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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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46 精霊の隠れ里4

 ガミメスは叫んでいなかった。

 かわりに、両手を押さえつけられ、自由のきかない身体を半狂乱でよじらせている。


「むぎぎぎ……!」


 口で、半袖の中に隠していたあるものを引きずり出し、ぺっ! とティフォンへ向かって吐き出した。


「これは……!?」


 目を白黒させるティフォンに、ガミメスが叫ぶ。


「いいから飛ばして!」


 ティフォンは風を起こし、その紙片をフラウワめがけて飛ばす。

 フラウワは最後の合図として、杖を舞台へ叩きつけようとしていた。だがその寸前、紙片がぺったりと顔に貼りついた。


「うぷっ!? この期に及んで、無駄なあがきを……!」


 いまいましげに紙片を剥がすフラウワ。


「ふん、地図か」


 一瞥のもとに投げ捨てようとして、我が目を疑うように二度見する。その瞳がみるみる丸く見開かれていく。


「ば……ばかなっ!?」


 フラウワは食らいつくように、地図を顔へ近づけた。


「ゆ……ユニバス岬っ……!? ここは、フロウラ岬だったはずでは……!? それに、ユニバス島に、ユニバス村まで……!?」


 遅ればせながら気づいたティフォンが、祈りを込めるようにして叫ぶ。


「これでわかったでしょう!? ユニバスくんのすごさは、人間さんたちの世界にも、少しずつ広まってるの! だから隠れたりしないで、堂々と信仰していいんだよ!」


「そ……そんな……! そんな……!」


 フラウワはガクガクと震えだし、そのまま、へなへなと舞台にぺたりと崩れ落ちる。


「あ……ああ……! ユニバス様が世界に認められたのが、こんなにも嬉しいことだとは……! 私たちの村が、世界で初めての『ユニバス村』ではなかったのが、こんなにも悔しいなんて……!」


 その頬は滝のような涙でしとどに濡れていた。


「ああっ、ああっ、あああっ……! いま私の右目からは嬉し涙が、左目からは悔し涙が流れている……! こんなにも複雑で、胸が張り裂けそうな涙を流したのは、生まれて初めてのことだ……!」


 フラウワは精霊姫たちに泣きすがった。


「たのむ、たのむ……! このままでは私は、どうにかなってしまう……! どうか、ウソだと言っておくれ……! どうか、どうか……! ウソでもいいから、ウソだと言ってほしい……! この血のように流れる涙を、止めておくれ……!」


 村人たちはみな唖然としている。精霊姫を押さえつけていた村人も、ユニバスを抱えていた村人たちも、手にした相手を忘れたように立ちつくすばかりだ。

 その手の力が緩んだ瞬間、ティフォンとガミメスは同時に飛び出していた。


「ええいっ!」


 飛べるぶん、ティフォンのほうが速い。風を起こし、ユニバスを捕まえていた村人を吹き飛ばす。

 よろめいて穴に落ちかけたユニバスを、すんでのところで抱きとめた。


 そしてティフォンは、目にも見よと言わんばかりに、村人たちへ向けて声を張りあげる。


「このお顔が……目に入らぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」


 続けざまに、ティフォンがユニバスの頬の傷跡にキスをする。ガミメスも、反対側の頬にキスをした。

 ティフォンのキス、その唾液によって、傷跡が消え去っていく。目くらましの効果が切れたその途端。


 ……ズガァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!


 そんな擬音が聞こえてきそうなほどの衝撃波が、ユニバスを中心に広がった。

 同時に、ユニバスを覆っていた花がいっせいに爆散した。取り憑いた相手が本物のユニバスだと知った花の精霊たちが、衝撃のあまり飛び退いたのだ。


 フラウワをはじめとする村人たちは、その爆風を浴びたように、次々とひっくり返った。


「まっ……! まままっ……! ままままま……! まさかっ……!」


 この世の終わりのような顔で慌てふためくフラウワへ、ティフォンとガミメスが言い放つ。


「ここにいるのが……正真、正銘、絶対、本物の……!」「まぎれもない、ホンモノのユニバス様だっつーのっ!」


「はっ……ははぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」


 周囲の村人たちが、いっせいにひれ伏す。しかしフラウワだけは、なおも腰を抜かしたままだ。


「あ……ああっ……! あああっ! わ……私は……とんでもないことを……! ユニバス様を、殺めようとしていたなんて……!」


 精神が崩壊したかのように顔を押さえ、フラウワは大絶叫する。その涙はもはや血と化していた。


「あああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 フラウワが落ち着くまでには、しばらくかかった。

 やがて彼女を筆頭に、村人たちは全員が整列し、ユニバスへ向かって土下座する。


 ユニバスは舞台の上で、ティフォンとガミメスに支えられたまま、王のようないでたちでその様子を見下ろしていた。

 フラウワは顔をあげもせず、花のじゅうたんに額を埋めたまま言う。


「本物のユニバス様だとつゆ知らず、たいへんな無礼を働いてしまいました。これは、命をもってしても償えるものではありません」


 ユニバスは気にしていない。それでも、真面目な面持ちで言った。


「いや、気にしなくていい。目くらましの薬を使っていたんだ。俺だとわからなかったのは、当然のことだから」


「そういうわけにはまいりません。私はすべての精霊に、顔向けできないことをするところでした。よって、私たちは花になります。この地に生き埋めとなり、永遠の苦痛をもって、ユニバス様への無礼を償い続けます」


「そんなことはしなくていい。キミらはキミらなりに、精霊たちのことを思ってこの村を作ってくれたんだろう? だから俺は、キミたちを責めたりしない。この村で、これからも平和に暮らしてほしい」


「おお……! なんという、もったいなきお言葉……!」


「ただ、ふたつほどお願いがあるんだ」


 フラウワが感激に満ちた顔をあげる。


「はい、なんなりと……! ユニバス様のご神命とあらば……!」


「まず、この村にはこれからも、精霊や人間が訪れることがあるだろう。その者たちを花にしたり、耳を奪ったりしないでほしい」


「えっ……? ですが、この地は森から隔絶された空間で、もともとは不毛の地だったのです。苗床がなければ、花はおろか、雑草すら生えません」


 何かに気づいたように、フラウワがハッとなる。


「ユニバス様は、我らに死の大地で反省せよと、おっしゃっているのですね……!」


 フラウワはどうやら極端な考え方をする性格らしい。真面目な顔をしていたユニバスも、これには苦笑いだ。


「いやいや、そうじゃないよ。花は別の手立てで咲かせるといい。俺からタンブルクイーンに頼んで……」


 そう言った直後だった。村を囲む森の向こうから、十体ほどのタンブルウインドが、ぽーん、と飛んでくる。

 ユニバスのまわりをコロコロと転がったあと、走り回ってタネを撒きはじめた。


 その様子を、フラウワや村人たちは目をパチクリさせて見ている。


「これで、もう大丈夫」


 ユニバスは穏やかに告げた。


「人間を苗床にしなくても、ここはちゃんと花咲く地になるはずだ」


「な……なんと……! あの人間嫌いで名高いタンブルクイーンをも従えるとは……! あ……ああっ……! 我らが神よ……!」


 随喜の涙に浸るフラウワへ、ユニバスは少し申し訳なさそうに、それでも言っておかねばと口を開いた。


「それと、もうひとつのお願いなんだけど……俺を神様扱いするのはやめてほしい」


「えっ……!?」


 これには村人全員が顔をあげ、ショックを受けたような表情でユニバスを見た。


「わ……私たちの信仰は、邪悪だと……!?」


「いや、違うよ。俺はみんなと、信者とかじゃなくて、友達として接したいんだ」


「と……ともだち……!?」


「うん。フラウワ、キミが言っていたように、俺は人間の世界では無能だと言われている。人間の友達が、いないから……」


 ユニバスはティフォンとガミメスを残して、舞台から降りる。

 フラウワの前でしゃがみこみ、そっと微笑んだ。


「どうか、なってほしいんだ。ともに笑いあえる、俺の友達に」


 その笑顔はフラウワや村人たちには違って見えていた。後光の差した菩薩のように、まばゆく輝いて見えたのだ。


「お……おおおおっ……!」


 感激に目を見開くフラウワたち。その表情は、初めて殻を破った雛鳥が、親の姿を見た瞬間のよう。

 それは、生き物として絶対の価値観を刻みつけられた顔だった。


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