81 オソレヤマの町1(前編)
オンセントラルを出発したユニバスたちは、馬車や人の行き交う、広くて賑やかな街道を、ゆったりとしたスピードで進んでいた。
ティフォンは、前に伸ばした光沢のある腕をさすっている。
「見て見てユニバスくん! お肌がつやつやになっちゃった!」
子供のようにはしゃぐティフォンを、ユニバスは親のようなまなざしで見た。
「温泉のおかげだな」
「ざぁこ、あたしの足のほうがもっとつやつやだし」
隣に座っていたガミメスが、セクシーポーズで足をピーンと伸ばし、太ももをユニバスに見せつける。
「それにすべすべ、ほら、さわってみて」
ガミメスはユニバスの手を取り、太ももへと誘導する。「ホントだ、すべすべだな」とユニバスが言うと、今度はティフォンがユニバスの手を取って、自らの頬に押し当てた。
「ほっぺたなんて、もちもちだもん!」
「ほんとだ、もちもちだ」
「あたしのほうがもちもちだしーっ」
ガミメスがユニバスの頬に頬ずりをする。
負けじとティフォンも頬ずり。両脇からスリスリされて、ユニバスは「あはは、くすぐったいよ」と笑った。
ふと、ガミメスの隣にいたイズミがうらやましそうにしているのに気づいて、ユニバスはイズミの頬に手を伸ばす。
頬に触れられたイズミは「えっ」となった。
「イズミの頬は白くてぷにぷにで、まるで赤ちゃんみたいだな」
そう言われて、イズミはポッと頬を染める。
「あ……ありがとう、ございます……」
ウットリした表情で、ユニバスの手に両手を添える。
ふたりの美少女に両脇からスリスリされ甘えられているうえに、もうひとりの美少女の頬に手を当ててウットリさせているユニバス。
その様子を見た通りすがりの男たちは、みなうらやましそうにしていた。
「くそっ、いいなぁ……」「あんな美少女精霊を3人もはべらせるなんて……」「ハーレム王か……?」「彼女にするなら人間より、やっぱ精霊の女の子だよな……」
その甘いひとときを断ちきるように、前方から飛んできた鳩が、御者席の前にある仕切りに着地した。
「あっ、鳩さんだ!」とティフォン。
「でもこの子、金属でできてるみたい……?」
「これは魔導鳩だよ」
ユニバスは言いながら、魔導鳩を手にとる。魔導鳩はユニバスの手の中でじっとしていた。
「魔導装置の一種で、伝書鳩のかわりとして作ったものなんだ」
「こちらもユニバス様がお作りになられたのですか? 流れる石でございます」とイズミ。
「ざぁこ、別のヤツの名前が書いてあるじゃん」とガミメス。
そう言われて魔導鳩をひっくり返してみると、腹の所に『アパーレ製』というシールが貼ってあった。
かつての上司の顔を思い浮かべ、ユニバスは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。
「あっ、足になんか付いてるよ!」とティフォンに言われ、ユニバスは魔導鳩の足に巻かれていた紙をほどいた。
開いてみるとそれは、手紙だった。
『ユニバスへ あなたがリングラッドにいることはわかっています。クエストを差し上げますから、この手紙を読んだらすぐにオソレヤマに来るのですわ。クエストの内容は、今日の朝刊を見ればわかるでしょう レセプル』
「えっ、レセプルちゃん……!?」と驚くティフォン。同じくレセプルのことを知っているイズミは、手で口を押さえて上品に驚いていた。
「なぜ、ここにいることが、おわかりになったのでしょうか……?」
「金の精霊のネットワークだろうな。それよりも、今日の朝刊を……」
「おじさん、それちょーだい」
と、ガミメスがちょうど隣を通り掛かった馬車の御者席、その助手席側で新聞を読んでいる男に話しかけた。
「え、でも、これは買ったばかりで、まだ読み終えて……」
「いいじゃんいいじゃん、ねぇ、おねが~い」
ガミメスが猫なで声でおねだりすると、男は頬を染めて「しょ、しょうがねぇなぁ」と新聞を渡す。
走り去っていく馬車に「ちょろ」と舌を出すガミメス。
ガミメスがさっそく開いた新聞を、ユニバス、ティフォン、イズミの三人で覗き込む。
そこには一面で、こう書かれてあった。
『オソレヤマの精霊が暴動! リングラッド王国はユニバスの仕業と断定!』
真写には、炎に包まれるオソレヤマの風景と、かつて指名手配された際に作られたユニバスの凶悪な似顔絵が並んで載っていた。
「ちょ、なにこれ!?」とティフォン。
「突っ込み所が多すぎます!」とイズミ。
ガミメスは逆に嬉しそうだった。
「なんかすごいことになっちゃってるね。ユニバス様、大丈夫そ?」
「もう少しで、ユグドラララに着くんだが……。進路変更だ、オソレヤマに行ってみよう」
ユニバスは真面目な表情で、精霊姫たちに言った。
「オソレヤマには伝説の精霊虫がいるんだ。おそらくその精霊虫が暴走したことで、レセプルは討伐クエストを俺にさせるつもりなんだろう」
新聞の見出しにプンスカしていたティフォンだが、討伐クエストと聞いて目の色を変える。
「討伐クエスト!? ってことは、冒険だね!」
「ああ。だからいまのうちから、準備をしておいてくれ」
「わかった! イズミちゃん、ガミメスちゃん、行こっ!」
ティフォンはイズミとガミメスの手を引っ張り、馬車へと消えていった。
















