75 座敷精霊2(後編)
――どうやら、かなりの人嫌いの精霊のようだ。
それとも、おにぎりが嫌いなのか……?
それからユニバスは料理の腕を振るい、おにぎり以外の差し入れを押し入れの前に置いてみることにした。
トーストとエッグスタンドに入ったゆで卵。
サンドイッチなどの軽食。
うどんやミートソースパスタといった麺類。
ピザやハンバーガーなどのジャンクフード。
果てはケーキやフルーツ盛り合わせのスイーツに至るまで、さまざまなメニューを怨霊に提供したのだが……。
どれひとつとして、手が付けられることはなかった。
それでもユニバスはあきらめなかったのだが、ある日の朝、ついに差し入れの皿がひっくり返され、料理が床にぶちまけられているのを見てしまう。
怨霊からの、明確な「食べたくない」という意思表示だった。
しょせんは一時的な滞在。常人ならここでもう、コミュニケーションを取るのをあきらめるのが普通だろう。
さすがのユニバスも、少し落ち込んでしまったのだが……。
「もう、やめるまり……」
ふすまの向こうからそんな声が聞こえて、ユニバスはがぜんやる気を出す。
――ついに、反応があった……!
それからもさらなる反応を引き出すため、ユニバスは差し入れを続けた。
すべてひっくり返されてしまっていたが、決してあきらめない。
勇者パーティの荷物持ちとしてオソレヤマを探索しているあいだも、ユニバスは新メニューを考えていた。
山道では先頭を歩いていたのだが、彼が歩くと、デコボコだった大地が自然にならされて歩きやすくなっていく。
――もう、メニューのネタも尽きてきたな……。
なにか新しいアプローチが、できないものかな……。
「おい! 無視すんなし!」
背後からの大声に振り返ると、オンザビーチがしかめっ面で鼻を押さえていた。
「やっとこっち向いた! さっきからくせーんだよ、なんとかしろよ!」
怒鳴られて、ユニバスはあたりから異臭がしていることに気づく。
――この匂いは、『クサハナ草』……。
ということはこのあたりに、なにか危険なものがあるのかもしれない。
『クサハナ草』は、危険なものが近くにあると匂いで教えてくれる。
匂いというのは見た目や音以上に、生き物の注意を引きつける効果があるんだ。
ユニバスがあたりを見回すと、道の脇に、小さなラフレシアのような花が咲いていた。
近寄ってしゃがみこみ、話しかける。
「すまない、通り過ぎるまでのあいだ、ちょっとだけ花を閉じててくれないか?」
ユニバスが語りかけると、クサハナ草はつぼみに戻っていき、あたりの異臭は消え去った。
「これで……」
と勇者たちのほうを見ると、オンザビーチは大げさにキレていた。
「ねぇ、なんかウンコみてーなニオイがすんだけど! あっ、こんな所にでっけーウンコが落ちてる!」
オンザビーチはわざとらしい声で言いながら、ズカズカとユニバスに近づいてくる。
コミュ障のユニバスは人の視線が苦手なのだが、とりわけギャルであるオンザビーチのそれは苦手で、それだけで蛇に睨まれたカエルのように汗が吹き出す。
オンザビーチもそれを知っていて、じりじりとユニバスを追いつめていく。
気づけばユニバスは道の脇、崖っぷちに立たされていた。
「わっ……」
と、バランスを崩しそうになるユニバス。足元の土が欠けて、ぱらぱらと崩れ落ちる。
ユニバスはうつむいたが、オンザビーチはサディスティックさを剥き出しにした顔で、追い討ちをかけるようにその顔を覗き込んだ。
「アンタってマジでウンコだよね。クセーしきたねーし、なんの役にもたってねーし。見てるだけでイラッとするんだけど。ねぇ、なんでここにいるの? ってかなんで生きてんの? ねぇ、なんでなんにも言わねーの? 頭にウジでも湧いてんの? ねぇ、ねぇ」
言葉責めに、とうとうユニバスは足を滑らせてしまう。
そのまま崖下に転落し、下にあった池へ、ばっしゃーん! と落ちてしまった。
「ぎゃはははははははは!」
と、ブレイバンは大爆笑。
「手も使わずに落としやがった! オンザビーチ、お前のお仕置きは相変わらず面白ぇなぁ!」
「ふん、アイツがあーしの言うこと無視してたから、しつけなおしてやっただけだし」
眼下では、ユニバスが「ぷはっ!」と池の中から顔を出す。
オンザビーチはそれを見下ろしながら、近くの岩に片足を乗せて女王様ポーズを取った。
オンザビーチ的には、この決めポーズとともに決めゼリフを放ち、カッコよく締めるつもりでいたらしい。
「これでわかったっしょ? 誰の言葉に耳を傾け、誰にひれ伏すのか。ユニバス、あんたは一生……!」
しかしその言葉が終わるより早く、頭上に、彼女の頭と同じくらいの蜂の巣が落ちてきて……。
……バッ、カァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
爆竹が仕掛けられたウエハースのように爆散する。
中から黒煙のごとく、おびただしい数の怒り狂ったハチが飛び出した。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
勇者パーティは阿鼻叫喚の渦に包まれる。
その様子を、ユニバスはポカーンと眺めていた。
















