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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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74 座敷精霊2(前編)

 かつて勇者パーティが魔王討伐の旅をしていた頃。

 オソレヤマの町が、まだオソレヤマの村と呼ばれていた頃の話だ。


 勇者一行は、オソレヤマの村の村長の屋敷を訪ねていた。


 当時のオソレヤマの村は栄えておらず、イドオンの村よりもさびれた寒村だった。

 しかし村長の家だけは、やたらと立派だったという。


 当時の村長は、悪徳村長として名高い人物であった。

 その悪徳村長が、揉み手で勇者たちを出迎える。


「ようこそ、勇者様、そしてお仲間の方々! この村をあげて歓迎させていただきます! ひなびたところですが、どうかゆっくりしていってください!」


 村長の後ろでは、痩せこけた村人たちがアーチを作っている。

 彼らなりの精一杯の歓迎なのだが、それを見た一行は文句たらたらだった。


「マジでなんもねー所だなぁ! つまんねーから、村でも燃やすか!」


 と、チンピラ全開のブレイバン。


「我輩の肉体美を彫像にして、崇める権利をやろう! さぁ、これからお前たちの人生のピークがやってくる! この黄金のボディを目に焼きつけておくのダッ!」


 と、マッスルポーズを村人たちに見せつけるマッスルック。


「うわぁ、クサっ、ゴミみたい。こんなのくぐったら不幸になっちゃうよ」


 と、アーチをこきおろすオンザビーチ。

 「聖女様!」と村の子供が寄ってきてホーリードゥームに触れた途端、彼女はなんのためらいもなく子供を蹴り飛ばした。


「触らないでくださいます? 私、下賤の者に触られると虫酸が走るんです。これも……大人のしつけがなってないせいですねぇ」


 ホーリードゥームは、アーチの先頭にいた村人まで殴り飛ばす。痩せた村人たちは、ドミノのようにバタバタと倒れていった。


「あいすみません! あとでしっかり罰を与えておきますから! ささ、どうぞどうぞ!」


 村長は勇者たちを屋敷に招き入れる。しかし最後にユニバスが敷居を跨ごうとした途端、村長は飛び蹴りを食らわせた。

 吹っ飛ぶユニバス。村長はドブネズミでも見るような目で、ペッ! とツバを吐きかけた。


「お前は荷物持ちだな!? その汚い格好で入るんじゃない! 貧乏が伝染(うつ)るわ! お前は村の連中と同じ下郎だ! 裏庭にある小屋で寝ろ!」


 行く先々での冷遇は、ユニバスにとって慣れっこだった。やれやれと立ち上がり、裏庭へ向かう。

 裏庭はまったく手入れされておらず、草がボーボーに生えている。かきわけた先に、ボロボロの小屋があった。


 玄関扉が風に揺れ、暗闇の向こうで獣のような目が光っていた。

 ユニバスが近づくと、「まりぃぃぃぃぃ……!」と威嚇するような唸り声。


 しかしユニバスは気にする様子もなく、扉を開けて小屋に入った。

 光が差し込み、影が逃げていく。影だと思われたものは、床一面に広がった長い黒髪だった。


 ユニバスは「明るいのが苦手なのか」と独り言のように言い、扉を閉めた。

 するとあたりが薄暗くなる。逃げた影が長い髪を広げ、怨霊じみた巨大な影となって戻ってきた。


 怨霊は「食べちゃうぞーっ!」といわんばかりに大口を開けて、ユニバスを威嚇する。


「まりぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!!」


 完全に脅かしにきているのだが、ユニバスは怨霊をしげしげと観察したあと、フレンドリーに話しかけた。


「闇の精霊かと思ったけど、違うみたいだな。俺はユニバスだ、キミは?」


「ま……まりっ!?」


 怨霊はびっくりして、小屋の奥の押し入れに逃げ込み、ぴしゃり! と戸を閉めた。

 ユニバスは家にあがりこむと、「闇の精霊じゃないなら、光は大丈夫だよな」と、縁側の雨戸を開けて光を入れる。


 しかし外は高い草に覆われ、あまり光は差し込まなかった。

 ユニバスは振り返り、押し入れに向かって話しかける。


「俺はキミの敵じゃない。出てきてくれよ、話がしたいんだ」


 しかし、押し入れからの応えはなかった。

 ユニバスは仕方なく、部屋の掃除を始めた。


 ホコリにまみれた畳と床板を掃き、雑巾をかける。天井の蜘蛛の巣を払い、昔ながらのカマド炊きの台所と風呂場を使えるようにした。

 掃除をしながら、ユニバスは考えていた。


 ――勇者パーティの目的は、オソレヤマにいるという伝説の精霊虫の捕獲。売れば大儲けできるという理由からだ。

 資金はたっぷりあるし、魔王討伐には関係ない。精霊虫が捕まらないよう、こっそり裏から手を回そう。

 勇者は捕獲するまでこの村に滞在すると言っているが、1ヶ月もすればあきらめるだろう。

 それよりも……。


 掃除の手を止め、チラッと押し入れを見るユニバス。


 ――こっちの精霊のほうが、心配だな……。


 小屋の掃除を終えると、ユニバスは草刈り鎌で縁側のまわりの雑草を刈りはじめた。そこへ、悪徳村長がやってくる。


「なんだ、泊めてもらった恩返しとは、下郎のわりに気が利くじゃないか。だが、そんなもんじゃぜんぜん足りん! この裏庭にある雑草を、ぜんぶキレイに刈り尽くすんじゃ! できなければ、宿代を払ってもらうぞ!」


 悪徳村長は一方的に言いつけて去っていった。

 それからユニバスは、オソレヤマを探索する勇者パーティに同行するかたわら、あいた時間で小屋のまわりの雑草を刈った。


 しかしそれが終わると、悪徳村長はこう言った。


「小屋のまわりが終わったなら、ワシの屋敷の裏庭の雑草もぜんぶ刈るんだ! それが常識というものだろう! しっかり働いて恩を返せよ!」


 屋敷の裏庭は裏山といえるほど広大だったが、ユニバスは特に文句も言わず草刈りを続ける。

 除草だけでなく裏庭の木々も手入れし、見事な庭に仕上げていった。


 そのおかげで裏庭の見通しが良くなり、小屋から屋敷が見えるようになる。

 働きアリのようにせっせと働くユニバスの姿を、怨霊は押し入れの中から縁側ごしにじっと見つめていた。


 押し入れのふすまの前には、海苔を巻いた三角おにぎりが2個、置かれていた。

 ユニバスが供えたものだ。


 ユニバスが小屋に戻ってくると、押し入れのふすまはピシャリ! と閉まる。

 ユニバスはその扉に向かって、毎日のように話しかけていた。


「精霊は食べなくても生きていけるけど、腹は減るんだろう? へんなものは入ってないから、食べてくれよ。食べないなら、俺が食べるぞ」


 ユニバスは手つかずのおにぎりをひとつ取り、頬張りながら考えを巡らせていた。


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