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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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91 オソレヤマ3

 ユニバスとイズミは背中合わせに立ち、ユニバスは舞踊の男踊りを、イズミは女踊りを披露する。

 ユニバスが荒れ狂う荒波を、イズミが穏やかな川のせせらぎを、その身ひとつで表現していた。


『わぁ……!』と見とれるティフォン。


 フィニッシュは、ユニバスが取り出した縄をイズミの腰に巻き付ける。

 これはユニバスがイズミから受け取っていた縄である。


 ユニバスがその縄を力任せに引っ張ると、イズミが、あ~れ~!? と回転した。


 バンザイした両手から水芸のように水が吹き出し、宙にいくつもの七色の虹を架ける。

 イズミはコマのようにクルクルと回りながらユニバスの元へ戻り、相思相愛のようにひしと抱きあった。


 そしてふたりはカメラ目線になり、こちら側に向けた手を大きく広げてこう叫んだ。


『水の癒し……! 救急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》ーーーーっ!!』


 すると広げた両手から、泉の精霊ほどの大きさの、和服姿のリトルナースたちが大量に放出される。


 リトルナースたちは『わーっ!』と、かわいい鬨(とき)の声をあげながら、負傷者たちに向かって飛んでいく。

 そして負傷者にぴとっ、と貼り付くと、酷かった火傷やケガが、ウソのように消えていった。


 負傷者たちはみな、キツネにつままれたような表情になっている。


『え……?』


 あまりに理解の及ばぬ出来事の連続に、彼らの表情はスンッと抜け落ちた。

 光をなくした瞳で己の身体に目を落とし、ぽつりとつぶやく。


『さっきまであった、死ぬほどの痛みが消えた……』


『身体が急に楽になった……まるで、羽根が生えたみたいに軽い……』


『いよいよ、お迎えがきたんだ……』


『目の前にいるのは、やっぱり本物の天使様だったのか……』


 兵士と冒険者たちは正座をして、ははーっとユニバスを拝む。

 ユニバスは困惑し、ティフォンとイズミは笑顔になった。


 するとふと、誰かのお腹がぐぅ~っと鳴った。

 ひれ伏していた者たちは、思い出したように口を開く。


『あれ……? おかしいな……死んだはずなのに、ハラペコのままだ……』


『死者になっても、腹がすくんだなぁ……ああ……ハラ減った……』


『ユニバスくん、わたしもお腹すいちゃった!』とティフォン。


『じゃあちょっと休憩するか。食べものを配ったあとでな』とユニバス。


『やったー!』『はい!』と精霊姫たち。


 ふと、ティフォンがあることに気づいた。


『配る、って……。もしかして、たくさん食べものを持ってきてたのは、このためだったの?』


 ユニバスは荷車のずだ袋から、いくつもの紙包みを取り出しながら言う。


『そうだよ。大勢の人間が挑む極地のクエストでは、食糧不足を起こしやすいからね』


 精霊姫たちは『はぁ~っ』と驚嘆した。


『ユニバスくんって本当に用意周到だよね……。魔導女学院の子たちとのクエストでは、全員分の防寒具を持ってきてたし……』


『本当に、至れり尽くせりの流れる石でございます……!』


 それからユニバスと精霊姫たちは、手分けして紙包みを配っていく。

 受け取った者たちは、みな感激していた。


『ああ……ふたつも……! ありがとうございます……!』


『すごい……! まだあったかい……! それに柔らかいぞ……!』


『補給食は固くてパサパサしたものが普通なのに……! 最高だぁ……!』


 彼らはいそいそと包みを解く。

 その中のメニューには、お子様ランチサイズのユニバスの旗が刺さっていたのだが、外れてぽろりとこぼれ落ちた。


 しかし旗を気にする者はいない。

 誰もが、メニューのほうに目を奪われていたからだ。


 ひとつ目の包みに入っていたのは……。


『なんだ、この食べもの……? ナンにウインナー……茶色いソースがかかってるけど……』


『この匂い……初めて嗅ぐのに、たまらなくいい匂いだ……!』


『この匂い、俺は嗅いだことがあるぞ! 王宮の食事会の警護の時、こんな匂いの料理を国王が召し上がっていた!』


『王宮……王様……? ってことは、もしかして……』


 ひとあし先にナンカレードッグを頬張っていたティフォンが、『うん、カレーだよ!』と答える。


『えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』


『か……カレーって、あの高級料理の!?』


『そ、そんなバカな!? 上流階級しか食べられない料理を、なんで!?』


『高級料理のカレーを補給食にするなんて、聞いたことないぞ!』


『もー、いいから食べなよ! あったかいうちに!』


 ティフォンにそう言われ、彼らは震える唇にナンカレードッグを運ぶ。

 あちこちで、パリッ! シャクッ! と美味なる音が響き渡った。


『うっ……うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』


『なっ、なんだこれ!? なんだこれぇぇぇぇーーーーっ!?』


『うまい! うますぎる! うまいにも程がある!』


『やっぱりここはあの世だ! 天国だったんだ!』


 ナンカレードッグをパクつく姿が、観客席のスクリーンに大写しになる。


「う……うそだろ……!」


「カレーの補給食なんて、なんて贅沢なんだ……!」


「やばい、メチャクチャうまそうだ……!」


「あのナンカレードッグ……俺も食ってみてぇ……!」


 そしてスクリーン上のティフォンは、ドヤ顔で『チッチッチ』と、立てた人さし指を左右に振っていた。


『驚くのはまだ早いよ! もうひとつの包みのほうも開けてみて!』


『えっ? もうひとつの包みって、同じナンカレードッグじゃないんですか?』


『ナンカレードッグ以上に驚くものって、いったいどんな……?』


 ワクワクしながら開けてみると、そこにあったのはキツネ色の揚げパンだった。


『なんだ、ただの揚げパンじゃないですか』


 するとティフォンは、またドヤ顔で『チッチッチ』とやる。


『まぁ、食べてみて、食べてみて!』


『はぁ、わかりました……』


『でも揚げパンなんかが、ナンカレードッグより美味しいわけが……』


 少し不服そうにしながら、揚げパンを口に運ぶ。

 そして、さらなる美味なる音が……!


 ……サクッ……!


 ふわっ、とたちのぼる湯気。

 誰もが目を見開いて放心する。やがて天をあおぐと、その頬につぅ、と涙が伝った。


『うっ……うまぁぁ……!』


 観客席にいた者たちは、ステージに上がってスクリーンに殺到した。


「な、なんだ、なんなんだ、あの食いものは!?」


「ただの揚げパンじゃないのか!?」


「中になにか入ってるみたいだぞ!?」


「おい、もっと手元に寄れよ!」


 誰かのその要望に反応するかのように、気球のカメラが揚げパンを持つ手をアップで映し出す。

 そこに映っていたのは……。


「かっ……カレぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


「カレーが入った揚げパンだと!?」


「庶民的な揚げパンの中に、カレーを入れるなんて、贅沢にも程があるだろ!」


「あんなすごいパン、王様だって食べたことがないはずだぞ!」


 スクリーン上では、精霊姫たちがニコニコ笑顔で揚げパンを頬張っていた。


『「カレーパン」っていうんだよ! 最初見た時はわたしもビックリしちゃった! カレーをパンに包んで揚げるなんて!』『流れる石ゴロゴロでございます!』


 ユニバスは言った。


『片手で食べられるナンカレードッグに、もっと満足感を足せないかと思ったんだ。揚げ物って、食べたときの満足度が高いだろ?』


 ぐぅ~~~っ!


 ステージの前の観客たちの腹が、いっせいに鳴り響く。


「す……すげぇ……すごすぎる……!」


「う……うまそう……うまそうすぎる……!」


「俺もあのナンドッグとカレーパン、食ってみてぇ……!」


「ああ……! いまなら、いくらでも出すのに……!」


 と、そこに、タイムリーな呼び声が響いた。


「いらっしゃい、いらっしゃい! おいしいおいしい、ナンカレードッグはいかがですか~っ!」


 観客たちは一瞬、幻聴かと思った。だが、声のしたほうを見る。

 会場のはずれで、カレイラが『ユニバスカレー』という屋台を引いて呼び込みをしていた。


 次の瞬間、カレイラは、観客席の仕切りをなぎ倒して迫りくる観客たちを目にする。


「おいしいおいしい、カレーパンも……えっ、ええええーーーーーっ!?!?」


「ナンドッグをくれーっ!」「こっちはカレーパンだ!」「いくらでも出すぞーっ!」


 もみくちゃになるカレイラ。


 スクリーンの向こうのユニバスもまた、カレーパンに感動した人々に泣きすがられ、もみくちゃになっていた。

 ユニバスと精霊姫たちは、人混みの足元から這い出る。ユニバスは言った。


『こ……これだけ元気なら、もう大丈夫だよな。ティフォン、イズミ、そろそろ行こう』



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そのころ冒険者ギルドでは、相変わらずの行列ができていた。

 レセプルはひとり、誰もいないカウンターの椅子に座り、優雅に紅茶を飲んでいる。


 勇者のぬいぐるみは人形用の椅子に座らせていて、人形用のテーブルにはちいさな紅茶が置かれていた。


「勇者様、そろそろユニバスの訃報が届くころですわ。あなた様の無念が、ついに晴らされるのです。とっておきのお紅茶で、祝杯とまいりましょう」


 そこに、冒険者らしき男が血相を変えて飛び込んでくる。


「た……大変だ! うちのギルドのヤツが、7合目を越えたらしい!」


 広場にいた冒険者たちは「なにっ!?」と驚いた。


「ギルドの最高記録は6合目だったのに! ついにやったか!」


「でも、うちのAランクのヤツは重傷を負って、5合目のキャンプに取り残されてるって聞いてるが?」


「それがAランクじゃないんだ! 見たことも聞いたこともない、ランク外のヤツらしい!」


「ランク外!? なんでランク外のヤツが入山してるんだよ!?」


「わからん! しかもソイツは、とんでもないヤツらしい! 耐炎装備も無いのに涼しい顔で登ってて、100匹以上のファイヤーオークの軍勢をなぎ倒して、しかもキャンプの負傷者を一瞬で治したって話だ!」


「なんだそりゃ!? そんなとんでもないことができるのは、SSSランクの冒険者くらいだろう!?」


「いやいやいや! SSSランクといったら世界でただひとり、ブレイバン様だけだぞ! ブレイバン様みたいなお方が、そうそういてたまるか!」


「っていうか、勇者様と同じ力を持ってるようなヤツが、ランク外なんておかしいだろ!」


「そうだそうだ、ありえねぇ! もしホントだったら、判定した受付嬢は永久追放になるほどの大問題だぞ!」


 その話をはたで聞いていたレセプルは、ショックのあまり紅茶をひっくり返していた。

 レセプルと勇者のぬいぐるみは頭から紅茶をかぶってしまい、「あっつぅぅぅーーーーっ!?」と飛びあがる。


 這いつくばり、全身から紅茶の雫をぽたぽた、湯気をほかほかと立てながら、ぐぬぬ……! と拳を握りしめた。


「ゆ……ユニバスめぇ……! 二度ならず、三度までも……! どうやっているのかはわかりませんけど、四度目の奇跡はありえませんことよ……!」


 レセプルはカップを頭に乗せたまま、ズダンとカウンターに立つ。


「こうなったら、私自らが出ますわ! 冒険者たちよ、馬車を用意するのです!」


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