85 オソレヤマの町3
オシドの屋敷をあとにしたユニバスたちが次に訪ねたのは、町はずれにある冒険者ギルド。
本来このオソレヤマに冒険者ギルドは無いのだが、シルクラース出現にあたり、仮設のギルドが設置されたようだった。
シルクラースを倒せば一攫千金なのだろう、建物の前の広場は多くの冒険者たちでごった返している。
建物の中に入りきれないので、仮設の受付カウンターが外に作られ、行列ができていた。
カウンターには看板があり、『A・Bランク受付』『C・Dランク受付』『E・Fランク受付』と冒険者ランクごとに分けられている。
しかしどの列の冒険者たちも、待ちきれずに声を張り上げていた。
「オソレヤマに入ろうとしたら、登山口の兵士に追い返されちまったぞ!」
「なに!? 入山にはギルドからの許可がいるって!?」
「それなら、早く発行してくれよ!」
「おい、こっちが先だ!」
ギルドの受付嬢たちはてんてこまい。
人いきれにユニバスが困っていると、「あっ、レセプルちゃん!」とティフォンが声をあげた。
見ると、広場のはずれにぽつんとあるテーブルに、レセプルが座っていた。彼女の上には『ノーランク(無能)受付』とある。
ティフォンの声に気づいたレセプルは目をすがめて、ユニバスをじーっと見た。
「あなた、無能のユニバスですわよね……? なんだか少し、顔が変わったような……?」
「レセプルちゃん! ひさしぶりーっ!」
さっそく抱きつこうとするティフォンを手で押し戻すレセプル。
「ご無沙汰しております、レセプル様」と丁寧に頭を下げるイズミ。
「ざぁこ、ガキじゃん」とガミメス。
「そういうあなたは、クソガキ精霊姫のガミメスですわね」
「誰がクソガキだって!? そういうアンタはウンコみたいな巻き毛じゃん! それになにその人形、クソダサっ!」
勇者の人形をけなされて、ムッとなるレセプル。
袖捲りをして舌戦を始めようとしたところを、ユニバスがなだめた。
「やめろ、ふたりとも。それよりレセプル、クエストを受けにきたんだが」
「見ればわかりますわ」と冷たい態度のレセプル。
ユニバスがギルドカードを出すと、レセプルはそれをテーブルにある小型の端末に挿入する。
キーボードをカタカタ叩き、排出されたギルドカードをユニバスに返すようにテーブルへ置いた。
「もはや説明は不要ですわね。シルクラース討伐のクエストを登録いたしました。このギルドカードを登山口の兵士に見せれば、オソレヤマに入れるのですわ」
「わかった」とギルドカードをポケットにしまうユニバス。
手続きがあっさり終わったので、ティフォンは拍子抜けした様子だった。
「あれ? 今回はいじわるしてこないの?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「今回のクエストも、前回と同じく失敗以外の終了は許されないクエストにしておきましたわ」
「なんだ、そんなことか! 前のデビルみたいにやっつけちゃうから大丈夫だよ!」
「封印が弱まったデビルを奇跡的に倒せただけで調子に乗るなんて、ヘソティーですわね」
レセプルは手の甲を口に当ててオホホと笑っていたが、急に顔つきが変わる。
「そんなおバカさんにも程がある、あなたたちのために……。今回のクエストは特別に、『縛りクエスト』にしておいてさしあげましたわ……!」
その言葉に真っ先に反応したのはイズミだった。
「し……縛りクエストっ!?」
「縛りクエストってなに!? ユニバスくん!」とティフォン。
ユニバスが説明する。
『縛りクエスト』とは、最低限の装備だけでクエストに挑まなくてはならないという、自らに課す制限のようなもの。
高ランクの冒険者が、遥かに弱いモンスターの討伐クエストに挑む際、余興や腕試しの一環として宣言したりする。
宣言をした場合、クエスト中の装備は自作以外での調達が許されなくなる。
しかしこれは冒険者側が申し出ることであって、ギルド側から指定されることはないはずなのだが……。
「そんなのズルイよ! いますぐ……!」とティフォンは抗議しようとしたが、意外なところから横槍が入った。
「い……いたしましょう!」
それは目をキラキラと輝かせるイズミであった。
「し……縛りクエスト……! なんという甘美な響きなのでしょう……! ユニバス様、ぜひいたしましょう! ぜひお縛りを!」
イズミがいつになくグイグイくるので、ユニバスは気圧されて「あ、ああ……」と返事をしてしまった。
「決まりですわね」とレセプル。
ガミメスは鼻で笑っていた。
「ざぁこ、『縛りクエスト』なんて言ったところで、なんの意味もないじゃん。こっそり装備を持っていけばいいだけのことだし」
「言っておきますけれど、馬車の中にある装備は使えませんことよ。クエストが終わるまで、こちらで預からせていただきますわ」
見ると、ユニバスの馬車の前にはいつの間にか怖そうなギルドの男たちがいた。
ぐぬっ、となるガミメス。
「そ……そのくらいなんともないし。だって、武器屋に行けば装備なんていくらでも……」
と、ガミメスは大通りのほうを見やる。
武器屋の看板、その下には『ユニバスとゴキブリお断り』の札が。
「この町の武器屋にはすでに、手を回しておりますわ。無能なあなたたちの浅はかな考えなど、こっちはとっくにお見通しですの」
今度こそ勝利を確信したレセプルは、盛大なる悪魔笑いを放った。
「奇跡は三度も起きませんことよ! さぁ、クエストにお行きなさい! 大勢の人々が見ている前で醜態をさらし、二度と立ち直れなくなるくらい嘲笑されるといいのですわ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからギルドを離れ、徒歩で大通りに向かうユニバスたち。
「はぁ、レセプルちゃんは相変わらずだね……」とため息をつくティフォン。
イズミは泣きそうになっていた。
「すみません、すみません……! わたくしが、いたしましょう、などと言ったばかりに……! 縛りクエストと伺って、てっきりユニバス様がわたくしを緊縛してクエストを行なうのかと……!」
イズミは涙ながらに、袖の下からロープを取り出す。
「ユニバス様、どうぞこちらを、お使いください……! 役立たずの精霊だと罵りながら、この縄でわたくしを……!」
「イズミってば、いつもロープ持ち歩いてんの?」とあきれた様子のガミメス。
「ちょうどロープが欲しかったんだ、ありがとう。イズミは役立たずなんかじゃないよ」
と、イズミの頭を撫でてなだめるユニバス。
「なら、わたしもほめて!」とティフォン。
「レセプルちゃんに、トランスくんと地の精霊さんたちを連れてくことを認めさせたんだから!」
背後を見ると、馬車から外されたトランスがついてきていた。
トランスの頭上には地の精霊たちがいて、「おーっ!」と諸手を挙げている。
「そうだったな、ありがとう、ティフォン」とティフォンの頭を撫でるユニバス。
「ざぁこ、そんなことよりどうするつもりなの?」とガミメス。
「装備の不足を、どうしようか考えているところさ。なにかいい手は……」
と、ユニバスはガミメスを見る。パイナップル串を食べているガミメスを見て、ユニバスは閃いた。
「この手があったか。ありがとう、ガミメス」
「えっ、なんのこと?」とキョトンとなるガミメス。
しかし撫でられると、すぐに気持ち良さそうな猫のごとく目を細めた。
「まあ、なんでもいっか! もっと撫でてもいーよ!」
その後、ユニバスたちは町の一角にあるゴミ捨て場に向かう。
あたりは廃材や、屋台で売られているフルーツの皮の生ゴミでいっぱい。
山になったパイナップルの皮にハエがたかっているのを見て、精霊姫たちはそろって顔をしかめている。
「こ……こんな所で、なにするの?」とティフォン。
「もちろん、装備を作るんだ」とユニバス。
「ええっ?」となる精霊姫たちをよそに、ユニバスはポケットから工具を取り出す。
同じく、勝手知ったる地の精霊たちは廃材をえっほえっほと運んできていた。
「勇者パーティにいる時は、よくこうやって足りない装備を作ったもんだよ」
「なにか、お手伝いをさせていただけませんか?」とイズミ。
ユニバスは「そうか? なら……」と言い、横に運ばれてきた、扉ほどもあるベニヤ板を示す。
「この板に、これから言うものを貼り付けてくれるか?」
「かしこまりました。なにを……?」
「これさ」と示されたものを見た途端、精霊姫たちは絶叫していた。
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
















