72 みんなで温泉3
いっぽうその頃、ユニバスをバカにした若者4人組は、険悪ムードで森を歩いていた。
新たに見つけた温泉に手を浸けては、さらに顔をしかめる。
「なんだよ、この温泉もダメじゃん!」
「どの温泉もなんかぬるいし、ヌルヌルするし、なんかくせーし!」
「ったく、地元のヤツだけが知ってる秘湯じゃなかったのかよ!」
「うるせーよ! 最初に見た温泉はすげーいい感じだったじゃ……!」
と、男のひとりが悪だくみを思いついたような顔になる。
「そうだ、最初の温泉に戻って、あのぼっち野郎を追い出そうぜ!」
「あ、それイイ!」と女たちも乗っかる。
「あそこすごい広かったじゃん! ぼっち野郎にはもったいないよ!」
「そうそう、私らが入ったほうが、温泉も喜ぶって!」
「あんな弱っちそうなヤツなら、俺らが脅せば一発だな!」
彼らは悪い顔で来た道を戻り、ユニバスのいる最初の温泉へと向かったのだが……。
そこで繰り広げられていた光景に、顎が外れんばかりに仰天した。
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「なっ……う……うそだろ? ついさっきまで『ぼっち温泉』だったのに……!」
「これじゃ、『ハーレム温泉』じゃねぇか……!」
「え……ええ……!? なにここ、桃源郷……!?」
「花が咲いてて、すっごくキレイ……!」
男たちは咲き乱れるような女体に見とれ、女たちは咲き誇る湯の花に見とれてしまう。
気づいたミドリが声を掛けた。
「あっ、そこのオジサン! ちょーど良かった、真写撮ってくんない?」
「えっ……? あ、はい! も、もちろんです!」
モデルみたいなギャルに魔導真写装置を渡され、男はすっかり鼻の下を伸ばしていた。
が、ユニバスを取り囲むように並んだ精霊姫とギャルたちを見て、嫉妬に狂いそうになっていた。
「く……くそっ……! うらやましぃぃ~~~! なんであんな野郎が……!」
仲間たちもやっかんでいる。
「ど……どうせ、金でしょ! 援交ってやつよ!」
「そ……そうだ、あんなさえない野郎を、あんな美少女たちが好きになるわけがないだろ!」
そして「チュキチュキ!」の大合唱とともに、シャッターが切られる。
魔導真写装置の液晶画面をのぞきこんだ若者たちは、そのレアリティを見た瞬間、こんどこそ本当に顎が外れてしまった。
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次の日、オンセントラルの停馬場。馬車に乗り込もうとする俺の前で、身体のやわらかなティフォンが、逆Uの字に折れそうなくらい深々と頭を下げていた。
「ごめん、ユニバスくん!」
「どうしたんだ、急に」
と、俺。顔をあげたティフォンは、もじもじと話し出す。
「これまで会ってきた人間さんはみんな、ユニバスくんのことが嫌いだったから……。あんなふうにユニバスくんを好きになってくれる子たちがいて……嬉しくて……」
昨晩の温泉での出来事を謝っているのだと、俺は察した。
「そういえば、ティフォンはギャルたちと俺がくっつくようにしてくれてたよな」
「うん、嬉しくてついはしゃいじゃった……ごめんね、ユニバスくんは嫌そうにしてたのに……」
俺はティフォンの頭に、ポン、と手を置いた。
「謝ることはないよ。ティフォンは俺の苦手を直そうとしてくれてたんだろ? むしろ、俺がティフォンにお礼を言わなきゃな」
俺はティフォンをまっすぐ見つめた。
「ありがとう、ティフォン」
頭を撫でると、ティフォンの頬はポッと赤くなる。
「エヘヘ……ユニバスくんのナデナデ……温泉と同じくらい気持ちいい……」
ティフォンの両隣に、ひょっこりとガミメスとイズミが現れた。まるで当然のように撫でられ待ちをしている。
「ふたりともありがとうな」
と、俺は両手でガミメスとイズミの頭を撫でる。
「身に余る光栄です……」とイズミ。
「まったく、世話が焼けるんだから」とガミメス。
俺はしみじみと言った。
「もっと、人間とコミュニケーションする練習をしないとな……」
と、背後から声がかかった。
「ユニバスさん!」
その声だけで、俺はビクッとなる。おそるおそる振り返ると、そこにはミドリがいた。
遠目には『ポーキュパイン魔導女学院』の馬車が複数停まっていて、まわりでは女生徒たちが出発の準備をしている。どうやら彼女たちも発つようだ。
「ちょっと、話があんだけど。できれば、ふたりっきりで」
ミドリは親指で背後の物陰を示し、『ちょっと付き合って』とばかりのポーズで言った。
俺はミドリに連れられ、停馬場の人気の無いところへ向かう。
――1対1でギャルと話すなんて……。
勇者パーティでオンザビーチと話したとき以来かもしれない……。
俺がミドリと目すら合わせられずにうつむいていると、ミドリは気にせず話しはじめた。
「いろいろありがとう、ユニバスさん。昨日の夜とかマジで超楽しかったよ。それにティフォンが言ってた意味がわかったよ」
ティフォンと聞いて、俺は思わず顔をあげた。
「ティフォンが言ってたんだ。ユニバスさんといっしょにいると、どんどん好きになっていくって。これ以上好きになれないと思ってても、ますます好きになって……。まるで底なし沼みたいに終わりがなくて、怖くなる時があるって。このままじゃ、本当にユニバスさんのことしか考えられなくなるんじゃないか、って」
「そんな……」
そんな大げさな、と言いたかったのだが、緊張して言葉が途中までしか出てこなかった。
「どうやらうちも、『ユニバス沼』にハマっちゃったみたい。それが言いたかったんだ」
やおらミドリは片足をあげ、制服のスカートをめくってみせる。
「じゃーん!」
うつむいていた俺は丸出しになったふとももをまともに見てしまった。そこにはなんと、『ユニバス命』のタトゥーが……!
「えええっ!?」
「キミドリのマネしちった! うちにここまでさせたんだから、ちゃんと責任とってよね、ユニバスさん!」
「そ、そんな……!?」
「やっぱりユニバスさんってばかわいい! あはは、冗談だって!」
「な……なんで……」
なんでそんな冗談を、と返したいのに、口がぱくぱくと動くだけだった。
なんとも言えない気分の俺をよそに、ミドリは背を向けて言った。
「でも、これだけは覚えといて! うちら、ぜったいにユニバスさんの彼女になってみせるから!」
俺に向かって、イタズラっぽくペロッと舌を出すミドリ。
「その作戦はすでに始まってるんだから……覚悟しておいて……ネッ!」
ミドリの向こうには、19人のギャルたちが手を振っていた。
「やれやれ……」
どっと疲れて馬車に戻ると、精霊姫たちが改造制服を着て、『顔飛ばし合戦』で遊んでいた。
「このお子ちゃまがぁぁぁーーーーっ! ちっとはわたしと仲良くしろや、おらぁぁぁぁーーーーっ!」
と、顔と声で威圧するティフォン。
「誰がテメェみたいな、頭空っぽのチャランポラン精霊と仲良くするかぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!」
負けじとやりかえすガミメス。
ふたりは、次にイズミのほうを見た。
「イズミちゃんの番だよ」「なにボーッとしてんの?」
イズミはおずおずと言う。
「あの……怖い顔をすれば、よろしいのでしょうか……?」
「そうだよ、はやくはやく!」「ざぁこ、さっさとしなよ!」
俺の位置からはイズミの背中しか見えなかったが、イズミがその『怖い顔』をした瞬間、ティフォンとガミメスは恐怖のあまり髪の毛を逆立てた。
次の瞬間には「ひいいいっ!?」と抱きあっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから俺たちは、ようやくオンセントラルを出発した。
町を出て走っていると、遠方にずらっと並ぶ特攻服の面々が見えた。
俺たちの姿を認めると、みな手を振ってくる。その中心にいたキミドリが叫んだ。
「ユニバス様! ありがとうございましたーっ! これから私たちは温泉と、ユニバス様の素晴らしさを広めるために……このオンセントラルをシメてまいりまーーーっす!!」
ザッ! とキミドリ以外の者が背中を向けると、その背中には『湯煮刃棲Z會』の文字が。
俺はまたしても複雑な気分だったが、ティフォンは大喜び。御者席から立ちあがって、両手を振り返していた。
「またねっ、キミドリちゃーーーんっ! ユニバスくんのために、いっしょにがんばろーーーーっ!」
最後は精霊姫とキミドリたちが「えい、えい、おーっ!」と拳を振り上げていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからさらに数日後。
馬車のなかで俺が朝の支度をしていると、「ユニバスくん、見て見て!」と、新聞を手にしたティフォンと、イズミとガミメスが飛び込んできた。
「なんだ? 今日の四コママンガはそんなに面白かったのか?」
「そうそう……って、違うよ! 何度も言わせないで! わたしだって新聞くらい読むんだから!」
「ざぁこ、今日は四コママンガが休みで、しょぼくれてたクセに」
「だから記事が目に入ったんだよ! こういうのってなんていうの? 『ケガの肛門』だっけ? うわっ、お尻をケガするのって痛そう~! 考えただけで、お尻がムズムズするぅ~!」
「なにか見せたいんじゃなかったのか?」
「あっ、そうだった! これ見て!」
差し出された新聞の一面には、見覚えのある面々……ポーキュパイン魔導女学院のギャル20人が写っていた。
見出しにはデカデカと、こうある。
『ユニバス★LOVE』デビュー! ポーキュパイン女学院発のアイドルユニット!
ギャルたちは、『ポーキュパイン魔導女学院』の制服をアレンジしたアイドル衣装に身を包み、お揃いの片脚立ちのポーズで太ももを露わにしていた。
その太ももにはどれも、『ユニバス命』のタトゥーが……!
俺のなかで、なにかがボンッと爆発した。
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
















