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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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75 座敷精霊2(後編)

 ――どうやら、かなりの人嫌いの精霊のようだ。

 それとも、おにぎりが嫌いなのか……?


 それからユニバスは料理の腕を振るい、おにぎり以外の差し入れを押し入れの前に置いてみることにした。


 トーストとエッグスタンドに入ったゆで卵。

 サンドイッチなどの軽食。

 うどんやミートソースパスタといった麺類。

 ピザやハンバーガーなどのジャンクフード。


 果てはケーキやフルーツ盛り合わせのスイーツに至るまで、さまざまなメニューを怨霊に提供したのだが……。

 どれひとつとして、手が付けられることはなかった。


 それでもユニバスはあきらめなかったのだが、ある日の朝、ついに差し入れの皿がひっくり返され、料理が床にぶちまけられているのを見てしまう。

 怨霊からの、明確な「食べたくない」という意思表示だった。


 しょせんは一時的な滞在。常人ならここでもう、コミュニケーションを取るのをあきらめるのが普通だろう。

 さすがのユニバスも、少し落ち込んでしまったのだが……。


「もう、やめるまり……」


 ふすまの向こうからそんな声が聞こえて、ユニバスはがぜんやる気を出す。


 ――ついに、反応があった……!


 それからもさらなる反応を引き出すため、ユニバスは差し入れを続けた。

 すべてひっくり返されてしまっていたが、決してあきらめない。


 勇者パーティの荷物持ちとしてオソレヤマを探索しているあいだも、ユニバスは新メニューを考えていた。

 山道では先頭を歩いていたのだが、彼が歩くと、デコボコだった大地が自然にならされて歩きやすくなっていく。


 ――もう、メニューのネタも尽きてきたな……。

 なにか新しいアプローチが、できないものかな……。


「おい! 無視すんなし!」


 背後からの大声に振り返ると、オンザビーチがしかめっ面で鼻を押さえていた。


「やっとこっち向いた! さっきからくせーんだよ、なんとかしろよ!」


 怒鳴られて、ユニバスはあたりから異臭がしていることに気づく。


 ――この匂いは、『クサハナ草』……。

 ということはこのあたりに、なにか危険なものがあるのかもしれない。

 『クサハナ草』は、危険なものが近くにあると匂いで教えてくれる。

 匂いというのは見た目や音以上に、生き物の注意を引きつける効果があるんだ。


 ユニバスがあたりを見回すと、道の脇に、小さなラフレシアのような花が咲いていた。

 近寄ってしゃがみこみ、話しかける。


「すまない、通り過ぎるまでのあいだ、ちょっとだけ花を閉じててくれないか?」


 ユニバスが語りかけると、クサハナ草はつぼみに戻っていき、あたりの異臭は消え去った。


「これで……」


 と勇者たちのほうを見ると、オンザビーチは大げさにキレていた。


「ねぇ、なんかウンコみてーなニオイがすんだけど! あっ、こんな所にでっけーウンコが落ちてる!」


 オンザビーチはわざとらしい声で言いながら、ズカズカとユニバスに近づいてくる。

 コミュ障のユニバスは人の視線が苦手なのだが、とりわけギャルであるオンザビーチのそれは苦手で、それだけで蛇に睨まれたカエルのように汗が吹き出す。


 オンザビーチもそれを知っていて、じりじりとユニバスを追いつめていく。

 気づけばユニバスは道の脇、崖っぷちに立たされていた。


「わっ……」


 と、バランスを崩しそうになるユニバス。足元の土が欠けて、ぱらぱらと崩れ落ちる。

 ユニバスはうつむいたが、オンザビーチはサディスティックさを剥き出しにした顔で、追い討ちをかけるようにその顔を覗き込んだ。


「アンタってマジでウンコだよね。クセーしきたねーし、なんの役にもたってねーし。見てるだけでイラッとするんだけど。ねぇ、なんでここにいるの? ってかなんで生きてんの? ねぇ、なんでなんにも言わねーの? 頭にウジでも湧いてんの? ねぇ、ねぇ」


 言葉責めに、とうとうユニバスは足を滑らせてしまう。

 そのまま崖下に転落し、下にあった池へ、ばっしゃーん! と落ちてしまった。


「ぎゃはははははははは!」


 と、ブレイバンは大爆笑。


「手も使わずに落としやがった! オンザビーチ、お前のお仕置きは相変わらず面白ぇなぁ!」


「ふん、アイツがあーしの言うこと無視してたから、しつけなおしてやっただけだし」


 眼下では、ユニバスが「ぷはっ!」と池の中から顔を出す。

 オンザビーチはそれを見下ろしながら、近くの岩に片足を乗せて女王様ポーズを取った。


 オンザビーチ的には、この決めポーズとともに決めゼリフを放ち、カッコよく締めるつもりでいたらしい。


「これでわかったっしょ? 誰の言葉に耳を傾け、誰にひれ伏すのか。ユニバス、あんたは一生……!」


 しかしその言葉が終わるより早く、頭上に、彼女の頭と同じくらいの蜂の巣が落ちてきて……。


 ……バッ、カァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 爆竹が仕掛けられたウエハースのように爆散する。

 中から黒煙のごとく、おびただしい数の怒り狂ったハチが飛び出した。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 勇者パーティは阿鼻叫喚の渦に包まれる。

 その様子を、ユニバスはポカーンと眺めていた。


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