103 ガミメスのよとぎ&アパーレの最期(前編)
トランスの馬車は、夜の森の一本道を走っている。
トランスの目は光っていて、車のヘッドライトのように夜道を明るく照らしていた。
しかし御者席は無人。
精霊の力を取り戻したトランスは、無人でも走ることができるのだ。
馬車の中の寝室。
ベッドの上では、バスローブ姿のユニバスとガミメスが向かいあって座っていた。
ユニバスはあぐらをかいて、ガミメスは足を崩して座っている。
ガミメスのバスローブは丈が短いので、太ももが丸出しになっていた。
いまはふたりっきりなので、ガミメスの顔はニヤニヤが止まらない。
「あーあ、本当に逃げちゃうなんて……ざぁこ」
「しょうがないだろ」と、バツが悪そうにするユニバス。
「頂上から麓に降りたら、まさかあんな大勢の人が旗を持って出迎えてくれるなんて、思いもしなかったんだから」
オソレヤマの麓で、ユニバスたちはユニバス王国の設立を祝う群集に迎えられた。
みなユニバスの顔が描かれた小さな旗を持っていて、「ユニバス様、ばんざーいっ!」と旗を振ってくれていた。
精霊姫たちは大喜びだったが、ユニバスは生きたまま心臓を引き抜かれたような表情になっていた。
「そのうえ、王様が3人も集まってくるなんて……」
生きた心地がしない表情で馬車を飛ばすユニバス。
その後ろからポーキュパイン、トコナッツ国王、キングバイツ国王の馬車が追いかけてきている。
やれやれ、とため息をつくユニバス。
「なんとか逃げ切れてよかったよ……」
「でも、本当によかったの?」
「いいもなにも、俺は王になるつもりは……」
「ないの?」
「いや、それが精霊たちのためになるのなら……。でもいきなり、あれだけの面々をいちどに相手にするのは……。いまの俺には、ちょっと……」
ユニバスは歯切れの悪い言葉を断ち切って、こう締める。
「まずは当初の目的どおりユグドラララに行って、どうするかはそれから考えるよ。あんなことがあった後だから、今夜だけはゆっくりしたい」
「じゃあ約束どおり、今夜はずっといっしょにいてくれるんだね」
「ああ。このあたりの森は人通りがないから、トランスを朝まで自動走行させても大丈夫だ。寝て起きる頃には、ユグドラララに着いてるだろう」
ユニバスは、内心で思い返していた。
――オソレヤマの頂上では危ないところだったけど、ガミメスの機転によって助けられた。
ガミメスはその手柄のご褒美として、俺に『よとぎ』がしたいと言いだしたんだ。
ユニバスの脳裏に、以前『よとぎ』をしてくれたティフォンと、同じく『よとぎ』をしてくれたイズミの姿が浮かぶ。
――『よとぎ』はこれまで、ティフォンとイズミにもしてもらっている。
だから、ガミメスがするのを断る理由は無い。
無い……はずなんだけど……。
ユニバスのこめかみに、タラリと冷や汗。
目の前のガミメスは、バスローブの襟に手をかけ、肩をはだけさせていた。
――ガミメスのは、ガチっぽいんだよなぁ……。
ユニバスが不安に感じていると、ガミメスが「きゃはっ!」と抱きついてくる。
そして、舌なめずり。
「じゃあ、朝までしよっか……! あたしナシじゃ、いられない身体にしてあげる……!」
ガミメスは正面から、ユニバスを抱きすくめる。
「お、おい、ガミメス、なにをするんだ」
ガミメスは妖艶な表情で、ユニバスの耳元でささやきかけた。
「そんな驚かないで、黙って目を閉じてて」
ガミメスの手が、ユニバスのバスローブの帯をほどく。
しゅるり……。
「!」
「力を抜いて、好きなあたしの顔でも思い浮かべてて……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夜道を疾走するトランスの馬車。その中では、熱い夜が繰り広げられていた。
肌もあらわに、妖艶に舌を出したガミメスと、初めての刺激、そして官能に驚くユニバスの姿が……。
「す……すごい……! すごいよ、ガミメス……!」
「始まったばかりなのに、もうビンビンじゃん……。ユニバス様は、こっちのほうはクソザコだったんだね。ざぁこ、ざぁこ、ざぁこぉ……!」
「ああっ、も、もっと……!」
「なにをもっとなの? ちゃんと言わないとしてあげない」
「えっ……だって俺はもう、こんなに……!」
「ダーメ。嫌なら、ティフォンとイズミにしてもらえばいいじゃん」
「そ……そんな……! だ、ダメなんだ……! もう俺は……ガミメスがいないと、ダメな身体になってしまったんだ……!」
「きゃはっ! してもらいたくて必死じゃん! じゃあ、ちゃんと言って」
「が……ガミメスに比べたら……ティフォンとイズミなんて……ザコだ……! それに、俺なんて……」
夜空に絶頂がこだまする。
「くっ……クソザコだぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おい、ガミメス? 抱きついてきたと思ったら、急に寝落ちした……。今日はいろいろあったから、疲れてたんだな」
ユニバスはガミメスを抱いて、「よっと」とベッドに寝そべった。
ユニバスの胸の上で、ガミメスはなおもスヤスヤと眠っている。
「むにゃ……もう、そんなに抱きついて……あたしを一生離さないつもり……?」
そんな寝言とともに、ギューッと抱きついてくるガミメス。
ユニバスはガミメスの頭をやさしく撫でながら、「うん、離さないよ」と答える。
「キミだけじゃない……ティフォンもイズミも……。ぜったいに、幸せにしてみせるから……」
トランスの馬車は、夜汽車のようにひた走る。
蒸気のかわりに砂煙を舞い上げ、汽笛のかわりに蹄を鳴らし、夜の闇にとけていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時は少し戻る。
オソレヤマの麓の観戦ステージでは、ジャンジャンバリバリがイベントの終了を告げていた。
『ブックマークもこれにて終了じゃーん! 当たった人は、投票券を換金所にもってくじゃーん!』
観客たちは三々五々。
「あーっ、今回のブックマークも楽しかったなぁ」
「でもさすがに、メインの予想を的中させたヤツはいないだろ」
「そりゃそうだろ、あんな大穴に賭けたヤツは誰も……」
と、とある観客の一団がブックマークの掲示板の横を通り過ぎようとしたところ、ひとりの少女……カレイラが掲示板の前で投票券を取り出していた。
「ユニバス様がオソレヤマに入るのを見て、記念に賭けてみたんですよね……。たった100¥だから、たいした額には……」
カレイラは、掲示板のU28の倍率と、手元にある100¥の券を交互に見つめていたのだが……。
「さっ……3おくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
観客たちによって胴上げされるカレイラ。
観客席のまわりはお祝いムードであったが、その隅ではただならぬムードが漂っていた。
兵士たちに取り押さえられ、跪かされるアパーレ。
3人の王とひとりの姫君が、アパーレを厳しい表情で見下ろしていた。
「貴様がユニバス殿にしたことは、すべて調べがついておる……! ユニバス殿の手柄を、すべて横取りしていたとは……!」とトコナッツ王。
「俺はお前みたいなのが大っ嫌いなんだ! 見てると、あのヘタレ勇者を思い出す……! この場で首を刎ねてやろうかぁ!?」とキングバイツ王。
トコナッツ王は女性陣に話を振っていた。
「ユニバス殿の、奥方の意見は……」
するとナナホシとポーキュパインが「「はい!」」と、同時に返事をする。
ふたりはキッ! とお互いを睨み合ったあと、意見を述べた。
「その男にはもう、この世に居場所はないのだ!」
「よって、追放刑がもっと重い刑罰になると思います!」
















