71 みんなで温泉2
精霊のキミドリだけならば、いっしょに温泉に入るのは問題なかった。
即答レベルですらあるのだが、人間のミドリまでいっしょとなると話は別だった。
俺の額に浮かんだ汗が、タラリと落ちる。
人間のギャルといっしょに混浴……!? 考えただけで恐ろしい……!
冬の海で、貧乏神といっしょに泳ぐほうがマシだ……!
震えあがる内心は、ひとりでに唇をも震わせていた。
「わ……わかった……!」
そう、断れるはずもない。
「お……温泉は……みんなで入ったほうが……楽しいから……!」
ミドリが「みんな、いいってー!」と呼びかける。
すると「やったー!」という黄色い歓声が全方位からあがり、木陰から大勢のギャルたちが出てきた。
かつてクエストに同行したギャルたち、総勢20人。
しかもバスタオル一枚という刺激的な格好で。
「えっ……!?」
ムチムチの身体が包囲網のように迫ってくる。
男なら大喜びの光景なのだろうが、俺は死神の群れに囲まれたような気分だった。
温泉に浸かっているというのに、震えが止まらない。
いまにも凍りついてしまいそうだった。
そんな俺を見かねて、ミドリが言った。
「もー、そんなに嫌がんなくてもいいじゃん!」
「そうそう!」とギャルたち。
「うちらと混浴なんて、大金を積んでもできないことなんだよ!?」
「百万¥やるからお茶してくれっていうオヤジ、いっぱいいるんだから!」
「一千万貰ってもヤだけど、ユニバスさんならタダでオッケー!」
「そうそう! せっかくだから、もっと楽しもうよぉ! 王様ゲームとかやっちゃう?」
「やろやろ! ユニバスさんがずーっと王様ね!」
グイグイくるギャルたちに、俺はすっかりシオシオだった。
「まあまあ」とティフォン。
「ユニバスくんは精霊とモンスターには強いけど、人間にはメチャクチャ弱いから! まずは離れて、少しずつ慣らしてこう、ねっ!」
というわけで、湯船の中心には俺。
その俺にくっつく精霊姫。温泉の外周にはギャルたち、という配置で楽しむことになった。
それでも生きた心地はしなかったが、ティフォンたちが楽しそうにしているので、まぁいいか、と思う。
「♪温泉良いと~こ~いちど~は~おいで~ ♪お湯の中に~も~花が~咲くよ~」
ティフォンが歌い出し、地元の精霊でもあるキミドリもそれに乗っかる。
最後はミドリたちギャルも加わって、大合唱になった。
ミドリたちの歌声は、気が気でない俺もハッとなるほどの美声だった。
「すごいすごい! みんな歌が上手だね!」とティフォン。
「当然っしょ」とドヤ顔のミドリ。「うちらガッコじゃ歌唱部に入ってるんだから」
歌というのは魔力を込めることで、聴く者に勇気を与えたり、恐怖を与えたりできる。
仲間を鼓舞したり、敵を追い払ったりするのに使うんだ。
歌は魔導女にとってのもうひとつの武器でもあるから、魔導女学院では必修科目になっている。
好きな異性の気を引くときにも使うらしいけど……。
と、そんなことを考えていると、ミドリが替え歌を歌いはじめた。
「♪ユニバス良い男~みんな~が~大好き~! ♪いっしょにいると~笑顔が~咲くよ!」
ギョッとする俺をよそに、ギャルたちだけでなく精霊姫たちもその替え歌に乗っかる。
「あっ、見て! 温泉の精霊さんたちが、いっぱい!」
まるで、その歌に誘われるように、森のあちこちから温泉の精霊が飛んできて、歌にあわせて踊りはじめた。
するとお湯が虹色に輝きだし、泡とともに美しい花のつぼみが浮かんできて、パアッと咲く。蓮の花のような見た目だった。
一同の顔が「わぁ……!」と華やいだ。
「これは、『湯の花』……!」
俺は思わず声をあげた。
「珍しいものなの?」とティフォン。
「珍しいなんてもんじゃない……! 伝説の秘湯にのみ咲くと言われた、幻の花だ……! しかも、こんなにいっぱい咲くなんて……!」
あたりは花畑のようになっている。
生きた心地がしなかった俺も、このときばかりはそれを忘れて興奮気味に両手で花をすくいあげていた。
「この花は硫黄や鉄やケイ素が濃縮されたもので、錬金術の貴重な素材なんだ」
俺は顔をあげて、温泉の精霊に尋ねた。
「もらってもいいか?」
すると温泉の精霊たちは空中で「OK!」と人文字を描き、ニコッと満面の笑顔を向けてくれた。
「ありがとう」
礼を言ってから、ふとギャルたちの視線に気づく。
俺は悩むようにうつむいて、しばらく考えたあと……。
「き……キミたちも……あ……ありが……とう……」
我ながら、初めてお礼を言う子供のようなぎこちなさだった。
それでもどうにか言葉にすると、まわりで見ていた精霊姫やギャルたちは、
……キューン!
となっていた。
「かっ……かわぃぃぃーーーーっ!」と抱きつくティフォン。
「お……おかわいらしいですっ!」とイズミ。
「ずるいユニバス様! かっこいいうえにかわいいなんて!」とガミメス。
ミドリは感極まって「超やばぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」と、俺に抱きついてくる。
俺はビクッ! として飛び退こうとするが、精霊姫たちに抱きつかれているのでままならない。
ミドリはここぞとばかりに俺の腕を取り、バスタオルごしの身体を押し当てるように抱きついてきた。
「ユニバスさんに感謝されるなんて、夢みたい! ガチのマジでありえないんですけど! そうだ、記念チュキしよっ!」
ミドリが魔導真写装置を取り出す。
「チュキって?」とティフォン。
「チュキ知んないの? いま流行ってんだよ。『チュキチュキ!』って言いながらコレで自撮りすると、相性度がわかるし!」
「へぇ、おもしろそう! 撮ろう撮ろう!」
「ざぁこ、くだらない」と、そっぽを向くガミメス。
ミドリは魔導装置を持った手を高く上げ、自撮りポーズを取る。
そしてティフォンといっしょに俺に頬を寄せてくる。俺がのけぞって逃げようとしたところを、すかさず、
「「チュキチュキ!」」
と、ハモるミドリとティフォン。
後ろからは恥ずかしそうに「ちゅきちゅき」とつぶやくイズミとキミドリ。
そっぽを向いていたガミメスも、気になるのか横目でファインダーを見ていた。
地の精霊と温泉の精霊も、ちゃっかりファインダーに入ってきている。
……パシャッ!
シャッターが切られたあと、魔導真写装置の液晶画面に、トレーディングカード風に加工された真写が現れた。
フレームにはレアリティの表示があり、その横にはなぜか鬼の顔があしらわれている。
見たとたん、ミドリは「ヤバっ」と口に出していた。
「え……『SMGOYSLLGR』じゃん!?」
「なにそれ」とティフォン。
「『シークレット・マジ神・鬼ヤバ・超絶ラブラブ・激烈レア』だよ! 別名『鬼合い』って言われてる、幻のレアリティだよ!」
「やったーっ! ユニバスくん、わたしたち鬼合いだって!」
と、俺に抱きつくティフォン。
「みんなも撮ろうよ!」
というティフォンの合図で、大撮影会が始まった。
ギャルひとりと俺、そして精霊姫たち、という構図で次々に写真が撮られる。
すべてが『鬼合い』で、俺とガミメス以外の面々は大盛り上がりだった。
















