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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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101 母の想い

 それからワルメシアンは兵士たちの手によって縛り上げられ、ナナホシの裁きを受けていた。


「ワルメシアンよ、わらわの両親を殺めるとは……! 絶対に許さないのだ! この場でわらわの手で……!」


 ナナホシが手にしていた剣を振り上げた瞬間、ワルメシアンは縛られた身体でダイビング。

 ナナホシの足元に滑り込んで、靴をベロベロ舐めはじめる。


「わ……私も『精神支配の環』に操られていた被害者なんです! あなた様が生まれた時からずっと、私はあなた様の忠犬ですぅぅぅぅ~~~~っ!」


 その情けない姿を目に映していたナナホシは、やるせない気持ちになった。


 ――……こんな女に……パパ上と、ママ上は……。


「もう、よい……。そなたは反逆者として、国法にのっとり改めて沙汰を下す。引っ立てよ……みなも下がってよい」


 兵士たちによって引きずられていくワルメシアン。

 命乞いの声も、もうナナホシには届いていなかった。


「そういえば、もうひとりのキモいオッサンは?」とガミメス。


「あっ、あちらをご覧ください!」と空を指さすイズミ。


 見ると、飛行船のゴンドラに乗ったアパーレが、頂上から逃げていくのが見えた。


「幼女の拳は、またとないご褒美だったよ! また僕に会いたければ、麦わら帽子にワンピース姿で……!」


 怪盗気分のアパーレ。ティフォンは慌てて飛びあがった。


「大変、捕まえないと! ……あっ!?」


 しかし飛行船がドオンと破裂し、アパーレは真っ逆さま。


「あっ……ぱれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ユニバスたちは「あらら……」といった表情で、飛行船の破片が舞い散る空を見上げ、尾を引くように消えていく絶叫を聞いていた。

 そんな中でも、ナナホシだけは一瞥もせずに背を向けている。


「もう、よいのだ……なにもかも……」


 すっかり元気をなくし、肩を落としたままとぼとぼ歩いていくナナホシ。

 ひとりになりたいのか、ユニバスたちから離れ、崖っぷちに腰掛けていた。


「ナナホシ様、大丈夫でしょうか……?」とイズミ。


「いまは、そっとしておいたほうがいい」とユニバス。


「そうそう、ほっとこほっとこ!」とユニバスの腕に抱きつくガミメス。


「そんなことよりユニバス様、あたしお腹すいちゃった!」


 ガミメスの隣にいたイドオンとテマリのお腹も、ぐーぐー鳴っている。


「そっか、キミたちはずっと荷車の中にいて、なにも食べてなかったんだな。俺も頂上に着いたら、弁当を食べようと思ってたんだ」


 兵士たちはナナホシの命によってすでに下山を開始しており、頂上はすっかり静寂と平穏を取り戻していた。

 ナナホシのいる所から少し離れた、見晴らしのいい崖っぷちで敷物を広げ、わいわいとピクニックを始めるユニバスたち。


 イドオンとテマリは、カップ麺タイプの『チーズカレーヌードル』を食べて上機嫌。

 ティフォンが「ナナホシちゃんもおいでよー!」と声をかけるが、ナナホシは振り向きもしない。


 ナナホシがぼんやりと空を眺めていると、ふと、なにかがヒザの上に乗せられた。

 それは竹皮につつまれた弁当であった。運んできたのは地の精霊たちで、目が合うとグッと親指を立て、そのまま「おーっ!」と走り去っていった。


 ナナホシは何の気なしに、竹皮の包みを解いてみる。

 すると、そこに入っていたのは、ユニバスの顔の旗が刺さった……。


「カレー……おにぎり……!」


 ナナホシは震える手で、旗が刺さっていない端っこのおにぎりをひとつ取ると、三角の頂点をはむっとひと口。

 するとその脳裏に、あたたかな記憶が蘇ってきた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 オソレヤマの頂上。あたたかな日差しの下、崖から少し離れたところで敷物をひいて、寛いでいる国王と王妃。

 そこに、虫を身体じゅうにくっつけたナナホシが駈けてくる。


「パパ上、ママ上、見るのだ! 今年も虫さんがいっぱいなのだ!」


 息を切らせて敷物の上に座り込むナナホシ。お腹がぐぅと鳴った。


「ああ……。こんな時こそ、カレーが食べたいのだ……。山の上でもカレーが食べられたらいいのに……」


 すると王妃は笑顔で、布包みを開いて見せる。


「じゃじゃーんっ! はい、カレーおにぎりよ!」


「か……カレーおにぎりっ!? カレーをおにぎりするなんて、ママ上は天才なのだ!」


「うふふ、考えたのはママじゃなくて、カレーのレシピを教えてくれた荷物持ちの人よ」


 ナナホシはカレーおにぎりに手を伸ばそうとするが、王妃は「ああ、泥だらけじゃない」と、布包みを自分のヒザの上に置いて、ナナホシの顔をハンカチで拭う。


「んふふ、くすぐったいのだ!」と嬉しそうに目を細めるナナホシ。


「これでよし、っと。さぁ、めしあがれ」


 王妃にそう言われ、ナナホシは布包みの上のカレーおにぎりを、両手でそれぞれひとつずつ持つ。

 右のおにぎり、左のおにぎり、と交互に食べて目を輝かせた。


「おっ、おいしいのだっ!」


 それからは夢中になっておにぎりを頬張るナナホシ。

 途中で「ぷはーっ!」と顔をあげると、微笑む国王と王妃と目が合った。


 やおら、スックと立ち上がるナナホシ。

 まわりでふわふわ飛び交うシルクミナス、そしてまわりの大自然を見回したあと、おにぎりを持ったままバンザイする。


「ああっ……! 大好きな虫さんがたくさんいる、大好きなオソレヤマのてっぺんで……! 大好きなパパ上とママ上といっしょに、大好きなカレーが食べられるなんて……!」


 ナナホシは極上の笑顔で天を仰ぐ。


「最高なのだぁぁぁぁーーーーっ!!」


 国王と王妃も笑っていた。ナナホシはふたりに飛びついて頬ずりした。


「あったかいのだ……! パパ上、ママ上……大好きなのだ……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ヒザにあったカレーおにぎりが、涙で滲む。


「い……いま、わかったのだ……。あれが……あれこそが……『幸せな景色』だったのだ……!」


 瞳は、水たまりのように潤んでいた。


「パパ上とママ上がいなくなって……。わらわは、がんばらなきゃ、って思ったのだ……! でも、でも……ダメだったのだ……! わらわのやっていたことは、自然を破壊し、他国の人間を長に据えて……民を苦しめることばかりだったのだ……!」


 きつく目を閉じると、とめどなく涙があふれだす。


「パパ上……ママ上……! わらわは、どうすれば……どうすればいいのだ……!?」


 ふと、思いでのなかで感じた、あたたかな感触が背中に生れる。

 振り向くとそこには、シルクラースが寄り添っていた。


 ナナホシが顔をあげると、目が合う。

 シルクラースは慈しむような瞳をしていた。


「……ま……ママ……上……? ママ上……なのだ……? 崖から落ちた、わらわを助けてくれたのは……虫さんになった……ママ上……なのだ……?」


 シルクラースの顔に、亡き王妃のやさしい微笑みがだぶる。

 ナナホシはその胸に飛び込んでいた。


 声をあげて泣くナナホシ。羽根でナナホシの身体をつつみこむシルクラース。

 ユニバスたちはただじっと、その様子を見つめていた。


 それからしばらくして、ナナホシは立ち上がると、いつもの堂々たる足どりでユニバスたちの所に戻る。

 後ろに、シルクラースを連れて。


 そして、決意に満ちた表情でユニバスたちに宣言した。


「わらわは決めたのだ!」


「あっ、ハナたれてる」


 ティフォンに言われ、ナナホシは後ろにいたシルクラースの胸毛に顔を埋め、「チーン!」と鼻をかんだ。

 そして、ふたたび振り向いて言った。


「わらわは決めたのだ! この国の人間は、死んだあとに虫さんになる! ならばこの国を、人間だけでなく虫さんも幸せになれる国にするのだ!」


「ふーん、具体的にはどーすんの?」とガミメス。


「そのためにこの国を……もっともっと、緑でいっぱいにするのだ!」


「素晴らしいお考えだと思います!」と両手を合せて賛同するイズミ。


 ナナホシはユニバスを見据えて続けた。


「そなたはどう思うのだ?」


 いきなり話を振られてユニバスは「えっ?」と戸惑ったが、目をそらしつつも答えた。


「は、はぁ……とても……いい……と、思います……」


「ならばユニバスよ、わらわの婿になるのだ!」


 これにはユニバスだけでなく、精霊姫たちもビックリ仰天。


「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


「カレーおにぎりでピンときたのだ! そなたこそが、この国にカレーをもたらした『伝説の荷物持ち』なのだろう!? この国にはいま、そなたのような人間が必要なのだ!」


 ユニバスはキョドるあまり、へんな言葉遣いになってしまう。


「おっ……おおっ、おたわむれを……!」


「たわむれなどではない!」


 ナナホシはカレーおにぎりに付いていたユニバスの顔の旗を手に持っていたのだが、それを高く振り上げた。


「これが……わらわの愛の証だっ!」


 ……ドスゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 その一部始終は、中継が復活した麓の観戦場のスクリーンでもアップで報じられていた。

 山の頂上の地面に、旗が突き立った瞬間、


「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 観客席は驚愕に包まれていた。


「は……旗が……旗が立った……!」


「しかも、この国の女王、自らの手で……!」


「ってことは、このオソレヤマ一帯は……!」


「ゆ……ユニバス王国ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


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