98 アパーレの野望4(後編)
しかしその剣は、ナナホシの首を斬り落とす寸前で、近くにいた別の兵士が受け止めていた。
「そこまでだっ!」
声は、天からした。
見上げると、飛行船から垂らされたゴンドラに乗るアパーレの姿が……!
飛行船とゴンドラは明らかに結婚式で使うためのものだったようで、花で飾られている。『アッパレなのだ!』という垂れ幕が下がっていて、風に揺れていた。
アパーレは、着地したゴンドラから優雅に下りる。
その手にはワルメシアンと同じく丸めた旗を持っていたのだが、それを剣のように背中に携えながら歩いてくる。
「アパーレ!?」と目を剥くワルメシアン。
アパーレは居丈高に怒鳴った。
「ケッパレ! 我が妻に、汚い手で触るな! 離れろっ!」
すると兵士たちはナナホシを解放し、かわりにワルメシアンを取り押さえていた。
ワルメシアンは跪かされながら、毒のオーラを放っているような顔でアパーレを睨みあげる。
「く……くそっ! お……おのれぇぇ……! これも、環の力か……!」
兵士たちの首には、『精神支配の環』が光っていた。
解放されたナナホシはユニバスのほうに逃げようとしたが、アパーレは『精神支配の環』の操作用の端末を取りだし、ダイヤルをひねった。
「あ……!」
するとナナホシの足が止まり、瞳に戻りつつあった光がふたたび消えた。
ユニバスに向かっていたその足が踵を返し、アパーレのほうを向く。
「あ……アパーレ様……! 大好きなのだっ……!」
走ってきたナナホシを、デレデレ顔で抱き上げるアパーレ。
「ふふふ、アッパレ……! 小さき者よ……! かわいい我が妻よ……!」
アパーレは蚊帳の外にいるイドオンとテマリ、いまだに兵士に取り押さえられているふたりにも視線をやる。
「そっちの小さき者たちは僕の愛人、栄えある第1号と2号にしてあげよう……!」
「え……?」「まり……?」と目が点になるイドオンとテマリ。
アパーレは気持ち悪いウインクを返す。
「キミたちのまっさらな器に、この僕が花を生けてあげるから、ネッ」
精霊姫たちは、なにがなんだかわからずにいた。
「えっ……!? 今度はなに……!? なんなの……!? それに、あの人誰なのっ……!?」とティフォン。
「フーリッシュ王国の、アパーレ大臣様です……! でもいったい、なにが起こってるのでしょうか……!?」とイズミ。
ユニバスは言った。
「『精神安定の環』だ……! ナナホシや兵士たちが着けている、あのチョーカー……! あれで、アパーレに精神をコントロールされているんだ……!」
――あれは、俺がフーリッシュ王国の魔導装置課で働いていた時に発明したもの……!
でも危険だから廃棄申請をしたはずなのに……! 廃棄されていなかったのか……!
すっかりこの場を制圧した気でいるアパーレは、両手を広げる。
「アッパレ! 最初からこうしておけばよかったのだ! いまこの頂上にいる者たちは、この僕の思いのまま! いやはや、ひとあし先にこの国の王になった気分だよ!」
アパーレは背中の旗を掲げながら続けた。
「あとは、この旗を立てれば……! 王としての輝かしい第一歩が始まるのだ……!」
ティフォンは叫んだ。
「あなたも、ここにフーリッシュ王国の旗を立てるつもりなの!? そんなことさせないんだから!」
すると、意外な答えが返ってきた。
「しないよ」
「えっ?」
「立てないさ……フーリッシュ王国の旗なんて……! 最初はそのつもりだったのだが、もっと手っ取り早い方法を思いついたんだ……!」
アパーレは丸めていた旗を、バッ! と広げる。
彼が持っていたのは、フーリッシュ王国の旗ではなかった。
そこに翻っていたのはなんと、アパーレの顔……!
「この地を『アパーレ王国』とする……! その後に、リングラッドの女王ナナホシと結婚すれば……! リバーシの白が一気に黒に裏返るように……! リングラッドはすべて、僕のものになるのだ……!」
「なっ……!?」と唖然とする精霊姫たち。
「なんか、そっちの方がイヤっ! それこそ、絶対にさせたくない! だって会ったばかりなのに、わたし、あなたのことが大っ嫌いだもん! 勇者と同じ匂いがする!」とティフォン。
「はい! 失礼ですが、わたくしもあなた様のことが好きではありません! 来世でのお越しをお待ちしております!」とイズミ。
「アッパレ、愛人3号と4号よ……そう怖がらなくてもいい。すぐにペットのように素直になるさ、こんなふうに、ネッ」
ナナホシは、光のない瞳でアパーレに頬ずりしている。
「わ……わたしたちも愛人にするつもりなのっ!?」と総毛立つティフォンとイズミ。
「ケッパレ、ややとうが立っているが、ギリギリ合格さ。キミたちの鍵穴が錆びつく前に、僕が鍵を挿してあげよう」
ゾワゾワゾワッ! とする精霊姫たち。
アパーレはその場にいる者たちを睥睨する。
「さて……! ここにいる者たちの中で、兵士と精霊女たちは使い途がある……! シルクラースも上質の金の絹糸が取れる……!」
ワルメシアンはサッ、と青ざめる。
「あ……アパーレ国王! 私にも使い途があるめしあ! リングラッドの有力者たちに顔が利きます! それに私は初めて会った時から、アパーレ様は王の器だと思っていためしあ!」
アパーレから品定めをするような視線を向けられ、ワルメシアンは四つん這いになる。
「た……たったいまから、あなた様の忠犬めしあ! これからは、犬とお呼びくださいっ! ワン! ワンッ! ワンワーンッ!」
「アッパレ、身の程をわかっているな。アパーレ王国では、18歳以上のババアはすべて使役動物になるのさ」
アパーレが目で合図すると、ワルメシアンの背後にいた兵士が、ワルメシアンの首に『精神支配の環』を装着する。
するとワルメシアンの目から光が消える。ゴロンと横になって腹を見せるという、犬の服従ポーズで寝転がって舌を出した。
「ハッハッハッハッ……!」
犬のように荒い息をしながら、主人に媚びるように、アパーレの足元でゴロンゴロンと転がるワルメシアン。
アパーレはその姿を一瞥しただけで、視線をユニバスに移した。
「ケッパレ、最後のひとりである、キミはどうする? これまでの活躍を見たところ、かなり有能なようなので、蜂の巣にするのはいささか気が引けるが……」
『蜂の巣』という言葉に反応し、クロスボウの兵士たちがユニバスに向かって一斉に構えをとる。
「誓うかい……? これから一生、僕の犬になると……!」
その言葉に、ユニバスの脳裏に、過去のアパーレの顔がフラッシュバックした。
















