下は、妻を抱き寄せながら毅然と言った。


「この屋敷はもう、お前のものじゃない。そしてこの人の心にも、お前の居場所はない」


 妻も、部下に抱きつきながら言い返す。


「この人が、屋敷の名義を書き換えてくれたんです! 他にもいろいろ手続きしてくれて、相談にも乗ってくれて……だんだん、大切な人に……!」


「きっ……きえええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 半狂乱になって襲いかかるアパーレ。

 しかし、パァン! と部下のビンタ一発で返り討ち。


 そのまま屋敷の外に蹴り出され、表通りにゴロゴロと転がった。


「出てけ! この変態無能アッパレ野郎がっ!」


 かつての部下からのあまりの物言いに、アパーレは憤然と立ち上がる。


「と……取り消せ! 仮に変態だったとしても、有能な変態だっ! 無能はユニバス……!」


 その後ろを、1台の馬車が通り過ぎる。

 アパーレの後ろから伸びていたロープが車輪にからまり、アパーレはそのまま地面を引きずられた。


「ぎっ……ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 しかも腰に巻かれていたゴザは剥がれ、生き恥のような姿でもがき苦しみながら、アパーレは夜の町へと消えていく。

 馬車の御者はロープが引っかかっていること気づかず、そのままアパーレは10キロ離れた隣町まで引きずり回されたという。


 その後の彼の消息を知る者はいない。


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― 新着の感想 ―
You Noな変態
そういえばあの勇者は今どんな悲惨な目にあってるんだろ?w
実質市中引回しの刑…えぐぅ…
感想一覧
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