88 オソレヤマの町5
それからしばらくして、カレイラと別れを告げたユニバスはまた大通りに戻っていた。
意気揚々と進むユニバス。その後ろで、精霊姫たちはヒソヒソと話をしている。
「ユニバスくんはすごいって思ってたけど、限度ってものがあるよね。アレはさすがに……」とティフォン。
「はい、まさかアレほどの奇想天外なメニューを考えつくなんて……わたくしも本当に、ユニバス様が神様に見えてしまいました」とイズミ。
「アレを食べたカレイラなんてもう、おいしすぎて完全に昇天しちゃってたじゃん」とガミメス。
精霊姫たちは振り返り、荷台を見る。
そこには大きなずだ袋がいくつも積まれていた。
「それにしても……こんなにいっぱい持っていく必要があるのかなぁ?」とティフォン。
「ユニバス様は長期戦を考えておられるのかもしれませんね」とイズミ。
「ざぁこ、こんな暑いとすぐに腐っちゃうじゃん」とガミメス。
そうこうしているうちに、ユニバス一行はオソレヤマの麓にある登山口へと到着した。
登山口は大きな広場になっていて、兵士や冒険者たちの駐屯地にもなっているようだった。
テントが張られ、馬車が停まっている。
これから山に向かう兵士や冒険者たちが装備を整えているのだが、みなガチガチの耐炎装備で固めている。
それでも登山は困難を極めるのだろう、山からは負傷者がタンカに乗せられ、運び込まれてくるのが見えた。
登山口の奥、山道に続く道には金網によるバリケードがなされ、兵士による検問が行なわれているようだった。
「検問まであるなんて、ものものしいですね」とイズミ。
「間違って山に人が入らないようにするのと、山にいるモンスターが外に出ないようにしてるんだ」
ユニバスは振り返り、精霊姫たちに言った。
「さて、いよいよ入山だ。山は見てのとおり、火の粉や落石があって、モンスターの出る危険地帯だ。心の準備はいいか?」
精霊姫たちはそれぞれのテンションで応じる。
「うん!」「はい!」「別にぃ」
「ガミメスちゃん元気ないなぁ、そんなんじゃ山に入れてもらえないよ!」
ティフォンは冗談のつもりで言ったのだが、広場にいた兵士から声を掛けられた。
「おい、お嬢ちゃんたちも入山するつもりなのか?」
またも、三者三様の返事が返る。
「もちろん!」「はい、そのつもりでございます」「別にぃ」
兵士は精霊姫たちをジロジロ眺めまわして言った。
「そうか、風と水のお嬢ちゃんはいいけど、そっちの炎のお嬢ちゃんはダメだろうな」
「なんでよ?」と眉根を寄せるガミメス。
「身長が足りてない。ほら、あれを見てみな」
兵士が指さした先は検問の入口。
そこにはまるで遊園地のジェットコースターさながらの、身長制限を示す立て看板があった。
「お嬢ちゃん、身長130センチ無いだろう?」
「ざ……ざぁこっ! あるよ、ほらっ!」
ムキになって背伸びをするガミメス。
「背伸びしちゃダメだよ」と兵士の冷静なツッコミ。
ぐぬぬ……! となったガミメスは、ユニバスに助けを求めるような視線を向ける。
「年齢は詐称されるから、身長で大人と子供の区別をしているんだろうな」とユニバス。
「子供じゃないもん!」と即答のガミメス。
ユニバスはなだめるように、ガミメスの頭を撫でた。
「そうだな。でも身長制限というのは無用な被害を防ぐためにあるんだ。ガミメスはここで待っていてくれるか?」
「そんな、ヤダよっ! ヤダヤダヤダヤダ、やだっ!」
駄々っ子のようにイヤイヤをするガミメスを、「まあまあ」となだめるティフォン。
「ここはわたしたちに任せて、ガミメスちゃんは町で遊んでて!」
するとガミメスは涙をこらえ、アヒル口ですねる子供のような顔をティフォンに向けた。
ティフォンは「おこづかいをあげるから、ねっ?」と微笑む。
直後その顔に、ボッ! と炎が吐きつけられた。
ティフォンは前髪を焦がされ、「わあっ!?」とひっくり返ってしまう。
「こら!」と叱ろうとするユニバスに、「もういいっ!」と背を向けるガミメス。
肩をいからせ広場から去っていくその背中を、「やれやれ」と見送るユニバス。
イズミはティフォンを助け起こしながら尋ねた。
「ユニバス様、いかがいたしましょう」
「しょうがない、このまま入山しよう。ガミメスは、山から降りた時になだめるしかないな」
「山だけに、やまやまだね……」とティフォン。
ユニバスたちはガミメスと別れて登山口へと向かい、検問にいる兵士にギルドカードを差し出した。
「なんだ、Fランク以下の冒険者か。この山のモンスターは、最低でもDランクは必要だぞ?」
「えっと、その……」と口ごもっていると、もうひとりの兵士が言った。
「荷車を引いてるってことは、他の冒険者の補給に来たのか?」
「そんな大量に運ばされるなんて……。お前、ギルドでは役立たずで、いじめられてるだろう?」
「荷車で登れるのは1合目までだ。そこから先は悪路になるから、荷車を置いてく必要があるぞ」
「しかもそれ、木製の荷車じゃないか。こんなの、火の粉が付いたらあっという間に燃えちまうぞ」
「っていうかお前も、ありえないほどの軽装だな。そんな格好じゃ、30分で全身大やけどだぞ」
ふたりの兵士にアレコレ言われるも、ユニバスは「は、はぁ……」と目を泳がせるばかり。
そのリアクションに兵士たちは顔を見合わせる。「コイツはやっぱり役立たずっぽいな」と、説得を諦めた様子で肩をすくめた。
「まあ、いいか。お前がどうなろうと、こっちは知ったことじゃないし」
「人間ひとりと精霊2匹の入山を許可する。代表者はこの魔導通信装置を身に付けるようにな」
兵士は、戦場の通信兵が背負っているようなリュックサック型の魔導装置をユニバスに渡す。
「これは常に音声通信ができるもので、緊急時の救助に使われる。命綱のようなものだから、入山したら外すんじゃないぞ」
「あと背中の番号は、観戦場で行なわれているブックマークのゼッケンとして使われるからな」
魔導通信装置の背中には、『U28』の文字がペイントされている。
「はぁ……」
ユニバスは大人しく魔導通信装置を背負う。
兵士たちが開いてくれた門を通り、ついにオソレヤマへと入っていった。
先ほどまでの挙動不審とはうってかわって、勇ましい表情で顔をあげ、オソレヤマの頂上付近を飛び回るシルクラースを見据えるユニバス。
――待ってろよ、シルクラース……!
キミが討伐される前に、なんとしても俺が助けてみせる……!
この道の先に、どんな困難や混乱が待ち構えていようとも……!
ユニバスは知らない。
混乱はさっそく背後で起きていることに。
トランスの荷車、上にかぶせられた布がもぞもぞと動いていて、その中ではこんなことが起こっていた。
「ざぁこっ!? なんでいるし!?」
ガミメスはこっそり荷車に忍び込んでいたのだが、そこにはまさかの先客がいたのだ。
「おおん、ユニバス様の精霊だからです」と寝そべりながら答えるイドオン。
その隣にいるテマリは鞠をぎゅっと抱きしめ、「まりっ!」と返事をする。
「もう、もっと詰めてよ! ユニバス様がピンチの時、ここぞという時に出ていって助けてあげて、泣きすがってもらうつもりなの! だから邪魔邪魔っ!」
ガミメスが力任せに押すと、奥にいたナナホシがにゅっと顔を出してきた。
「押すでない! わらわは女王であるぞ!」
「ええっ!? 精霊のイドオンとテマリはともかく、なんで人間のアンタまで!?」
「この山にはなにかあるのだ! それを確かめたくて、臣下たちの目を盗んで忍び込んだのだ!」
「ったく……ただのクソザコ人間と精霊のクセして、そんな装備で大丈夫なのぉ?」とガミメス。
「無礼者! わらわは女王であるぞ! それにこの鎧は耐炎装備なのだ!」とナナホシ。
「この着物も、耐炎装備まり」とテマリ。
「おおん、イドは水の精霊だから、熱いのは平気なのですよ。しかし、4人はさすがに暑苦しすぎます」
「まりっ!」
「だから押すでない! わらわは女王であるぞ!」
















