97 アパーレの野望4(前編)
失われていた記憶のすべてを、ナナホシは思い出した。
シルクラースの怒りに共鳴するように、身体を怒りで膨らませる。
「わ……ワルメシアンっ……! お……お前が……! お前が、わらわのパパ上と、ママ上を……っ!!」
「おやおや、ついに思い出しましたか」
悪事を見破られても、ワルメシアンは悪びれもしなかった。
「王妃が病気がちだったのは、食事に毒を混ぜていたから……! そしてお前たち一家は年にいちど、オソレヤマに登山に行く……! その時を狙って……国王も殺してやった、め・し・あ……!」
「ゆ……許さない……! 許さないのだっ!」
「許さなかったらどうするめしあ? ん? どうするめしあ? ……こうしたら、どうするめしあ?」
ワルメシアンが指をパチンと鳴らすと、兵士がクロスボウを放つ。
シルクラースが矢弾で撃ち抜かれ、バッタリと崩れ落ちた。
捕らえられた獣のように、叫んで暴れるナナホシ。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「ああっ、いい鳴き声……! お前が生まれた時からずっと、その声を聞きたいと思っていためしあ……! さぁ、もっともっと鳴くめしあ……!」
暴れるナナホシをさらに煽るように、ワルメシアンはナナホシに顔を近づける。
「お前にはいろいろ利用価値があったから、本当は生かしておくつもりだった……! でも、いろいろ事情が変わっためしあ……! なので、やっぱり殺すことにしためしあ……! さぁ……死ね、め・し・あ……!」
ワルメシアンが顔を離して合図すると、そばにいた兵士がナナホシに向かって剣を振り上げる。
「や……やめろっ……!」とユニバス。
「や……やめてぇ!」とティフォン。
そして、イズミは……。
「お待ちくださいっ!」と、ちいさく手を挙げていた。
イズミは窮地に陥ると、かえって気丈になる。
委員長のような、キッパリとした口調で言った。
「ナナホシ様には、利用価値があったのですよね!? でしたら、なにも殺さなくてもよいと思います!」
これは、処刑を思いとどまらせようとしているのでもあるのだが、ユニバスの名案が閃くまでの時間稼ぎの意味もあった。
ワルメシアンは魔女のように振り返り、イズミに言った。
「いいえ……殺さなくてはならないめしあ……!」
イズミは即、問い返す。
「でしたら、納得のいく理由をお聞かせください!」
「ふん……! お前に、そんな権利はないめしあ……!」
そう言われても、イズミは一歩も退かなかった。
「わたくしには無くても、ナナホシ様にはあります! 殺される理由くらい、ちゃんとご説明するべきだと思います!」
ワルメシアンの脳裏に、アパーレのいやらしい顔が浮かぶ。
「アパーレ……! すべては、あのクソアッパレのせいめしあ……!」
忌々しそうなワルメシアン。
「本来の侵略計画は、勇者ブレイバン様がこのクソガキと結婚して、ブレイバン様がリングラッドの王になるはずだっためしあ……!」
ワルメシアンの脳裏にブレイバンの顔が浮かび、そして急にウットリした表情になる。
「そのあとは、この大人の色香でブレイバン様を寝取って、この私が王妃になるはずだっためしあ……!」
勇者の話題が出てきたので、精霊姫たちは「うえっ」と嫌そうな表情になった。
「あの人ってホントに、どっからでも出てくるんだね……。ホント、ゴキブリみたい……!」とティフォン。
ワルメシアンは急に激昂して、地団駄を踏みだした。
「それをっ! それをっ! ブレイバン様が行方不明なのをいいことに! あのクソアッパレが! 『精神支配の環』をクソガキに付けたことをいいことにっ! 自分が結婚して、リングラッドの王になるなどと言い出した! あんなロリコンクソアッパレが王になってしまったら、美魔女の私はすぐに御役御免になってしまうめしあ!」
ワルメシアンは天を仰いだ。
「だったら、こっちにも考えがある……! クソガキを殺してしまえばいいだけのこと……! そうしたら、ロリコンクソアッパレは御役御免になり……! そしてこのオソレヤマを支配したのがこの私だと、フーリッシュ国王にアピールすれば……!」
ワルメシアンは邪悪さを取り戻した笑みで、ユニバスたちを見る。
「この私がリングラッドの女王になるのも、夢ではないめしあっ……!」
精霊姫たちはドン引きだった。
「あ……あきれた……! なんて人たちなの……!」とティフォン。
「私利私欲のために争いあって、罪のない方々を傷つけるなんて……!」とイズミ。
「なんとでも言うがいいめしあ! クソガキの首がこの頂上に転がった時点で、リングラッドは混沌に包まれる……! 私は、混沌の女王になるめしあ! さぁ、その幕開けを、しかと拝むといいめしあっ!」
……ギラリッ……!
と、天に掲げられた剣の切っ先が煌めく。
もはや、時間稼ぎもできそうもない。
ワルメシアンは手をかざして叫んだ。
「やれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!」
ティフォン、イズミ、イドオン、テマリの絶叫がこだまする中、剣はついに振り下ろされたっ……!
……ガキィィィィィィーーーーーーーーーーーーンッ!!
















