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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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94 VSシルクラース

 麓の観客席は、入りきれないほどの人でごった返していた。

 町中はもはや誰もおらず、町じゅうすべての人間が集まってきて、スクリーンに注目している。


 無理もない。前人未踏の地に、ついに到達者が現れたのだから。


 誰もが思っていた。将来そんな人間が現れるとしたら、有名な王国兵士の隊長か、はたまた冒険者ギルドのエースだと。

 ブックマークのオッズとしては、1.0000000001倍のような、誰もが知る大本命の人物であろうと。


 しかしいまスクリーンに大写しになっている人物は、誰も知らなかった。


「あんなすげぇヤツが、いままで無名だったなんて、信じられねぇ……!」


「U28……名前はなんていうんだろうな……?」


「生きて帰ってきたら、サインをもらっちゃおっと!」


「私なんて、ファンクラブを作っちゃうもんね!」


 勇ましい表情で空を見上げるユニバスは、すでに男も女も虜にしている。

 シルクラースはゆっくりと高度を下げ、ユニバスを見下ろす。


 その全身は炎に包まれ、不死鳥のごとく燃え上がっていて、太陽のような熱気とまぶしさだった。


 精霊姫たちは思わず顔をしかめていたが、ユニバスは目をそらさない。

 シルクラースの背中にいる人影を、厳しい表情で睨み据えていた。


 まばゆく輝く人影が、立ち上がる。


『虫ケラのごとき人間よ、よくぞここまでたどり着いた……!』


 その人物……いや、モンスターは、全身が炎に包まれた悪魔だった。


 頭はヤギの頭蓋骨のような見た目で、めらめらと炎に包まれている。

 身体は、黄金でできた骨格標本のような姿。


 本来燃えているのは頭だけなのだが、シルクラースが燃えているので、その悪魔も全身が燃え上がっているように見えた。


『本来は、虫ケラに名乗ることはしないのだが……。はじめての登頂記念に教えてやろう、我が名はギドラ男爵! 獄炎をまといし最強の悪魔なり……!』


「あ……悪魔だぁーーーーっ!?」


 スクリーンの前は騒然となる。

 精霊姫たちもその禍々しさに直視できなくなり、ユニバスの胸に顔を埋めていた。


『悪魔を前にするのは初めてか! ならば存分に味わうがいい! 灼熱にして冷徹! 身を焦がされながら震えあがるという、未曾有の感覚を! フハハハハハハハハハーーーーーーーーッ!!』


 観客たちはスクリーンごしだというのに、悪魔の迫力にすっかり震えあがっていた。

 しかしユニバスだけは、逆に表情を緩めていた。そして、あっさりと言う。


『よかった、三流悪魔か』


 ギドラ男爵の笑いが消えた。


『恐怖のあまり、おかしくなったようだな! 死にゆく虫ケラに教えてもしょうがないのだが……特別に教えてやろう! 悪魔は階級によって身体が変わるのだ! この黄金のボディこそが、一流の悪魔である証……!』


 ユニバスは肩をすくめながら『たしかに』と同意した。


『一流の悪魔は黄金の身体をしている。純金でできているからな。でも……』


 ニッ、とわずかに口角をあげるユニバス。


『お前のそれは真鍮だ』


『……なっ!? なぜ、それをっ!?』


『職業柄、ね』


 ユニバスは口元の笑みを、挑戦的な笑いに変えながら続けた。


『俺は一時期、お前のような悪魔と、散髪に行くくらいの頻度でやりあってたことがあるんだ。その悪魔が、どうなったかわかるか……?』


 ユニバスは立てた親指で首を横に切る、いわゆる『首切りジェスチャー』をしてみせる。


『どいつもこいつもバッサリさ、長くなった襟足みたいにな』


 ギドラ男爵はボディが真鍮だと見抜かれて少し焦っていたが、ユニバスのあまりの物言いに、大言壮語だと見抜く。


『ふ……フハハハハ! これはこれは、驚いた! 悪魔相手にハッタリとは! そうか、人間一匹と精霊二匹、そのうえロクな装備もなしでは、それが精一杯なのだろうな!』


『装備ならあるさ、ちゃーんとな』


 ユニバスは左手を斜め上にかざして叫んだ。


『風の精霊よ、盾を!』


 それはまるで、出陣の前の王のような一言。

 すると少し離れたところに停めてあった荷車から、風で舞い上がるように大きな板が飛びだす。


 スクリーンを見つめていた誰かが、口々に言った。


「あ……あれはなんだ!?」


「大きさからいって、大盾だ!」


「そうか、あの大盾で炎の悪魔の攻撃を防ごうっていうんだな!」


「いくらなんでもあの格好じゃ、炎を浴びたら一発で終わりだもんな!」


 その大きな板は宙を舞い、掲げていたユニバスの左手に装着される。

 扉のように大きなそれはたしかに大盾だったのだが、白日のもとに晒された瞬間、誰もが驚愕した。


「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 スクリーンでアップになっていたのは、なんと……!


「なっ……なんだありゃ!?」


「ベニヤ板に、なんか貼ってあるぞ!」


「パイナップルだ! パイナップルの皮だ!」


 唖然となる観客たち。


「あんな果物の皮をくっつけた板で、炎の悪魔と戦おうなんて……! 無謀にもほどがあるっ……!」


「あんなの、あっても無くてもいっしょじゃねぇか!」


「や……やっぱり……あの悪魔の言う通りだった……」


「俺たちのヒーローは、恐怖でおかしくなっちまってたんだ……」


「終わりだ……! もう、終わりだぁぁ……!」


 あきらめムードが漂う観客席。

 ギドラ男爵は怒りを露わにしていた。


『ぐっ……ぐぬぬぬぬっ……! この私を、小馬鹿にするとは……! 人間風情がっ……! 許さんっ! 許さんぞぉーーーーーっ!』


 ゴオッ! と激しく燃え上がるギドラ男爵とシルクラース。

 精霊姫たちは『ひいっ!?』となっていたが、ユニバスはさらに小馬鹿にするように言う。


『おいおい、そのくらいで怒るなよ。お前はこれからもっと、屈辱的な目に遭うんだからな。だって……』


 ユニバスも、かつてないほどの怒りを露わにした。


『俺ぁ、大っ嫌いなんだ……! 精霊をそそのかして利用する、テメェらのようなモンスターが……!』


『調子に乗りおって……!』とギドラ男爵。


『ならば我が全身全霊の獄炎を持って、身の程を思い知らせてやろう……!』


 すると、シルクラースが羽根を大きく広げる。


『たかが……人間がぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』


 シルクラースが大きくはばたいた途端、柱のような業火が放たれ、ユニバスめがけて降り注ぐ。

 ユニバスはベニヤ板で、その炎を受け止めようとする。


『バカめ! 我が灼熱は骨すら残さぬ! そんな板きれなど、あっという間に消し炭よ! フハハハハハハーーーーーッ!!』


 精霊姫たちは最後の抱擁とばかりに、ユニバスをきつく抱きしめる。

 ユニバスたちが炎に包まれた瞬間、スクリーンはカッ! と白く飛んだ。


 観客たちはへなへなと崩れ落ち、うなだれる。


「お……終わっ……た……!」


 真っ白なスクリーンから聞こえるのは、ギドラ男爵の勝利の高笑い。しかしそれは、急に転調した。


『フハハハハハハハ……ハッ……はぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?』


 その異変に、観客たちは一斉に顔を上げる。スクリーンに映っていたものに、またしても……!


「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 そこにはなんと、盾を構えたままのユニバスが……。

 あれほどの火炎放射を浴びてなお、平然と立っていたのだ……!


『ばっ、ばかなっ……!? ばかなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?!?』と絶叫のギドラ男爵。


 おそるおそる目を開けた精霊姫たちは、まだ生きていることが信じられないようだった。


『えっ……ど……どうして……?』とティフォン。


『なぜ、こんな板で、炎が……?』とイズミ。


『パイナップルの皮は、炎に強いんだ』とユニバス。


 ユニバスの頭には、パイナップル串を食べるガミメスの顔と、パイナップルの皮が積まれたゴミ捨て場の景色が浮かんでいた。


『三流の炎の悪魔、その火炎攻撃の温度は、魔導装置の「魔導火炎放射器」と同じくらい。高くてもせいぜい1200度程度しかない。そのくらいなら、パイナップルの皮でも防げるんだ』


 ポカンとする精霊姫たちに向かって、ウインク。


『といっても、何度も浴びたらヤバイけどな。さて、二発目がくる前に、反撃といきますか』


 ハッとなる精霊姫たち。


『こ……今度はこっちの番だね! こっちには、炎属性に強い、イズミちゃんがいるから……!』


『お……お任せくださいっ!』


『いや、炎の悪魔に水攻撃は逆効果だ』とユニバス。


『えっ、そうなの?』『それでは、どうやって……?』


『コイツを使う』


 ユニバスが持っていたのは、トイレットペーパーの芯に黒色火薬を詰め、雷管と導火線を付けたもの。ようは手製のダイナマイトである。


『えっ、それって、ゴミ捨て場で作ってた……!』『発破でございますね!?』


『そうだ。トコナッツの荒野で地の精霊たちが見つけてくれた硝石、オンセントラルの湯ノ花から抽出した硫黄、ゴミ捨て場の廃材を焼いた木炭で作ったものだ』


 スクリーンの前の観客たちがざわめく。


「な……なに考えてんだ!?」


「炎に向かって発破なんて、火に油を注ぐようなもんじゃねぇか!」


「や……やめろーっ! やめてくれーっ!」


 しかしユニバスはかまわず、ベニヤ板に付いていた残り火で導火線に火を付け、シルクラースに向かって投げつけていた。

 ギドラ男爵は飛んでくる発破を避けるどころか、『バカめ!』と嘲り笑う。


『炎の悪魔である私に爆発物など、猫に鰹節を与えるようなもの……!』


 ……ドッ……カァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


『はぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』


 炎は一瞬にして消え去る。ギドラ男爵の骨格はバラバラに吹き飛び、燃える頭蓋骨だけが地面に落ちて、テンテンと転がる。シルクラースは墜落し、ズズンと大地を揺るがしていた。


 精霊姫たちは、手品を見たような表情になった。


『えっ……?』『な……なぜ……?』


『炎に爆発っていうと逆効果なイメージがあるから、普通はやらないよな。でも爆発というのは強力な風属性の力も持っていて、炎を一気に消し飛ばすことができるんだ』とユニバス。


『すごいすごい! なんでそんなこと知ってるの!?』『寝耳に水のような、豆知識でございます!』


 ユニバスは、遠い昔に思いを馳せた。


 ――勇者パーティにいたころの話だ……。

 魔導女のオンザビーチは炎系の魔法しか使えないから、同じ炎属性のモンスターと戦うと、時には苦戦を強いられていた……。

 でも精霊たちが教えてくれたこの知識のおかげで、炎属性のモンスターには爆炎魔法が有効だとわかって、楽になったんだ……。


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