47 精霊の隠れ里5
村人全員に見送られて、俺たちは村を出る。
フラウワの傍らには、ラニとラギがいた。
「また来てね、ユニバス様!」
元気に手を振るラギ。その隣でラニは、人見知りの子供のようにフラウワのスカートの裾をつまんで、もじもじと恥ずかしそうに口をぱくぱくさせている。
「またね!」
ティフォンも笑って手を振る。ガミメスはといえば、特に興味もなさそうにそっぽを向いていた。
フラウワは、憑きものが取れた……いや、新たな憑きものが憑いたような顔で、俺に言った。
「ありがとうございました、ユニバス様。おかげで、目が覚めました。ユニバス様の教えにならい、この村を外へ開いてゆきます。訪れる者はみな歓迎し……人間と精霊の、笑顔があふれる村にしてみせます!」
その晴れ晴れとした表情に、俺は考えすぎだったかな、と思いなおす。
邪教の集落みたいな村だったけど……もう、大丈夫かな。
「ああ。いつかまた、遊びに来るよ」
村人たちに手を振られ、こちらも振り返しながら、村をあとにする。
村と森の境目のような獣道に入り、少し歩くだけで、馬車を停めた通りに出た。
「ああっ、一時はどうなることかと思ったけど、無事に戻れてよかった! ただいまーっ、トランスくん! 地の精霊さん!」
トランスに頬ずりするティフォン。その上にいた地の精霊たちは、「ワーッ!」と逃げていく。
俺は精霊姫たちに尋ねた。
「どうする? 馬車の中で、ひと休みするか?」
ガミメスは気だるげに伸びをする。
「もうこの森、飽きちゃった。まだ朝だし、このまま出発しようよ」
トランスの首をなでながら、ティフォンの声が弾んだ。
「さんせーっ! トランスくんも走りたそうな顔してるよ!」
「よし、じゃあいくか」
「やったーっ! トランスくんに乗って、トンズラしよーっ!」
そうして意気揚々と出発した一同だったが、ティフォンは早々に俺の肩へ寄りかかり、「くかーっ」と寝てしまった。
「ねぇねぇ、ユニバス様」
小声で呼びかけてくるガミメス。
「ん?」
俺はトランスの手綱を操りながら、目くらましの薬を頬に塗っていた。
「あんな危ない目にあったんだから、もうソレ、やめちゃったら?」
「いや、むしろ塗っててよかったと思う」
「えっ? 殺されかけたのに?」
「そうだけど……。もし俺が、ユニバスだとわかる状態であの村に行ってたら、彼らの本来の暮らし……人間を苗床にしていることに、気づけなかったと思う」
「ざぁこ、そんなの別にいいじゃん」
「いや、あんなことを続けていたら、彼らのためにならない。止められてよかったと思うよ」
「止められてよかった、ねぇ……」
ガミメスは、ふと言葉を切った。
「……あ。そういえば捕まったとき、あたしがヤキトリで攻撃しようとしたのに、どうして止めたの?」
「ヤキトリで村を火の海にすれば、あの場は助かったかもしれない。でも、炎の精霊姫であるキミが、木の精霊のお膝元の国で破壊行為をしたなんてバレたら、外交問題に発展しかねないだろう?」
「そうだけど……。あたしが地図を見せるのを思いついたからよかったものの、あのままだったら死んでたんだよ?」
不意に、ガミメスが抱きついてきた。俺の服をきゅっと掴み、胸に顔を埋める。
「あのクソザコ勇者から、ユニバス様が死んだって聞かされて……! どんだけ泣いたか……! それなのに、また泣かせるつもり……!? バカッ……! ユニバス様のバカッ……!」
そんなに心配をかけていたのか。
「すまなかった、ガミメス」
俺はガミメスの頭を、やさしく撫でる。
すると、ガミメスの髪からヤキトリの顔がにょきっと飛び出し、俺の頬にスリスリしてきた。
「ヤキトリも、ありがとうな」
馬車はどこまでも続く森を、ひたすら進んでいく。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからしばらくしてのこと。
ワッサーの手下だった猟師たちが、村へとたどり着いていた。
「こ……ここが、精霊の隠れ里か……!」
「や……やっと、見つけたぜぇ……!」
「すげぇ、見ろよ! 花だらけだぜ!」
「精霊もウジャウジャいやがる! 入れ食いだ!」
「ワッサーの野郎はもういねぇ。俺たちで、全部もらっちまおうぜ!」
「げっへっへっへっへ……!」
棍棒を手に、ならず者よろしく村へ迫る猟師たち。
村の入口、『ユニバス・カントリー』と記された看板が掲げられたアーチをくぐると、そこには笑顔があふれていた。
村の中心には、両手を広げて満面の笑みを浮かべるユニバス像。村人たちも、笑顔が絶えない。
よく見れば、精霊だけでなく人間たちもいる。その人間たちは男も女も、みな一様に大輪の花飾りを頭に付けていた。
フラウワは猟師たちに気づくと、さっそくニコニコと寄っていく。
「ようこそ、私は村長のフラウワ。ここはユニバス様を祀る、精霊と人間の村です。ユニバス様と同じ人間の方は大歓迎ですよ。歓迎の証として、これをどうぞ」
あれよあれよという間に、猟師たちのまわりを精霊の美女たちが取り囲む。デレデレと鼻の下を伸ばす猟師たちの頭に、大輪の花飾りが付けられていく。
「今日は私たちが出会った記念すべき日。さっそく宴を行ないましょう」
フラウワは猟師たちを村の広場へと案内する。
その後ろをついていきながら、猟師たちはヒソヒソと囁きあった。
「まさかこんなに歓迎されるとはな。どうするよ?」
「なーに、せいぜい楽しんでやろうじゃねぇか」
「そうそう、さんざん飲んで食ったあとで、お楽しみってやつだ」
「ぐふふ……村長は、特にいい女だよなぁ……!」
「あの女神様みてぇな笑顔が、恐怖にひきつるのを想像したら……たまんねぇぜ……!」
広場には、すでに宴の支度が整えられている。
フラウワはくるりと振り返る。そして、はちきれんばかりの、よりいっそうの笑顔を浮かべる。
「さぁ、楽しい宴のはじまりです。これが終わる頃には、きっとあなたたちは、心の底から笑顔になり……。私たちの友達……『ユニバス・フレンズ』に、なっていることでしょう……!」
















