↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
186/190

82 オソレヤマの町1(中編)

 ところ変わって、とある馬車の中。

 そこは馬車の中というより、貴族の応接間のように広々とした豪華なつくりだった。中央にテーブルが置かれ、部屋の外周をUの字型にぐるりと囲むように、革張りのソファが並んでいる。


 そのソファには、ステージ衣装に身を包んだ『ユニバス★LOVE』のメンバーが座っていた。いちばん奥の上座にいるのはミドリだ。

 ミドリは対面に座っている人物へ、慇懃に、しかしどこか尊大な態度で尋ねた。


「どうしますか、ポーキュパイン様?」


 対面の椅子に座っていたのはポーキュパイン。その椅子だけは簡素な木の椅子で、さながらアイドル試験の最終面接のような雰囲気であった。

 究極の選択を迫られているかのような表情のポーキュパインに、ミドリはさらに続ける。


「あなた様がその気であれば、こちらはいつでも大歓迎ですよ」


 しばしの沈黙の後、ポーキュパインはゆっくりと頷いた。


「わかったわ」


「取引成立、ですね……!」


 ミドリはニヤリと片笑むと、傍らにあった風呂敷包みをテーブルに置いた。


「聞けば、ポーキュパイン様は甘いものがお好きとかで……」


 ミドリが風呂敷包みを解くと、そこにはお菓子の箱があった。パッケージには古めかしい書体で『オンセントラルまんじゅう』と書かれているのだが、まわりには『ユニバス★LOVE』のメンバーが描かれている。

 パッケージの隅には『オマケつき!』とあり、コラボ商品であることがひと目でわかった。


「こちらで、祝杯といきましょう」


 箱をパカッと開けると、昔ながらの温泉まんじゅうが9個入っていた。

 まんじゅうには一文字ずつ焼印が押されていて、左上から『ユ』『ニ』『バ』『ス』『★』『L』『O』『V』『E』と読める。


 ミドリは、自分から見て手前側にあたる左上の『ユ』のまんじゅうを取る。ポーキュパインは、自分から見て手前側にあたる右下の『E』のまんじゅうを取った。

 まんじゅうにかぶりつきながら、ポーキュパインは尋ねる。


「本当に、ユニバスを虜にできるんでしょうね?」


「もちろん」とミドリはまんじゅうを食べながら返す。


「アイドルが嫌いな男はいません。あのユニバスさんも、例外ではないでしょう」


 そう言って、念を押すように付け加えた。


「そのかわり、忘れないでくださいよ」


 お互い、2つめのまんじゅうを食べ終え、同時に3つめのまんじゅうを取る。


「わかってるわ」とポーキュパイン。


「メンバーの学院の単位は、学長のウチが卒業ぶんまで保証してあげる」


「それもそうですけど、もうひとつの約束も忘れないでくださいね」


 ポーキュパインの目が鋭くなる。


「ウチがユニバスと結婚した暁には、王室にハーレムを設立して……」


 その言葉を、ミドリが引き継ぐ。


「『ユニバス★LOVE』のメンバー全員を、ハーレム入りさせる……!」


「いいわ……」とポーキュパイン。


「このまんじゅうのように、ユニバスを分け合いましょう……!」


 と、ふたりは同時に、最後に真ん中に残った『★』へ手を伸ばす。ポーキュパインが強気な態度で最後のひとつを取った。


 ――でも最後にユニバスに愛されるのは、このウチ……!

 それだけは、ぜったいに譲らないんだから……!


 ひとあし早く始まった、女の園の戦い。勝利したのはポーキュパインだった。

 彼女は勝利の美酒のように最後のまんじゅうを口にしていたが、ふと、箱の底にあったものに目を奪われた。


「こっ……これはっ!?」


 箱の底から取り出したのは、一枚の真写。ユニバスとギャルたちが、オンセントラルの秘湯で撮ったものだった。

「あら」と、わざとらしい声をあげるミドリ。


「おまけのブロマイド……シークレットを当てるなんて、幸先がいいですね」


 まるで旦那の浮気相手に詰め寄るように、「ちょ!? なんなのこれっ!?」と前のめりになるポーキュパイン。


「なにって、修学旅行でオンセントラルに行った時に、ユニバスさんとぐうぜん会ったんです。それで、せっかくだったから……」


 まわりにいたメンバー全員が、一斉にハモった。


「裸の付き合いを、させてもらっちゃいましたーっ!!」


「う……うっそぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!? んがぐぐっ……!」


 衝撃のあまりまんじゅうに喉を詰まらせ、目を白黒させるポーキュパイン。


 ――ウチとは目すらまともに合わせてくれなかったのに……!?

 混浴なんて、夢のまた夢だと思っていたのに……!?


「ポーキュパイン様! 大変です!」と、後ろから声がした。


 トコナッツ兵が駆け寄ってきて、ポーキュパインに新聞を見せる。

 それは、ユニバスたちが見ていたのと同じ新聞の一面であった。


 ごくりっ……! と喉を鳴らすポーキュパイン。

 立ち上がると、勇ましく兵士に命じた。


「オソレヤマに向かいましょう! ユニバスは、絶対にやっていない! 現地に乗り込んで、旦那様の濡れ衣を晴らすのよ!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そのころオソレヤマの一角では、急ピッチである工事が進められていた。

 それは屋外結婚式場。場内にはデカデカと『アパーレ様♥ナナホシ様 ご結婚おめでとうございます!』と書かれた看板が掲げられている。


 早々とタキシードに着替えたアパーレが、熱心に陣頭指揮を取っていた。

 工事の作業はすべて兵士が行なっていて、ひとりの兵士がアパーレに声を掛ける。


「アパーレ総司令官様! ウエディングケーキのトッパーができあがりました!」


 差し出されたのは、タキシードのアパーレが、ウエディングドレスのナナホシをお姫様抱っこしている人形。

 アパーレは一瞥して、「ケッパレ……」とため息をついた。


「キミには、僕がこう見えているのかい?」


「はっ?」


「この僕がこんなにブサイクで、こんなに足が短いように見えるのかい、と聞いているんだよ?」


「し……失礼しました、すぐに作り直させます!」


 入れ違いで、式場に駆け込んできた別の兵士が、息を切らせてアパーレに報告する。


「あ……アパーレ総司令官様! 大変です! オソレヤマの3合目の橋が崩落しました!」


 アパーレはこれみよがしに、大きなため息をついてみせた。


「ケッパレ……それがどうしたというんだ?」


「えっ……!? 5合目のキャンプには、多くの負傷兵たちが取り残されています! 急いで増援を! 橋を修復しないと……!」


「見て分からないのかい? 工兵たちはこっちの橋を掛けるのに大忙しなんだ」


 見ると、式場内の奥では巨大な虹の橋が建設されていた。


「アッパレ、僕とナナホシが飛行船のゴンドラで現れて、あの橋の頂点に立つんだ」


「そ……そんなことに、兵士を……!?」


「ケッパレ、そんなことだって? もうすぐ式場に、僕の妻となる小さき者が到着するんだ。式場の完成が遅れて結婚式ができなかったら、キミが責任を取るというのかい? その汚い首が、どれほどの価値があると思っているんだ?」


 いまオソレヤマで戦っている者たちの惨状を知っている兵士は、ヒザをついてアパーレの足に泣きすがった。


「ど……どうか、賢明なるご判断を! キャンプにはアパーレ様のために戦い、死にかけている兵士たちが大勢いるのです!」


「増援は、結婚式が終わってからだ! 主君のめでたい日に死ねるのなら、キミたち兵士にとっては本望だろう!」


「そ……そんな……!? うわっ!?」


 兵士を蹴り飛ばしたアパーレは、憎悪に満ちた顔をしていた。


「ケッパレ、タキシードが汚れてしまったじゃないか……! 重大なる命令違反として、キミを軍法会議にかける……連行しろ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス8巻、発売中です!
jzdd8ckk7fea69814ryt33k63xbn_1bko_ak_f0_72ar.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス発売中です!
ix0s40e57qxt33v43hvp6sa1b4tq_d3j_7n_53_a06.jpg liv1nc3gnnsjqxl9i33inre6rpy_nnp_3j_53_10vx.jpg 7torhnt1466d5k1v1a0yhxkg3yud_dnb_3k_53_15d4.jpg 3780l3ki5oa0e7a3cwgaa107gtbm_104l_3l_53_1547.jpg c2km7fnbuyxf9i1h9909diq55m1_313_3l_53_14fd.jpg d0t94jt64sntm8ydcomjfloiebe2_krf_3l_53_14k8.jpg bn203zyneufhihaxh3rm6a6whu7b_arg_3j_50_14h0.jpg pxge9z573sif3otl0s0ivqy5m9q_wtz_3j_50_12ek.jpg kg6xm9a17367i7n22p3heo5ckx4n_gla_3j_50_13j1.jpg
▼小説2巻、発売中です!
4qal7ucn4ecv3bmwhixjlinz1h24_1aru_3l_53_12uj.jpg ah438036f57n9yf3bm6i65zrj1za_pfu_3l_53_13p3.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。