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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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92 オソレヤマ4(前編)

 そのころユニバスは、8合目へと向かっている最中だった。


 頂上に近づくにつれ、火の粉と隕石が激しく降りしきる。

 まるで豪雪の中を歩いているような感覚だった。


 そして、不気味な音がずっと鳴り響いている。

 頭上からは空が燃えているような音が降り注ぎ、足元からは大地が震えているような重低音が突き上げてくる。


 精霊姫たちはユニバスにピッタリと寄り添って歩いていたが、イズミは不安そうにユニバスの服をきゅっとつまんだ。


『なんだか、不気味な感じがいたしますね……』


『モンスターさんもいなくなっちゃったね……』とティフォンも不安そう。


 ユニバスは冷静に言った。


『この不穏さは、シルクラースの怒りに他の精霊たちが共鳴しているんだ。モンスターたちがいないのは、その怒りに怖れをなしているんだろう』


 見上げると、上空ではシルクラースが鷹揚に羽根をはばたかせて旋回していた。


『やっほーっ! そんなに怒っちゃダメだよーっ!』


 ティフォンはシルクラースに向かって、両手を口に添える山びこポーズで呼びかける。


『同じ精霊どうし、仲良くいたしませんかーっ!?』


 イズミもそのマネをした。

 その仕草がかわいくておかしくて、ユニバスは思わず笑ってしまった。


『怒ってるシルクラースに呼びかけるなんて、ふたりとも怖いもの知らずだな』


『うん! ユニバスくんといっしょなら、怖くないし!』とガッツポーズをするティフォン。


『ユニバス様とご一緒できるのでしたら、清水の滝からも飛び降りる所存でございます』と胸に手を当てて語るイズミ。


 彼らは知らない。背後から、冒険者ギルドの馬車が猛追していることに。

 それは6合目を通過し、7合目の坂道を駆け上がっているところだった。


 これまでこの山はデコボコ道で、馬車どころか魔導馬も入れなかったのだが、ユニバスが道をならしたので、いまでは馬車でも登れるようになっている。


 冒険者ギルドの馬車は1台だけだったが、その中は冒険者ですし詰め状態。

 外にも多くの冒険者たちが掴まっていて、さながら途上国の列車のようになっていた。


 馬車の屋根では、レセプルがひとり仁王立ちになっている。

 片手には耐炎装備なのであろう、大きな婦人傘をさしていた。


 レセプルは上方遠方にいるユニバスたちの姿を見つけると、腰に当てていた手をビシッ! と前に突きだし、標的を指で示した。


『おりましたわ! あの男はギルドカードを偽造し、冒険者ギルドの一員の名を騙った不届き者! 倒した者にはランクアップの推薦をしてさしあげましょう!』


 馬車にいたのは、どれもゴロツキのようなガラの悪そうな冒険者ばかり。彼らはレセプルの一言に、暴れ馬のごとく鼻息を荒くする。


『よーし! アイツをヤッちまえば、ランクアップさせてくれるんだな!』


『しかも、9合目の新記録も俺たちのもんになるぞ!』


『そうか! 新記録の手柄も加わったら、2ランクアップも夢じゃねぇな!』


『でもよぉ、相手はとんでもねぇ強さなんだろ!? 俺たちで勝てんのか!?』


 レセプルは答えた。


『この勢いのまま馬車で突っ込んで、崖から突き落とすといいのですわ!』


『そりゃいいな! あの男がいくら強くても、これだけの重さの馬車で体当たりすりゃ、イチコロだなっ!』


『ひゃっはー! やっちまおうぜーーーーっ!!』


 危機が迫っていることに、ユニバスたちはまだ気づいていない。

 だが荷車にいたちびっ子たちは、ひと足先に気付いていた。


『なにか追いかけてくるまり』とテマリ。


『うわぁ、虫さんが走るような者たちなのだ! このままじゃ危ないのだ!』とナナホシ。


『そう思うなら、ユニバス様に教えてあげればいいじゃん』とガミメス。


『こんなところで出ていったら、連れ戻されてしまうのだ! というか、無礼者! わらわは女王であるぞ!』


『おおん、ならガミメス、あなたが知らせてあげるといいでしょう』とイドオン。


『ざぁこ、なんであたしが! ってか、無礼者! あたしもお姫様だし! クソザコのイドオンが行きなよ!』とガミメス。


『おおん、イドはもっと劇的なところで、ジャジャーンと出ていく腹づもりなのです』とイドオン。


『まりっ、押さないでぇ!』


 ちびっ子たちは、誰が出ていくかで押し合いをはじめる。

 そうこうしているうちに、冒険者ギルドの馬車は指呼の距離まで迫ってきていた。


 ハッ!? と振り返るユニバスと精霊姫たち。


『れ……レセプル!?』『レセプルちゃん!?』『レセプル様っ!?』


 レセプルは勝利を確信したように高笑いする。


『いまさら気づいたところで、もう遅い……! チェックメイトですわ! あなたができることは、勇者様への懺悔のみ! 崖に落ちる時と、地獄に落ちる時、二回に分けて悔いるといいですわ! おーっほっほっほっほーっ!』


 ユニバスたちはレセプルを見上げていたので気づかなかったが、このときトランスの荷車の後ろから、テマリの持っていた鞠がぽろりとこぼれ落ちていた。

 テマリは『まりっ!?』と手を伸ばしたが遅く、鞠は坂道をてんてんと落ちていく。


 そして運良く……いや運悪く、突っ込んできた冒険者ギルドの魔導馬が、その鞠を踏んづけてしまい……。


 ……ずっ、しゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!


 足を滑らせ、ユニバスたちの目の前で派手に横転してしまう。

 巻き込まれた馬車は斜めになって滑り、その上にいたレセプルも傾きながら絶叫した。


『ほっほっほっ……ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!?!?』


 魔導馬と馬車は、レセプルと大勢の冒険者を乗せたまま、崖下に転落。


『たっ……たすけてぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』


 冒険者たちは阿鼻叫喚。

 空中に投げ出されたレセプルは、絶望的な表情で空に向かって手を伸ばす。


 スローモーションになったその世界で、ユニバスと目が合った。


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