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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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79 アパーレの野望2

 テマリの話は、これにて終了。

 話し終えたテマリは、照れくさそうにしていた。


「……まり……イドオンちゃんのエピソードに比べたら、なんてことないまり……」


 しかしイドオンは四つ足になるほどに前のめりになっていた。

 見開いた目は血走り、口の端からはヨダレが垂らしている。


「お……おおおんっ! う……うらやましい……! ゆ……『ユニバス定食』……!? ユニバス様の手料理なんて、このイドも食べたことがないのに……!」


「おやおや」


 と、廊下のほうから声がした。


「テマリや、お友達かい?」


 見るとそこには、派手さはないが身なりのいい、上品な感じの中年女性がいた。

 そう、リフフである。


「……母上! まり、イドオンちゃんまり!」


「ああ、イドオンちゃん、ひさしぶりだねぇ」


「おおん、おじゃましてます」


「ああ、いつ見てもかわいらしいねぇ。そうだ、おやつをあげるから、ゆっくりしていくといいよ」


 リフフが手を叩くと、使用人らしき女性たちが、山と盛られた大きな菓子盆やせいろ、バースデーケーキのような大きなケーキを持って現れた。

 テマリとイドオンは、あっという間に豪華なお菓子に囲まれる。


 イドオンは、フルーツがどっさり乗ったタルトを頬張りながら言った。


「このお屋敷が年々大きくなっていると思ったら、そんな秘密が隠されていたのですね」


 テマリは両手いっぱいの大きさの、雪玉のような肉まんを頬張りながら微笑む。


「まり! これも、ユニバス様のおかげまり!」


 そのとき、なにやら外が騒がしくなった。

 使用人が血相を変えて裏庭に飛び込んでくると、リフフに言った。


「お……奥様、大変です! 新町長を名乗る男が現れました!」


「なんですって?」「まり?」「おおん?」


 リフフが玄関に向かっていくので、テマリとイドオンも後からついていく。

 大きな玄関では、すでに町長のオシドが、ガラの悪そうな男たちに囲まれていた。


 男たちは手に木槌やツルハシを持っている。そんな彼らを引きつれていたのは、なんと……。

 フーリッシュ王国の魔導装置課の副主任……いや、ゴーツアンが失脚して、かわりに魔導装置大臣となったアパーレであった……!


 そのことは、オシドも知っていた。


「あなたはひょっとして……フーリッシュ王国の魔導大臣の、アパーレ様……? なぜ、この町に……?」


「アッパレ、この町の町長として就任したのだよ。前町長に、その就任の挨拶をしようと思ってね」


「そんな、いきなり……!? それに、いったいなんの権利があって……!?」


 と、オシドの鼻先に、一枚の書類が突きつけられる。


「こ……これは……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 時は少し戻り、数日前の早朝。ところはフーリッシュ王国。

 アパーレは妻の見送りを受けて、今日も屋敷を出るところだった。


 妻はペットの小型犬を抱いている。小型犬の首には、カメラ付きの首輪が巻かれていた。


「あなた、今日はこんなに早くからお仕事ですか?」


「アッパレ、国王に呼ばれていてね。僕ほどの優秀な大臣になると、国王から常に必要とされるのさ」


 と、アパーレは微笑みをつくる。


「今日は早く帰ってくるよ。特別な日だからね」


 そう言って、アパーレは馬車に乗る。妻も見送りのため、表通りに出た。

 通りの向こうに小さくなっていく馬車を、妻は感激した様子で見つめている。


「あ……あの人は、覚えていてくれた……! 10年前の、今日のことを……!」


 それは、まだ若かりし頃の思い出。

 いまの屋敷よりもずっと手狭な部屋の中で、アパーレは申し訳なさそうにしていた。


『ケッパレ……すまない、今年も昇進は無理そうだ。ゴーツアン主任への賄賂が、どうしても足りなくて……』


 すると妻は『じゃあ、これを使って』と、金貨の入っていそうな袋をアパーレに渡した。


『これは……?』


『私の家の家宝を売って、お金にしたの。このお金があれば、あなたは副主任になれるんでしょう?』


『あ……ああ、これだけあれば……でも、本当にいいのかい?』


『もちろん。あなたは出世するのが夢なのでしょう? あなたの夢は、私の夢でもあるから』


『あ……アッパレ……!』


 と、感激するアパーレ。


『約束する……! 僕は偉くなってみせる。10年後に大臣になって、キミに家宝以上のダイヤモンドをプレゼントするよ……!』


 それは、そんな約束を交わした大切な記念日だったのだ。


 やがてアパーレを乗せた馬車は、フーリッシュ王城へと着いた。

 国王の執務室。アパーレは、書斎机に座る国王と向かいあっていた。


「貴様は、現在リングラッドで進行中の『魔導セイラーパネル設置作戦』を知っておるな?」


 と、国王。


「アッパレ、もちろんでございます。リングラッドの各地に我が国の魔導セイラーパネルを設置し、リングラッドの精霊力を奪うという作戦ですよね?」


「そうだ。その作戦でパイススの村に魔導セイラーパネルを設置するはずだったのだが、直前でナナホシ女王の反対にあい、頓挫した。ワルメシアンから、『精神支配の環』の力が弱まっているのではないか、と報せがあった」


「ケッパレ、そうなのですか? では、すぐに女王にお会いして、環の調整を……」


「いや、それよりも、貴様はただちにオソレヤマへと向かうのだ」


「オソレヤマというと……『魔導セイラーパネル設置作戦』における、最大規模の土地ですよね?」


「そうだ。オソレヤマへの魔導セイラーパネル設置は、本作戦の大本命。絶対に失敗は許されん。よって、貴様が現地で陣頭指揮を取るのだ。貴様がオソレヤマの町長となれるよう、手筈は整えてある」


「しょ……承知しました!」


「作戦に成功した暁には、その腕を見込んで、リングラッド征服における最重要ポストに就かせてやろう」


「アッパレ、最重要ポストですか? ちなみに、それはいったい……?」


「国王だ」


 この『ポスト』は予想外だったので、アパーレは「えっ!?」と声をあげた。


「本来は勇者祭りの際に、勇者ブレイバンとナナホシを結婚させる手筈であった。しかしブレイバンはトコナッツで有罪判決を受けたあと、行方知れずとなっている。アパーレ、貴様は『精神支配の環』の開発者なのだから、ナナホシを惚れさせることなど簡単であろう?」


「は……はぁ……」


 と、まだ『ポスト』のすごさを理解している途中のような生返事をするアパーレ。


「それは要するに、僕にリングラッドの国王になれ、ということで……?」


「そうだ。かつては、王になる人間は2種類に分けられる、などと言われていたが……」


 国王は、噛んで含めるような口調で続けた。


「しかしいまは、王になれる人間は1種類だけ。ゆくゆくは帝王となる、このワシの手駒になる者、それだけだ……!」


 そして国王は、人間を闇に引きずり込もうとする悪魔のような口調で問うた。


「アパーレ、貴様はどちらの人間だ……? 一国の大臣で満足するような小駒か……? それとも、このワシの手におさまる大駒か……!?」


 アパーレはだんだん、野望という名の悪魔に取り憑かれたような、欲望にまみれた顔に変わっていく。

 興奮のあまり、瞳孔も鼻の穴もすっかり開ききっている。そこからプシュー! と体内の熱気を蒸気のように吐き出しながら、敬礼した。


「この、不肖アパーレ……! なんとしても、オソレヤマに魔導セイラーパネルを設置してみせます! そして、ナナホシ女王と結婚してみせますっ!」


「期待しておるぞ、未来のリングラッド王よ……!」


 壮大なる国王の言葉に送り出され、アパーレは早足で執務室を出る。

 ずんずんと廊下を進むその顔は、すでに昇進を取り付けたかのような、幸せのバラ色に染まっていた。


「す……すごい、すごいぞ……! ユニバスの発明品は……! 万年副主任だったこの僕を、一瞬にして大臣にするばかりか、ついには国王の座までもたらしてくれるとは……! そして、そして、なによりも……!」


 ――小さき者っ……! 小さき者と結婚できるなんてっ……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ところ変わって、アパーレの屋敷。


「今日は腕によりを掛けて、ごちそうを作らないと」


 アパーレの妻はエプロンをして、張り切った様子で台所に向かおうとしていた。

 しかし、玄関の両開きの扉が、バンッ! と勢いよく開く。


 見るとそこには、光を背にして立つ、両手を広げたアパーレがいた。

 妻は「まぁ!?」と、驚きと嬉しさが入り交じった声をあげる。


「あなた、もうお戻りになったの? 今日は早く戻るとおっしゃってましたけど、まだ午前中で……でも、嬉しい……!」


 乙女のような表情で、両腕を広げてアパーレに駆け寄ろうとする妻。

 対するアパーレはなぜか、投球フォームのように大きく振りかぶっていた。


 そして、近くにきた妻めがけて封筒を投げつける。

 その封筒は、


 ……ビッ……タァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 と音が聞こえてきそうなくらいの勢いで、妻の顔面に命中した。

 封筒の表面には、デカデカと『絶縁状』と書かれている。


 いきなりの三くだり半に、妻は戸惑うばかり。


「あ……あなた、これはいったい……!?」


「ケッパレ、キミとの関係は、今日でおしまいだ!」


「ええっ!? あなた、急になにをおっしゃっているの!?」


「アッパレ、僕はこれから小さき者と結婚する! だから、いますぐ出ていけ! いや、僕はどうせリングラッドに移住することになるから、手切れ金がわりにこの屋敷はくれてやるっ! 古女房には、こんな古屋敷がお似合いだ!」


「そ……そんな……ひどいっ……!」


 顔を押さえて泣き崩れる妻。

 しかしアパーレは容赦せず、その顔に向かってペッ! とツバを吐きかけた。


「ケッパレ、すべてはキミが悪いのだ! 小さき者を産んでくれることを期待していたのに、いつまで経っても……! この石女(うまずめ)がっ! 僕の人生を台無しにした罪を、残りの人生をもって償うがいいっ!」


 アパーレは一方的な別れを告げると、屋敷の前に待たせてあった馬車に乗り込む。

 御者に「ケッパレ、リングラッドのオソレヤマに向かえ」と命じた。


 走り出す馬車。小さくなっていく屋敷。

 アパーレの顔には、ルビコン川を渡った兵士のような不退転の決意が刻まれていた。


 ――待っていろよ、オソレヤマっ……! 緑あふれる山を、魔導装置で丸裸にしてやるっ……!


 しかしその顔はすぐに、変態エロオヤジと化す。


 ――そして、そのあとは……ナナホシっ……! キミは僕の手で、丸裸に……! クックックックック……!


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