86 オソレヤマの町4(前編)
それからほどなくして、ユニバスたちはまた大通りに戻っていた。
トランスには廃材で作った荷車が付けられ、その荷車には帆のように大きな布が掛けられている。
意気揚々と進むユニバス。
その後ろで、精霊姫たちはヒソヒソと話をしていた。
「ユニバスくんのことは、ずっとすごいって思ってたけど……まさか、こんなにすごすぎるとは思わなかったよ……」とティフォン。
「はい、流れる石もここまでくると、石ゴロゴロでございます」とイズミ。
「こんな立派な荷車だけじゃなくて、あんなすごい武器をあっさり作っちゃうなんて……」とガミメス。
精霊姫たちは振り返り、荷台を見る。そこには布が掛けられたアレの端がチラ見えしていた。
「しかし、わたしたちが作ったアレって……本当に役に立つのかな……?」とティフォン。
「ユニバス様のおっしゃることは絶対なのですが……さすがにいくらなんでも、アレは……」とイズミ。
「アレは、クソザコにも程があるよ……ぜったいに、なんの役にも立たないよ……」とガミメス。
精霊姫たちの不安をよそに、「まいったな」と足を止めるユニバス。「どうしたの?」とティフォン。
「最後に食料の調達をしようかと思ったんだが、どこもダメみたいだ」
見ると、食料品を扱っていそうな店にはすべて『ユニバスとゴキブリお断り』の看板が。
「『縛りクエスト』の制限は、食料品は対象外なんだが……レセプルが手を回したらしい」
「ユニバスくんじゃなくて、わたしたちが買うのもダメなのかな?」とティフォン。
「オシド様にお願いして、分けていただくというのはいかがでしょう?」とイズミ。
「ざぁこ、盗んじゃえばいいじゃん」とガミメス。
三者三様の精霊姫たちの提案に、「うーん」と考えこむユニバス。
ふと、こんな声が聞こえた。
「いらっしゃい、いらっしゃい! おいしいおいしいユニバスカレーはいかがですかーっ!?」
見ると、大通りから外れたところに『ユニバスカレー』の屋台があり、そこではカレイラがひとりで必死に呼び込みをしていた。
「か……カレイラちゃんっ!」
ティフォンは脊髄反射のような速さでびゅん! と飛んでいって、カレイラに抱きついた。
「わあっ!? あ、あなたは、ユニバス様のお供の……も、もしかして、ティフォン様っ!?」
「もしかしなくてもティフォンだよ!」
「す……すみませんでした! パイススの村では、とんだ無礼を……! まさか、精霊姫様だったなんて……!」
ユニバスたちもそばに行って、「元気そうだね」と声をかける。
「ゆっ……ユニっ……!」
ユニバスを目にした途端、飛びあがるカレイラ。
その勢いを利用してひれ伏そうとしたが、ユニバスはすかさず彼女を抱きとめる。
顔をあげたカレイラの唇に、ユニバスはひとさし指を当てた。
「俺がユニバスだってことを、あまり大きな声では言わないでくれ」
背後の通りでは、ちょうど反ユニバスの者たちがデモ行進をしているところだった。
憧れのユニバスを間近にしたカレイラは、イケメンアイドルに言い寄られた少女漫画のヒロインのようにウットリしている。
「は……はひぃ……」
見つめ合うふたり。
甘い世界に入りかけたところで、精霊姫たちが待ったをかける。
「はいはい、『精霊たらし』もほどほどにして、ね」
ガミメスがふたりの間に割って入り、ティフォンがユニバスを、イズミがカレイラの後ろから手を回して引っ張り離す。
カレイラはシャキッと背伸びをすると、ユニバスに深々と頭を下げた。
「や……屋台とレシピ、ありがとうございます! おかげで、子供の頃からの夢だったカレー職人になれました!」
「ざぁこ、そのわりには売れてなさそうじゃん」
ガミメスの容赦ない一言が、カレイラの胸にグサッと突き刺さる。
カレイラはガックリと肩を落とした。
「そ……そうなんです……。人の多い所で屋台を開けば、多くの人にユニバスカレーを食べてもらえると思ったんですが……見向きもされなくて……」
「どれどれ」と屋台の中を見るユニバス。そこにはカレー弁当がずらっと並んでいた。
ナンとごはんの2種類があり、ちゃんとローズマリーとエビフライとウインナーも添えられていて、ユニバスカレーのレシピを忠実に再現しているようだった。
「オソレヤマを観戦しながら食べられるように、お弁当にしてみたんです」とカレイラ。
さらによく見ると、弁当にはお子様ランチのような旗が立っていた。
その旗には、革命ポスターのようなタッチで、ユニバスの肖像が描かれていた。
「わぁ! この旗かっこいいーっ!」とティフォン。
「水の精霊の国で販売したら、大ヒット間違いなしでございます!」と太鼓判を押すイズミ。
「ざぁこ、この町じゃ逆効果っしょ」と冷静な突っ込みを入れるガミメス。
「売る場所が悪いのかなと思って、これから観戦場のほうに移ろうかと思ってたんです」とカレイラ。
ユニバスは苦笑いしながら提案した。
「その前に、いろいろ改善したほうが良いんじゃないか? 俺に新しいメニューの案があるから、ちょっと作らせてもらってもいいかな?」
「い……いいんですか? カレーの神様であるユニバス様にご指導いただけるなんて、身に余る光栄です!」
「よし、じゃあ厨房を借りるよ。そのかわりといってはなんだけど、作ったメニューを分けてもらえるか? もちろん、お金は払うよ」
「そんな、めっそうもないです! カレーの神様から、お金なんて頂けません!」
「いいからいいから」
ユニバスが目で合図すると、イズミが笑顔で懐から金貨袋をサッと取り出す。
ユニバスは、屋台の裏にあった簡易厨房で調理を開始。
まずは、カレイラが寸胴に作ってあったカレーを味見してみる。
「うん、うまい」
「はい!」と顔を明るくするカレイラ。
「ユニバス様から頂いたレシピどおりに作ってます!」
「ならあとは、隠し味を足せばOKだな」
「隠し味……?」
カレイラはキョトンとしていたが、すぐにハッとなる。
「パイススの村長さんが言ってました! ユニバス様がレシピをくださった時に、手に入りにくい調味料をひとつだけ抜いてある、っておっしゃっていたと! 隠し味というのは、その調味料のことですか!?」
カレーのことになると、カレイラは好奇心旺盛になってユニバスにグイグイ迫る。
「そうだ。いまからそれを作ってみせよう。といっても、とても簡単だ」
こくこく頷き返したカレイラは、瞬きしてなるものかと目を見開いて、ユニバスの手元を注視した。
















