87 オソレヤマの町4(後編)
木のボウルに、油とお塩とお酢を入れるユニバス。
そしてイズミに言う、「卵をくれないか」と。
イズミは「かしこまりました」と懐に手を入れ、まるで手品のように卵を取りだす。
「えっ?」となるカレイラをよそに、ユニバスは受け取った卵を割り、ボウルに卵黄を加えた。
「あとは、混ぜるだけで……」
ユニバスが泡立て器で混ぜると、ボウルの中はやがて、もったりとした白っぽいクリーム状のものができあがった。
「これは、なんですか?」とカレイラ。
「マヨネーズだよ」
その一言に、カレイラの驚きが爆発。
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「マヨネーズってなあに?」とティフォン。
「たしか、貝殻の形をした焼菓子のことでは……?」とイズミ。
「ざぁこ、それはマドレーヌじゃん」とガミメス。
「マヨネーズというのは、王族しか口にすることが許されない、幻の調味料です! かつて勇者様がもたらしたことから、『勇者の調味料』とも呼ばれています!」
カレイラは目を見開いて大興奮。
「超高級品で、砂金ひとつぶと同じ価値がある黒胡椒の、何倍もの値段で取引されてるんですよ!」
「えっ、そんなすごいものなの? そのわりには、ユニバスくんは簡単そうに作ってたけど」とティフォン。
「ああ」とユニバス。
「マヨネーズは勇者パーティにいた頃に、精霊から教えてもらった調味料なんだ。でも勇者が気に入ってレシピを独占してしまったから、高級調味料になってしまったんだが……『とれたての新鮮な卵』さえ手に入れば、こうやって簡単に作ることができるんだ」
「し……知りませんでした……」
へなへなと崩れ落ちるカレイラ。
「カレーの神様が……まさかマヨネーズの神様でもあったなんて……」
「そのマヨネーズを入れると、カレーがおいしくなるの?」と、ユニバスに尋ねるティフォン。
「ああ、コクが出てまろやかになるんだ。あと用途は、それだけじゃなくて……」
マヨネーズを作り終えたユニバスは、カレーの材料として置いてあったウインナーを、フライパンで焦げ目がつくまで炒める。
「ナンにレタスとウインナーをのせて、上からカレーをかけて、あとは仕上げに『追いマヨネーズ』をすれば……『ナンカレードッグ』のできあがりっ……!」
「な……ナンカレードッグぅぅぅーーーーーーーーーーーっ!?!?」
さっそく試食した精霊姫たちとカレイラは、ひと口でメロメロに。
「「「「お……おいひぃぃぃぃーーーーーーっ!」」」」
「パリッとしたレタスにウインナーの皮もパリッとして、パリパリの無法地帯やぁーーーーっ!」とティフォン。
「立ったまま頂くなんて、はしたないことなのですが……ああっ、おいしすぎて止まりません!」とイズミ。
「うみゃっ、うみゃっ、うみゃみゃっ!」と、猫のように目をまん丸にして一心不乱にかぶりつくガミメス。
「す……すごいっ! レタスのみずみずしさ、ウインナーのジューシィさ、カレーのスパイシーさ、マヨネーズの酸味……! バラバラの味や食感なのに、驚くほどひとつにまとまってて……これはまるで、芸術作品ですっ!」と絶賛のカレイラ。
「大げさだな」とユニバス。
「オソレヤマを観戦する客に売るのなら、片手で手軽に食べられるもののほうがいいかと思って考えたんだ」
「か……片手で……!?」
青天の霹靂のような表情になるカレイラ。
「た……たしかに……! 大通りの屋台は、フルーツ串や焼鳥のような、片手で食べられるものばかりです!」
やがて、感動のあまりワナワナと震え出す。
「僕が師事していたカレーキング様は、こうおっしゃっていました……! カレーは高貴なる食べ物だから、食べる側がカレーに合わせるのが当然だと……! でもこの『ナンカレードッグ』は、食べる側に合わせたカレー!」
とうとう、涙をぽろぽろこぼしはじめる。
「す……すごい……! カレーを芸術の域に高めつつも、大衆性を追求するなんて……! これこそが、『カレーを世界に広める』ということだったのですね……! やはりあなた様は、神様ですっ……!」
「おいおい、泣くなよ」とユニバス。
「だ……だって……! あまりにも……すごすぎて……!」
「しょーがないよ」とティフォン。
「わたしもユニバスくんのすごさには、いまだに泣きそうになるもん」そう言うティフォンの瞳の端には、涙の粒が浮かんでいる。
「わたくしなど、いまだにこの有様です」と、手のひらいっぱいの真珠を見せるイズミ。
「ふぁ~あ、あたしは泣いてなんかないし」と、アクビをしてごまかすガミメス。
「まぁ泣くんだったら、最後にしてくれよ」
視線をフライヤーに移しながら続けるユニバス。
「俺の考えた新メニューは、他にもあるんだから」
「「「「えっ」」」」
精霊姫とカレイラの目は、点になっていた。
















