83 オソレヤマの町1(後編)
ユニバスたちは、様々な者たちの思惑が交錯するオソレヤマへと針路を取る。
ティフォンとイズミは、かつてシニストラの封印を確かめに行った時の装備に着替えていて、ガミメスは盗賊風の格好だった。
オソレヤマまであと少しという所で、ティフォンが立ち上がって遠方を指さす。
「見て、山が燃えてる! それに、でっかい蝶々も燃えてるよ!?」
ティフォンが指さしたのは、高くそびえる岩山。
それは、変わり果てたオソレヤマであった。
オソレヤマはかつて緑あふれる霊峰であったが、いまは雑草一本生えていない岩山になっている。
尖った岩があちこちから飛び出し、水晶の結晶のような見た目になっていた。
巨大な柱のような岩山がそびえ、その頂上からは噴火のような炎の柱があがっている。
そのまわりを、巨大な黄金の蛾、シルクラースが飛び回っていた。
シルクラースの体長は5メートルもあり、外見はカイコガが巨大化したような姿である。
本来は全身が黄金色でうっすらと光っているのだが、いまは炎に包まれているせいで、太陽のようにまばゆく輝いていた。
その翼がばさっ、ばさっとゆっくりはためくたびに、大粒の雹のような火の粉が撒き散らされ、噴火のたびに、隕石のような燃える石もあたりに降り注いでいた。
その火の粉や隕石に巻き込まれないよう距離を取った、体長1メートルもある、これまた巨大な蝶を動力とした気球のような物体が、上空の周囲にいくつも浮いていた。
「あそこがオソレヤマだ」
オソレヤマを目にしたユニバスは眉をひそめる。
――緑あふれる山が、すっかり燃えてしまっている……。
「そして、まわりを飛んでいるのが、オソレヤマのヌシ……精霊虫『シルクラース』だ」
「「「シルクラースっ!?」」」とハモる精霊姫たち。
「聞いたことある! なんだっけ、えーっと」とティフォン。
「伝説の精霊虫様です」とイズミ。
「世にも珍しい、黄金の糸を吐くんだよね」とガミメス。
「シルクラースは大人しい性格だから、自らの意思で暴動を起こすことはまず無い。きっと、モンスターにそそのかされてしまったんだろう」
ユニバスの脳内に、かつてシニストラ山の洞窟で対峙したアイスウイッチの姿が浮かんでくる。
――モンスターというのは、人間や精霊とはまた異なるもので、邪悪な意思だけを持っている。
悪魔などの特に知能の高いモンスターは、不満を持つ精霊をそそのかして支配し、暴れさせるんだ。
本来は木属性のはずのシルクラースが燃えているということは、炎属性の悪魔が取り憑いているのかもしれない。
「ってことは、あれをやっつけるんだね! たのしみーっ!」とティフォン。
ユニバスは意を決した表情で言った。
「いや、あれを救いに行くんだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからほどなくして、ユニバス一行はオソレヤマに到着した。
オソレヤマはかつてユニバスが勇者パーティとともに訪れた時とは大きく様変わりしていた。
かつて村だった地は町となって規模を広げ、そのうえ町中は観光客でごったがえしていたのだ。
「うわぁ、人がいっぱい!?」とティフォン。
「精霊やモンスターが暴走した地は、観光地になりやすいんだ」とユニバス。
――精霊やモンスターの暴走というのは、人間にとっての災害なのだが、同時に格好の娯楽でもある。
トコナッツの国王がデストラの討伐に喜んで参加したように、討伐の見物というのはとても人気があるんだ。
町中はシルクラースが倒される瞬間をひと目見ようと、集まった大勢の人たちの熱気に溢れている。
「人混みと、オソレヤマが燃えているせいで……なんだか暑いな」
ユニバスが汗を拭おうとするより早く、イズミが冷たいハンカチで拭いてくれる。
「ありがとうイズミ。ティフォンは平気か?」
「へへーんっ」とティフォン。
「このビキニアーマーは耐熱効果があるんだよ! だから少しくらい暑くてもへっちゃら!」
胸を張るティフォン。馬車は人混みの間をぬって、ゆっくりと町中に入っていく。
大通りでは多くの屋台が出ていた。オソレヤマを見るための双眼鏡や、屋台の食べ物が飛ぶように売れている。
「見て、屋台がいっぱい! まるでお祭りみたい!」とはしゃぐティフォン。
「フルーツの屋台がたくさんありますね」とイズミ。
「このあたりはもともとフルーツの名産地でもあるんだ」
ガミメスは、屋台で買ったのであろうバナナを頬張っていた。
「あっ、いいなぁガミメスちゃん! わたしもなにか食べ……」とまわりを見回したティフォンは、思わず二度見する。
「あっ、なにあれ!? ユニバスくんの顔に落書きされてるよ!?」
町中では、ユニバスの顔にバッテンを描いたプラカードや、『打倒ユニバス』『ノーユニバス』などと書かれたプラカードを掲げた集団がデモをしていた。
「シルクラースを復活させたのは、無能のユニバスだーっ!」
「無能のユニバスは、魔王をも復活させるだろう!」
「無能のユニバスこそが、すべての悪事の元凶!」
「邪悪なシルクラースを殺せーっ! 無能のユニバスを殺せーっ!」
それを見た瞬間、ティフォンは髪が浮き上がるほどに激怒した。
「ユニバスくんのせいにするなんて……許せないっ!」
ティフォンは暴れザルのように御者席から飛び出していこうとしたが、それをすでに察していたユニバスが、ティフォンの腰をつかんで抱き寄せる。
「は、はなして、ユニバスくんっ!」
振りほどこうとするティフォンであったが、振り向いた間近にユニバスの顔があって、心臓を急襲される。
唇が触れてしまいそうなほどの距離だったので、思わず押し黙ってしまった。
「ティフォン、こらえてくれ。ここで騒ぎを起こすわけにはいかないんだ。俺を信じて、黙ってついてきてくれ」
ティフォンの唇は、自然と動いていた。
「は、はい……」
――ユニバスくんの真剣な表情……カッコ良すぎる……!
それに、以前は「ついてきてくれるか?」って尋ねるカンジだったのに……。
いまは「ついてきてくれ」って……。
ああんっ、嬉しい……! 嬉しぃよぉ……!
それを見ていたガミメスは「バッカみたい」と一言。
彼女は屋台で買ったバナナを食べていたのだが、食べ終わった皮をポイと人混みに捨てる。
ちょうど馬車の横を通り掛かっていたデモ隊の一員が、それを踏んづけて転んでしまう。
「無能のユニバスを殺……うわぁっ!?」
転んだ一員に巻き込まれ、デモ隊が次々と将棋倒しになる。
飛び交う悲鳴と怒号のあと、デモ隊は全滅した。
「これで静かになったっしょ」とガミメス。
ユニバスたちは黙ってその横を通り過ぎた。
















