↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
155/160

51 パイススの村1

 すっかり元気を取り戻したイズミも加わり、久々に4人パーティがそろった馬車で、俺たちは田園地帯を進んでいた。


 昨晩このあたりは雨が降っていたらしく、あぜ道はぬかるんで、あちこちに水たまりができている。

 あぜ道の両脇には田畑が広がっていた。だが、普通の田畑ではない。赤、黄色、緑と、色とりどりの葉が風に揺れている。


 朝露に濡れてキラキラと光るその姿は、花とはまた違う趣の美しさで、ティフォンとイズミは目を輝かせていた。


「わぁ……! 色とりどりの葉っぱ! きれーい!」


「はい、とてもお美しいです!」


 しかしガミメスだけは鼻を鳴らしていた。


「ざぁこ、ただの草になに感動してんだか」


「でもキレイだよ! ニオイもいいし! みんなで深呼吸してみようよ!」


 すぅーっと、大きく息を吸うティフォンとイズミ。ガミメスもこっそり深呼吸している。


「なんだか、ほぐれるぅ~!」


「はい、癒やされますぅ」


「ふぅん、悪くないじゃん」


 ティフォンとイズミは夢見るような顔になり、ガミメスも満更でもなさそうだった。


「なんか、ユニバスくんのこと思い出してきた!」


「はい! どれも、真珠のようにステキな思い出です!」


「今夜はいい夢見れそう!」


 と思ったら、急に具合の悪そうな顔になる。


「うわっ、勇者のことまで思い出しちゃった……!」


「はい……どれも、黒い虫様のように嫌な思い出です……」


「今夜は悪夢だ……」


「ねぇ、ユニバスくん」


 ティフォンが不安そうに俺へすがってきた。


「なんだか急に、いろんなことが頭に浮かんできたの! どうしちゃったんだろう?」


「まわりに生えてるハーブのせいだな」


「それ、知ってる! 楽器だよね!」


 ティフォンのボケに、ガミメスが横から口を挟む。


「ざぁこ、それはハープ」


「ハーブは植物の一種さ。いろんな薬効があるんだけど、香りには記憶を呼びさます作用があるんだ」


「へぇ……!」


 精霊姫たちは感心した様子だ。


「みんな、ハーブを嗅ぐのは初めてみたいだな。ここは木の精霊たちが住んでいる『パイススの村』といって、ハーブとスパイスの名産地なんだ。ハーブは他の地域でも作ってる所があるけど、スパイスは近隣諸国を見渡しても、ここが唯一の生産地なんだ」


「ふぅん。じゃあハーブがたくさんあるんだね! ユニバスくんの思い出で頭の中がいっぱいになるように、たくさん嗅ごっと!」


 小鼻をひくひくさせていたティフォンのお腹が鳴った。


「すごく、いいニオイがする……! なんだかお腹が空いてきちゃった……!」


「これはカレーのニオイだな」


 我ながら、いつになく声が弾むのを感じた。


「「「カレー?」」」


「カレーは貴重なスパイスが原料だから、珍しい食べものとされている。でも、スパイスの名産地であるこの村では、カレーが名物なんだ。実際に食べられると思うぞ」


「ユニバスくんはカレーを食べたことあるの?」


「ああ、大好きな食べ物さ。実をいうと俺も、カレーの匂いを嗅いでハラペコなんだ」


 ティフォンはみんなでいっしょに同じものを見て笑ったり、同じものを食べて満腹になったり、そんなふうに感覚を分かち合うのが大好きだ。

 その俺が腹を空かせていると知って、彼女は大喜びだった。


「ほんとに!? なら、わたしもたべたーい!」


 諸手をあげるティフォン。イズミも両手を合わせて嬉しそうにしている。ガミメスは「やれやれ」といった表情だ。


「パイススで、カレーをいっパイススろーっ!」


 ティフォンはそんな言葉遊びまで飛び出すほど浮かれていた。


 浮かれ気分のまま、俺たちは香ばしい匂いと歓声に誘われて、村の広場へ足を踏み入れた。

 村はちょうど『カレー祭』なるものの真っ最中だった。


 祭といえば、楽しげな響きがあるが……。

 だが広場に広がっていたのは、傍から見れば地獄絵図としか言いようのない光景だった。


 村の広場には、ピラミッド状の巨大な木造のやぐらがそびえていた。

 その頂点には黄金に輝く調理場がしつらえられ、太っちょの男が料理をしている。


 男は上半身裸で、下半身は異国風の腰布をまとっていた。胸にはデカデカと『KING』の刺青が彫られている。

 無毛の頭に載っているのは、独特の意匠の調理帽。布製でありながら、王冠のような形をしていた。


 その男の名なのだろう、やぐらの最下層からは「カレーキング様! カレーキング様!」と崇めるような声があがっている。

 やぐらのまわりには、そのカレーキングの石像がいくつも建っていた。


 やぐらは階段状になっていて、それぞれの段が宴の場のようになっている。

 その眺めはまるで社会の縮図だった。カレーキングのいる調理場を頂点として、そのひとつ下の段には、上流階級の人間たち。


 立派な身なりで豪華なテーブルや椅子に着き、給仕にかしずかれている。

 さらにひとつ下の段には中流階級の人間たち。そこそこ身なりのいい家族連れがテーブルに座っていた。


 そしていちばん下の最下層にいるのは、木の精霊たちだった。みな貧しい身なりで、やぐらに乗ることも許されず、地べたに敷いたゴザに正座している。

 最下層の精霊たちだけがひれ伏し、「偉大なるカレーキング様! どうかカレーをお恵みください!」と雨乞いでもするように頂上へ祈っていた。


 頂上ではカレーキングがカレーを作っているようだったが、その調理風景は極秘なのか、囲いに隠されて見えない。

 カレーキングから少し離れた所に、炎の精霊の少女がいた。


 年の頃は14、5ほど。褐色の肌に、首には奴隷の首輪をはめている。

 短く切りそろえた髪に調理帽を被り、調理服をまとっていた。


 彼女はカレーキングの助手のようで、手際よくカレーの材料の野菜を刻んでいる。


「カレイラ、玉ねぎ!」


 カレーキングが少女へ命じた。


「はい、カレーキング様!」


 カレイラと呼ばれた少女は、黄金の器に山と盛った玉ねぎをカレーキングのもとへ運んだ。

 だが、「遅いっ!」と前蹴りを食らわされ、吹き飛ばされてしまう。


 それでもカレイラは、文句ひとつ言わず下ごしらえを再開した。

 その光景に、ティフォンの顔から浮かれた色がすっと消えた。ガミメスも、めずらしく茶々を入れず黙り込んでいる。


 玉ねぎを、『KING』の文字が刻まれた黄金の寸胴鍋へ加えるカレーキング。そのまわりには、3体のスパイスの精霊たちがいた。

 クミンの精霊、コリアンダーの精霊、ターメリックの精霊。


 スパイスの精霊たちは、手のひらに乗るほど小柄だった。それぞれ、自分のスパイスの花をかたどった衣をまとっている。


 カレーキングは寸胴鍋をかき混ぜていたが、スパイスの精霊たちはその鍋へ向かって、「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ」とでもいうように、念を送っているようだった。

 一生懸命やっているのに、カレーキングは「もっとです!」と怒鳴りつけ、時折、スパイスの精霊たちをパーン! と叩く。


 叩かれた精霊たちは吹っ飛ばされるが、健気に戻ってきては、また念を送り続けていた。

 同じ精霊が虐げられる姿に、イズミが痛ましげに目を伏せる。


 やがてカレーキングは、「おつカレー……!」と満を持したように言って、寸胴鍋を混ぜる手を止めた。

 そして両手を広げ、下々の者へ向けて仰々しく声を張り上げる。


「高貴なる者のみが作ることを許された、尊貴(そんき)なる食べ物……! その名は、カレー……! カレーの第一人者であるこのカレーキングが作ったカレーは、神の彫刻にも等しいのです……! 普段は上級貴族にしか(きょう)されぬものでありますが、本日は『カレー祭』……! 王宮料理人待ったなしの、このカレーキングのカレーを口にできる、一年に一度の機会であります……! さぁ、存分に味わいなさい、下々の者よ……! そして、よりいっそう、ひれ伏すがよいでしょう……!」


 やぐらから歓声が湧き起こる。最下層の者たちは、示し合わせたように一斉に「ははーっ!」とひれ伏した。

 俺は思わず眉をひそめた。だが、やぐらじゅうはカレーキングの演説に酔いしれ、誰ひとり疑う様子もない。


 やぐらの中央には、階段に沿って軌道が敷かれていて、その上には、装飾をほどこした大きな配膳台が乗っている。

 配膳台の上には、カレーキングの作ったカレー、ナン、副菜やあえもの、甘味などが所狭しと並んでいた。


 キラキラと輝くほどのごちそうだ。配膳台は、軌道に沿ってやぐらを降りていく。


 配膳台はまず、上流階級の者たちの段で止まった。さっそく給仕たちが、できたてのカレーとナンを台から取り、テーブルへ運ぶ。

 上流階級の者たちは、まだ湯気の立つそれを頬張った。中流階級の者たちと最下層の者たちは、羨ましそうにそれを見ている。


 食べ残しは、給仕たちの手で配膳台へ戻される。台にはまだ、手付かずの料理も残っていた。


 配膳台は次に、中流階級の者たちの高さまで降りていく。

 中流階級の者たちはテーブルから立ち、取り放題の料理を奪い合うように、手付かずのカレーやナン、副菜を取ってはテーブルで食べ始めた。


 この時点で、手付かずの料理はすべて無くなってしまった。


 いかにも金持ちの坊ちゃんといった風の、めかしこんだ太っちょの子供が、最下層の子供たちへ見せびらかすように、片手にナン、片手に大きな果実を持って、交互にかぶりついている。

 最下層の子供たちは、「いいなぁ……」と物欲しそうに眺めていた。


 太っちょの子供はカレーを完食すると、ほんの少しこびりついただけの皿を配膳台へ戻し、皮だけになった果実と、端っこだけのナンを、皿めがけて投げ捨てた。

 それでも最下層の子供たちは、「やった、今年はナンが食べられる……!」と目を輝かせている。だが太っちょの子供は意地悪く笑うと、その皿へ「ぺっ!」とツバを吐きかけた。


 そして、配膳台はついに、やぐらの最下層へ。頂上を出発した時には豪華だった料理も、いまや見る影もない。もはや完全な残飯だった。

 それでも最下層の者たちは亡者のように群がり、カレーのこびりついた皿を舐めていた。


 あれほど「カレーを食べたい」とはしゃいでいたティフォンは、もう一言も発しない。その顔からは、食欲のかけらも消え失せていた。

 俺だって同じだ。大好物のはずのカレーが、精霊をいたぶる道具に使われている。その事実が、胸の底に重くわだかまった。


 彼らは泣いていた。悔しくて泣いているのではない。嬉し泣きだった。


「ああっ、これがカレー……! うまい……! なんてうまいんだ……!」


「今年もカレーが食べられて、ワシらは幸せじゃぁ……!」


「これでまた明日から、スパイス作りにがんばれる……!」


「カレーキング様……! ありがたや、ありがたや……!」


 どうやら、この最下層の精霊たちだけが『パイススの村』の村人で、上流や中流の者たちは、村の外からやってきた裕福な人間たちのようだった。

 食べ残しを有り難がる精霊の哀れな姿を、人間たちは天上人のように眺めては笑っている。


 そう。このやぐらは、社会の縮図などという生やさしいものではなかった。

 この世界で、いままさに行なわれていること……『人間によって搾取される精霊』を、見世物にしていたのだ。


 祭のなかで振る舞われる料理を通して、理不尽なまでの精霊の扱いを、誇らしげに見せつけている。

 その一部始終を、俺たちはただ、ドン引きで見ていることしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス8巻、発売中です!
jzdd8ckk7fea69814ryt33k63xbn_1bko_ak_f0_72ar.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス発売中です!
ix0s40e57qxt33v43hvp6sa1b4tq_d3j_7n_53_a06.jpg liv1nc3gnnsjqxl9i33inre6rpy_nnp_3j_53_10vx.jpg 7torhnt1466d5k1v1a0yhxkg3yud_dnb_3k_53_15d4.jpg 3780l3ki5oa0e7a3cwgaa107gtbm_104l_3l_53_1547.jpg c2km7fnbuyxf9i1h9909diq55m1_313_3l_53_14fd.jpg d0t94jt64sntm8ydcomjfloiebe2_krf_3l_53_14k8.jpg bn203zyneufhihaxh3rm6a6whu7b_arg_3j_50_14h0.jpg pxge9z573sif3otl0s0ivqy5m9q_wtz_3j_50_12ek.jpg kg6xm9a17367i7n22p3heo5ckx4n_gla_3j_50_13j1.jpg
▼小説2巻、発売中です!
4qal7ucn4ecv3bmwhixjlinz1h24_1aru_3l_53_12uj.jpg ah438036f57n9yf3bm6i65zrj1za_pfu_3l_53_13p3.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。