80 アパーレの野望3
話は現在、オソレヤマのオシドの家に戻る。
「こ……これは……!」
これは何かの間違いだ、とオシドは書類を何度も確認する。アパーレは持ち前の意地悪な笑顔で言った。
「アッパレ! オソレヤマの町長を、このアパーレに任命するという命令書だ! しかもこのリングラッドの女王であらせられる、ナナホシ様からの勅命であるぞ!」
書類にはたしかにそう書かれていて、ナナホシが命じた証である七つ星のスタンプが押されていた。
「町長を交代なんて、そんな……!? この町は年々規模も大きくなって、税収もあがっています! 私に過失はないはずなのに、なぜ……!?」
「ナナホシ様はおっしゃっている、この国をもっと豊かに、もっと金持ちが暮らしやすい国にせよと……! そのためには魔導セイラーパネルの設置は急務! 前町長、あなたは再三要求されていたにもかかわらず、オソレヤマの再開発を拒んでいたそうではないか……!」
後ろにいたガラの悪そうな男たちが「そうだ!」と応じる。
「オソレヤマに魔導セイラーパネルが設置されれば、この町はさらに豊かになるのに! 俺たちはずっとその要望を出していたのに、無視しやがって!」
「町民の声を無視する横暴町長め、いますぐ辞めろっ!」「そうだそうだ! きっと、私腹を肥やしてるんだろう!」
オシドは毅然とした態度で言った。
「あなたたちは、この町の人間ではないだろう! それに私腹を肥やそうとしているのは、再開発を推進している大臣たちだ! この町の人間は、みな私のやり方に賛成してくれている! オソレヤマは精霊虫が護る地……人間がどうこうしていい場所ではないんだ!」
オシドは屋敷の裏手にある、オソレヤマの入口にみんなを案内する。
登山口は木の門により閉鎖されているが、その傍らには石碑が建っていた。石碑には、こう彫られている。
『精霊たちの土地 ここより上に家を建てるな』
「これは、かつて勇者パーティがこの山を訪れた時に建てられたもの。私はこの碑文を守り続けているのだ」
「ふん……」
と、石碑を覗き込んでいたアパーレは、やれやれと肩をすくめた。
「ケッパレ、こんなものが再開発をしない理由とは。やはり僕が来てよかった、旧町長はこの町にとっての害悪でしかない。デタラメな石碑を信じるとは……」
「なんだと? この石碑がデタラメだという証拠は……!」
アパーレは「ケッパレ!」と、石碑の下に生えていた雑草を踏みつける。隠れていた石碑の下部が現れ、全文が明るみに出たのだが、そこには……。
『精霊たちの土地 ここより上に家を建てるな ユニバス』
ガラの悪い男たちが、ここぞとばかりに騒ぎたてる。
「ええっ、ユニバス!?」「ユニバスっていったら、勇者パーティの荷物持ちだよな!」「荷物持ちどころか、お荷物だったっていう無能だぜ!」
「無能が建てた石碑を信じてるっていうのかよ!?」「あっ、わかったぞ、こいつも無能なんだ!」「無能! 無能! 無能!」
起こる無能コールに、「ユニバス様は無能ではないっ!」と言い返すオシドとリフフ、そしてテマリとイドオン。
オシドは怒りで顔を赤くしていた。
「ユニバス様は、私たちを絶望の淵から救ってくださった恩人だ! 誰よりも精霊を愛し、精霊に愛される、偉大なるお方なのだ!」
「ケッパレ! ユニバスといえば、精霊にもっとも嫌われた男だというのに……! まさか無能に、ここまで騙される人間がいるとは!」
アパーレは岩の上に立つと、一同を見下ろしながら命じた。
「アッパレ! 新町長アパーレの名において命じる! オソレヤマを再開発し、魔導セイラーパネルで埋めつくすのだ! そうすればこの町は、さらに栄えるだろう!」
「おおーっ!!」
ガラの悪い男たちはツルハシで石碑を破壊し、さらに木槌で門を破壊して、オソレヤマに乗り込んでいく。
その中のひとりが山の中腹でホラ貝を吹くと、……ドドドドドド……! と地鳴りがせりあがってきた。
数百、いや数千はいるであろう作業員たちが援軍のごとく現れ、本格的な山林破壊を始める。
麓では『再開発反対!』と横断幕を掲げて抗議している村人たちがいたが、容赦なく蹴散らされていた。
砂糖に群がるアリのごとく、オソレヤマに群がる人間たち。山の動物たちは、天変地異を前にしたかのように逃げ惑っている。
オシドはガラの悪い男たちに取り押さえられながらも、声をかぎりに叫んでいた。
「や……やめろ! やめろーっ! いますぐやめるんだ! ユニバス様は旅立ちの際に、私に言われたのだ! この山の精霊虫が怒ったら、大変なことになると!」
アパーレは『新町長』のタスキを身に着け、高みからオシドを見下ろす。
「ケッパレ! 無能に惑わされた人間というのは、なんと滑稽なことか……! その低みから僕の有能っぷりをとくと拝めば、その曇った目も晴れることだろう……アッパレ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
再開発は急ピッチで進められ、オソレヤマは様変わりした。
わずか数か月でオソレヤマからは緑が消え、かわりに魔導セイラーパネルが建ち並んだ。
その中腹で仁王立ちするアパーレは、黒光りする斜面を見回して感無量。
頂上付近、山肌に巨大な文字を組んだ看板さながらに、『アパーレ』の形へ配置された魔導セイラーパネルには、特にご満悦であった。
「アッパレ……! この僕の手にかかれば、ざっとこんなものだ……!」
作業員が報告する。
「アパーレ様、工事のほうは90%ほど完了しました。残るは頂上だけで、今月中には100%になるでしょう。しかし作業が連日に及んでおりますので、作業員たちがもう限界です。そろそろ休みのほうを……」
しかしアパーレは「ケッパレ!」と、それを一蹴する。
「ならば今週……いや、今日じゅうに100%にするんだ! 早くすればするだけ、早くなるのだからな!」
「そ、そんな……!」
と食い下がる作業員。
「それに、反対運動も激化しています! このまま強行するのは……!」
オソレヤマの麓のあたり、バリケードの向こうでは『再開発反対!』『オソレヤマを守れ!』『魔導セイラーパネル反対!』の横断幕を持った一団が騒いでいる。
反対派のリーダーであるオシドとリフフ、そしてテマリとイドオンが、シュプレヒコールを上げているのが見えた。
アパーレはフッ、とバカにしたように彼らを笑う。
「この期に及んでもなお、あの無能の言うことを信じているとは……バカと無能は治らないというが……ケッ」
……ドゴォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
足元で、大爆発が起こる。
「パレぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?!?」
吹き飛ばされたアパーレは、頭から地面に突っ込んでしまう。もがいて頭を引っこ抜いたあと、背後のオソレヤマを見た。
オソレヤマの頂上が、火山のように火を吹いていた。それだけではない、岩山が刺のように隆起して魔導セイラーパネルを吹き飛ばす。
まるで血を吹いているかのように山のあちこちから火が噴き出して、宙を舞った魔導セイラーパネルが爆発炎上している。
大空を焦がす炎が、悪魔のような顔の形となった。
「せ……精霊だ! 精霊たちが怒ったんだ!」
と、オシド。
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
次々と吹き飛ばされる作業員たち。アパーレの目の前に、その身体がバタバタと降ってくる。
「た……たすけ……て……!」
アパーレは足首を掴まれたが、蹴って振り払う。迫りくる爆発に、一目散に逃げ出した。
しかし山から降ってきた巨大な火山弾が、ドゴオンッ! と近くで爆発。吹っ飛ばされるアパーレ。
「ぐっはぁぁぁーーーーっ!?」
めげずに立ち上がって走ろうとするが、前から雪崩のように降りてくる岩に跳ね飛ばされる。
身体がバラバラになったような激しい痛みを感じたが、今はそれどころではない。
「に……逃げ……!」
と再び走りだすのだが、地滑りで流されてきた5台の荷車に轢かれて倒れ、連続で轢きつぶされてしまう。
「ぐえっ!? ぐえっ!? ぐえっ!? ぐえっ!?」
最後の1台は横転して、さらに押しつぶされてしまった。
「ぐえぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!?」
なんとか荷車から這い出たものの、もう全身はアザだらけで、走るどころか立つことすらままならない。
下半身を失ってもなお屍肉を求めるゾンビのように、這いつくばって山道を降りる。
石つぶてのような火山弾が降り注ぎ、そのたびに袋叩きにあっているように身体を丸めた。
身体に火が付いて、「あちちちち!」とのたうち回る。
全身は焼け爛れたようにボロボロになり、満身創痍。それでも残った力を振り絞って、這い降りる。
なんとかバリケードの所まで逃げてこられた。反対運動をしていた者たちはとっくに避難していて、アパーレは閉じたバリケードを開こうと、ガチャガチャやっていた。
……ドゴォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
また、大爆発。ハッ!? と振り返ったアパーレは、スローモーションになった世界のなかで見ていた。
巨大な魔導セイラーパネルが、頭上に降り注ぐのを……。『アパーレ』という文字がだんだんと、視界の中で大きくなっていくのを……。
……グシャッ!
















